都心からおよそ80分 関東にある「氷の絶景」とは?
都心部から特急に乗って約80分。向かったのは埼玉県の秩父市です。駅からバスに乗り換えて山奥へ進むと、道中には所々うっすらと雪が残っている様子が見えました。
秩父といえば長瀞のライン下りや羊山公園の芝桜のほか、人気アニメの舞台としても有名です。そして冬の観光スポットとして知られるのが、冒頭でも書いた「氷の絶景」、強い冷え込みが作り出す氷柱です。
秩父には「秩父三大氷柱」と呼ばれる「三十槌の氷柱(みそつちのつらら)」、「尾ノ内百景氷柱」、「あしがくぼの氷柱」の三つの氷柱スポットがあります。今回、私が向かったのは秩父市大滝にある「三十槌の氷柱」です。
バスを降り立ち見えた景色がこちらです。岩の間から湧き出た水が凍ってできた、見事な氷柱が現れました。
三十槌の氷柱には天然の氷柱と人工の氷柱があり、人の手を加えず岩清水が凍ってできた天然の氷柱は天候や気温などの条件により、毎年姿を変えます。規模は高さ約8メートル、幅約30メートルに及ぶ圧巻の景色です。人工の氷柱は崖に流した水が谷底の強い冷気にさらされることによって生み出されます。
氷柱を生み出すのは盆地ならではの強い冷え込み
氷柱とは水がしたたる時に強い冷え込みによって、棒状に凍って垂れ下がってできる氷の柱のことです。
同じ首都圏エリアにあっても、都心部など沿岸の地域ではめったに見られません。秩父でこうした氷柱が見られるのは、地形に理由があります。
秩父は都心部と同じく太平洋側にあるため、冬は晴れやすく雪の降る量もそれほど多くありません。
しかし、埼玉県西部に位置し山々に囲まれているため、冷たい空気がたまりやすい盆地性の気候をしています。1月の平均最低気温はマイナス3.8℃で、過去最も下がった時にはマイナス15.8℃を記録しました。2023年1月下旬に日本列島に記録的な強さの寒波が襲来したときには、マイナス9.9℃を観測しました。
この盆地ならではの厳しい冷え込みこそが美しい氷柱を作り出しています。気温の変化によって、溶けたり凍ったり繰り返しながら氷柱は成長していきます。
身体も心も熱々にしてくれる秩父名物「みそポテト」
幻想的な風景に見とれて何枚も写真を撮っていましたが、さすがに数十分、冷たい空気の中でいると身体が芯から冷えてきました。
そんな凍えた身体を温めてくれたのが秩父名物の「みそポテト」です。ほんのりと甘い味噌が絡んだ揚げたてのポテトで、身体だけでなく心までホカホカになりました。
みそポテトは秩父のB級グルメとして知られていて、地域に伝わる郷土料理でもあります。古くから畑作が盛んだった秩父では、農作業の合間に収穫したじゃがいものうち、小ぶりなものを囲炉裏で焼いて味噌だれを塗って食べていたそうです。
ライトアップで昼間とは違った表情も楽しめる
さて、ホットなおやつをいただきながら待っていたのは、ライトアップです。青や緑、オレンジ、ピンクと瞬く間に明かりが変わり、昼間とは違った表情を見せてくれます。都会の街中で輝くイルミネーションも素敵ですが、自然の中で楽しめる「天然のイルミネーション」も特別感があり風流です。(※2023年のライトアップは2月23日(木)まで)
本格的な春の前に厳しい寒さが生み出す氷の造形美を見て、残りわずかな冬を満喫するのはいかがでしょうか。
まだまだ冷え込みが続く秩父。氷柱めぐりにはダウンコートやマフラー、帽子などで万全な寒さ対策が欠かせません。また、氷柱のある岩場は滑りやすいため、歩きやすい靴などでお出かけください。(※天候や氷柱の状態により見頃は変わる場合があります。詳しくは観光協会へお問い合わせください。秩父観光なびのホームページから氷柱の様子を確認することもできます。)
参考:一般社団法人 秩父観光協会 http://www.chichibuji.gr.jp/event/turara/
秩父観光なび https://navi.city.chichibu.lg.jp/p_flower/1403/
熊谷地方気象台 https://www.jma-net.go.jp/kumagaya/shosai/chishiki/tokutyou.html
写真・文=片山美紀