神秘の島、バリ島の料理に魅せられて
『ワルンバリ』は2019年のオープン。オーナーの雨谷直子さんは以前からバリ島に魅せられ、現地に6年も暮らしていたほど。店名の「ワルン」とは、バリ島では現地の人が気軽に通う大衆食堂のことを指している。
「現地で学んだレシピをもとに、日本人の味覚に合う調味料のバランスを追求しました。スタッフと一品一品何度も、料理によっては数カ月かけて試作を行なってまいりました」と雨谷さんは話す。日本人にインドネシア・バリ料理のおいしさを知ってもらうため、スタッフと長い時間をかけて「日本人の口に合うレシピ」の開発に取り組んできたという。
試作を繰り替えし、生まれた『ワルンバリ』流の味
バリ島の料理はさまざまなスパイスが織りなす、辛さの中にも酸味や甘みが効いた奥深い味が特徴だ。
試行錯誤の上完成したメニューの中でも、チャーハンのようなナシゴレンは自慢の一品。現地では、定番の家庭料理だ。この店のナシゴレンは、ニンニクやナンプラーの香りとスイートチリのピリリとした辛さが食欲をそそる一皿だった。目玉焼きのまろやかな甘さが、辛さを中和してくれるのでご飯と混ぜながら食べたい。
東南アジアの各国料理にも注目!
バリ料理の店としてスタートしたが、今ではベトナム人スタッフと一緒に、広くインドネシアやベトナム、マレーシア、タイなど東南アジアの料理を『ワルンバリ』風のアレンジで提供している。
タイ料理の定番、ガパオライスも『ワルンバリ』では香辛料を控えめにし、ひき肉からあふれ出す肉汁とナンプラーがまろやかに溶け合ったコクうまな味に仕上げている。
ベトナムの米粉の麺料理・フォーに入っているのは、日本ではなじみ深い牛肉や鶏肉ではなく、なんと豚肉を合わせている。
ベトナム出身である店長のタオさんと料理人のダンさんの話によると、「実はベトナムでは、フォーには豚肉を入れる方がポピュラーなんです。飲食店で出るフォーは牛肉や鶏肉のイメージがありますが、ベトナムでは豚肉の方が安いので普通は豚肉が入っています」ということ。
そのためこの店のフォーは、豚骨を八角やシナモンで煮込んでいる。出汁の効いたスープと豚骨のまろやかさが沁みる味だった。鶏肉のように淡泊過ぎないのでランチにちょうどいいボリュームだ。
タイ料理の定番グリーンカレーは、ココナツミルクの甘みと青唐辛子の辛味のバランスがクセになる一品。『ワルンバリ』のグリーンカレーは、鶏肉やナス、タケノコなどの野菜がゴロゴロ入って980円とお得な価格で提供している。
実は隠れ家のような個室や屋上もある!
店内は、駅前の繁華街やバーボンロードの昭和感を忘れさせるような異国の雰囲気。さらに、それぞれのフロアで異なった内装に仕上げている。
1階はバーカウンターと立ち飲み席があるアジアの繁華街風、2階はナチュラルテイストでくつろげる雰囲気。そして4階には革張りのソファ席があるラグジュアリーな雰囲気の個室だ。仲間と一緒にちょっとしたパーティーをしたい時などにおすすめしたい。
さらに暖かい季節には屋上も開放されるので、屋上のテラス席で風を感じながらアジア料理を満喫できる。
雨谷オーナーは、店をオープンするにいたった過去をこう振り返る。
「元々、バーボンロード近くで居酒屋をやっていたんです。夫も、バーボンロードでバーを経営していたんですが、お店が繁盛して手狭になってきたタイミングで、この場所を見つけて『じゃあ、バリ料理店をやってみれば』と夫からの提案もあって始めました」と話す。
続けて、「このバーボンロードは歴史的にも深い通りなんですよ。私たち夫婦もよくお世話になっている一番古いお店のママは、なんと88歳でまだ現役でスナックをやっているんですから!」
バーボンロードとは、東急池上線蒲田駅の高架下に沿って続く、昭和の匂いを色濃く残す飲み屋街だ。細い通りに、立ち飲み屋やバーなど間口の狭い店が立ち並んでいる。
「戦後から続く店舗もあり、皆さんすごく人情に厚くて懐が深いんです。時には厳しさを感じる時もありますが、きちんと節度を守って商売することを大切にしています。うちは今3店舗この通りに出店していますが、やはり街の人たちやお客様に育ててもらったりとお世話になっている感覚がありますね」。昭和の人情が今に息づいている界隈なのだ。
取材・⽂・撮影=新井鏡子 構成=アド・グリーン