美術館も個人商店も入り混じる墨田区

「都内で建築物の用途制限に合う物件が見つからず悩んでいた時、美術館やコーヒーショップ、個人商店が雑多に入り混じる清澄白河の街並みを思い出しました。そこで思い切って東京の東側に目を向けてみたんです」と話すのは、チーフディレクターの岡村さん。商業地域の広い墨田区にフォーカスしたことで、制限を見事にクリアした。

『Stranger』が入るテナントは、地元で長年営業を続けてきた元パチンコ店。天井高4mを超える物件ゆえ、映画館建設に必須の換気設備も設置しやすかったのだとか。

『Stranger』の経営は、岡村さんが代表を務める都内のブランディングデザイン会社。一見「違う畑」の岡村さんだが、デザイン業界に転身する以前は配給会社や映画情報メディア、制作現場まであらゆる映画産業を経験したユニークな経歴の持ち主である。

その経験を生かして、設立にあたっては全国各地、20人以上の映画人にインタビューを敢行。先人たちの知恵も詰まった49席のミニシアターには、ロビーにカフェも併設。お客さんとスタッフが同じ目線で交流できる、フレンドリーな空間を目指す。

『Stranger』が入るのは、新大橋通りと三つ目通りの交差する大通り。
『Stranger』が入るのは、新大橋通りと三つ目通りの交差する大通り。

「さすらう者」が、あえて東京東部に映画館を開く意図とは?

東京のミニシアター事情は「西高東低」と称され、主要な劇場は渋谷や新宿をはじめ、西側に集中している。ミニシアター空白地帯に、あえて切り込む挑戦だ。

劇場名の由来を岡村さんに尋ねてみた。「着想はクリント・イーストウッド監督『荒野のストレンジャー』から(笑)。見知らぬ人、さすらう者を表すのが“stranger”という単語の意味で、僕はそうしたものに出合えるのが映画だと思っています。そしてこの地域になじみのない、僕こそが“ストレンジャー”。いずれはこの街の文化拠点として、根付かせていけたら」。

こけら落としには「J=L・ゴダール 80/90年代 セレクション」を上映(10月6日まで)。日本では上映権利の切れた6作品を独自に買い付けた。10月からはB・クローネンバーグ作品の特集上映など、映画ファン垂涎の企画をたっぷり計画中。こだわりの詰まった東東京の新たな劇場に、ぜひ足を運んでみてほしい。

取材・文=吉岡百合子(編集部) 撮影=加藤雄太

内覧会レポート

待ちに待ったオープン前日。

9月15日に行われた内覧会の様子をお届け!(撮影=編集部)

オープンでフレンドリーな空間

入り口にはブルーが目を引く劇場ロゴが。ガラス張りでオープンな雰囲気はまるでカフェのようだ。劇場内は49席の小さな空間とあなどるなかれ。こだわりの座席と音響設備は体験必至!
入り口にはブルーが目を引く劇場ロゴが。ガラス張りでオープンな雰囲気はまるでカフェのようだ。劇場内は49席の小さな空間とあなどるなかれ。こだわりの座席と音響設備は体験必至!

オリジナルグッズやカフェも充実!

ロゴ入りマグカップやTシャツなど手に取りたくなるオリジナルグッズもロビーで販売。カフェスペースでは本格エスプレッソマシンを使ったコーヒーやラテをはじめ、ビールや軽食も楽しめる。
ロゴ入りマグカップやTシャツなど手に取りたくなるオリジナルグッズもロビーで販売。カフェスペースでは本格エスプレッソマシンを使ったコーヒーやラテをはじめ、ビールや軽食も楽しめる。

こけら落としは「J=L・ゴダール 80/90 年代セレクション」

2022年9月13日に逝去したジャン・リュック・ゴダール。時をほぼ同じくして、ゴダール特集によって新たな劇場が生まれるというのもどこか運命的だ。特集上映に合わせた骨太なオリジナルマガジン『Stranger magazine』も販売中。
2022年9月13日に逝去したジャン・リュック・ゴダール。時をほぼ同じくして、ゴダール特集によって新たな劇場が生まれるというのもどこか運命的だ。特集上映に合わせた骨太なオリジナルマガジン『Stranger magazine』も販売中。
住所:東京都墨田区菊川3-7-1 菊川会館ビル/アクセス:地下鉄新宿線菊川駅から徒歩1分