『私みたいな者に飼われて猫は幸せなんだろうか?』

猫ほどつまらなくて、幸せになれるものはない

能町みね子 著 サムソン高橋 写真/ 東京ニュース通信社/ 1540円+税
能町みね子 著 サムソン高橋 写真/ 東京ニュース通信社/ 1540円+税

猫はかわいい。この認識はおそらく万国共通で、絶対的真理のひとつと言ってもいいかもしれない。太古の昔から、猫は人間の暮らしのそばにあったが、今日ほど猫が崇められている時代はない。特にSNSが隆興したことで、飼い主たちは隙あらば世界一かわいい自分の猫を、世界へと発信している。こうして、猫はすっかり消費される対象になってしまった。でも投稿の中には、猫に勝手に台詞をつけてみたり、明らかに広告収入目当てのものもあったりして、興覚めすることもしばしば。猫はただそれ自体、純粋で完成された存在なのだから、その姿だけ見せてくれればいいのに。
本書は、『散歩の達人』本誌連載「ほじくりストリートビュー」でもおなじみ能町みね子さんの最新エッセイ。能町さんが、猫を飼おうかどうか逡巡(しゅんじゅん)し、いざ飼うとことになると「ネコニティブルー」(心配しすぎるがあまりの落ち込み状態)になるが、最終的に妖怪猫ババア(ほとんどの飼い主が陥る不治の病)になるまでの物語だ。猫はかわいいので何を書いてもナンセンスというスタンスながら、能町さんの猫への喜怒哀楽が、(いい意味で)気持ち悪いほど赤裸々に綴(つづ)られている。
個人的に最も印象に残ったのは、ついに愛猫を迎えに行った帰路の「私は、産んだ! この子を!」という、親としての自覚が芽生えた一節。私自身、猫が複数いる家庭で育ったのだが、猫たちは皆自分が生まれるより先に家にいたので、こうした体験がなかっただけに鮮烈だった。猫と共に過ごせる人類、そして、すべての猫に幸あれ。(高橋)

『おいしい味の表現術』

瀬戸賢一 編 味ことば研究ラボラトリー 著/ 集英社インターナショナル/ 990円+税
瀬戸賢一 編 味ことば研究ラボラトリー 著/ 集英社インターナショナル/ 990円+税

“おいしい”一辺倒の語彙力に物足りなさを感じたら読んでほしい。味評価・味覚・共感覚・味まわりと体系的に「味ことば」を紹介する章があれば、味の「宝石箱」のヒミツ、お菓子のオノマトペに迫る章あり。本書には味を言葉で表す方法の楽しい分析が盛りだくさん。豊かな言葉をものにすれば、味わい方も変わるはず!(町田)

『半径3メートルの倫理』

オギリマサホ 著/ 産業編集センター/ 1650円+税
オギリマサホ 著/ 産業編集センター/ 1650円+税

身近な悩み事に哲学者の言葉を引用して答える人生相談本だが、著者はオギリマさんだからシュール。不倫はなぜいけないのかにはカント、優柔不断な上司への対応策にはサルトルが登場。集団のいじめに悩む人にはニーチェや中野信子を引いて「妬みの感情が届かない高みを目指しましょう」と頼もしい。(武田)

『源為朝伝説 心優しき暴れん坊 鎮西八郎為朝の伝承地を歩く』

藤井勝彦 著/ 天夢人/ 1980円+税
藤井勝彦 著/ 天夢人/ 1980円+税

源為朝とは、源頼朝の父・義朝の弟にあたり、2m越えの大男で強弓の使い手、剛勇無双と伝わる武将。本書はそんな「史上最強の戦士」為朝に魅せられた筆者による、為朝の伝承地を巡る歴史散歩ガイド。若き日を過ごした九州から、保元の乱後に流された伊豆大島、さらには沖縄まで紹介する。為朝愛あふれる一冊だ。(土屋)

『散歩の達人』2022年4月号より

『散歩の達人』本誌では毎月、「今月のサンポマスター本」と称して編集部おすすめの本を紹介している。2020年も年の瀬にさしかかり、いよいよそれを一斉公開する時が来たと言えよう。ひと月1冊、選りすぐりの12冊を年末年始のお供に加えていただければ幸いである。