始まりはオスロの「鳥カフェ」
TX浅草駅から徒歩数分のところにある『FUGLEN ASAKUSA』は2018年9月にオープンした。『FUGLEN』はノルウェー・オスロを本拠地とするカフェで、日本では都内に浅草のほか2店舗を展開している。
『FUGLEN』とは、ノルウェー語で鳥という意味。マネージャーの高橋さんはこう話す。
「オスロの店舗は、もともと小さな地元のカフェでした。当時その店でオウムを飼っていたことから、街の人に「鳥カフェ」と呼ばれ、親しまれていたそうです。その後、現在のオーナーが『FUGLEN』を受け継ぎました」。
店の看板にモチーフとして描かれているのは、アジサシという渡り鳥。世界一長い距離を移動する鳥で、「世界のさまざまな場所に飛び立っていけるように」という熱い思いが込められている。
「ノルウェーの人たちはコーヒー好きです。一日に何杯も飲むので、あっさりとした軽い飲み口の方がいい。だから浅煎りのコーヒーが一般的ですね。私たちは高品質なコーヒー豆の素材本来の風味を感じられるような焙煎を施しています。その繊細な酸味や甘味、香りを苦味で隠さないようにすると、結果的に焙煎は浅煎りになります」。
そして高橋さんはこう続ける。「現在のオーナーの手に渡ってからはコーヒー、カクテル、ヴィンテージデザインの3つをコンセプトにしています」。
つまり『FUGLEN ASAKUSA』は、カフェとバーのふたつの顔を持ちあわせており、「コーヒー」と同時に「カクテル」などのアルコール類も楽しむことができるということ。
そして店内には1960〜70年代、ミッドセンチュリーのヴィンテージ家具や照明などが置かれ、ノルウェーの「ヴィンテージデザイン」を感じながら時間を過ごすことができる。客席はダイニングテーブルやソファ、カウンター席などさまざまな席があり、お客さんはそれぞれにお気に入りの場所を見つけ、そこで自分の時間を過ごす。
ノルウェーの風を感じるコーヒーとワッフル
ノルウェースタイルの浅煎りコーヒーを飲んでみた。本日のコーヒーLarge 490円はケニアのカムワンギ。飲んだ瞬間に酸味を感じるが、しつこく残らずにすっと通り過ぎていく。とても軽くて飲みやすい。でもちゃんと個性が出ているのだ。
さて人気メニューのワッフルもいただくことにする。ノルウェーの人たちにとって、ワッフルはとても身近な食べ物。日本人にとってワッフルといえば甘いデザートのイメージだが、ノルウェーでは薄めの生地の上に、ソーセージやサーモンなど自由に具材を載せて食べるのだそう。
ノルウェーならではの食材にもチャレンジしてみたいと思い、注文したのはブラウンチーズ・サワークリーム・自家製ベリージャムのワッフル670円。日本の食卓ではお目にかかれないものばかりで、味も想像がつかない。新しい味に出合う瞬間って、なんだかワクワクする。
運ばれてきたワッフルはクローバーのような形で目にも楽しい!ノルウェーで親しまれているブラウンチーズは、もともと山羊のミルクからつくられたチーズ。薄くスライスされていて、少し甘じょっぱく、塩キャラメルを思わせるような風味とコクがある。サワークリームとジャムの爽やかな酸味、そしてワッフルのモチモチ感とのコラボがクセになる味。
せっかくなのでコーヒーだけでなく、カクテルもいただくことにした。注文したのはアクアヴィット・ジャック・ローズ1180円。アクアヴィットはノルウェーでよく飲まれているじゃがいもの蒸留酒で、そこにざくろシロップとライムジュースをあわせたカクテル。酸味はかなり強いが、飲んだ瞬間、心地よい香りが鼻に抜けていく。アルコール度数は40度以上とお高めなのでご注意を。
コーヒーに目覚めたきっかけは『FUGLEN』
お話を伺った高橋さんは『FUGLEN』で仕事を始めて10年ほど。現在は東京の3店舗のカフェのマネージャーを務めている。意外なことに、高橋さんはもともとコーヒーが飲めなかったのだとか。
あるとき『FUGLEN』の海外第1号店である渋谷の富ケ谷店で、お客としてコーヒーを飲み「こんなコーヒーがあるのか!」と衝撃を受けたそう。そしてそこからコーヒーに興味を持つようになり、『FUGLEN』とも縁が繋がったのだとか。人生、何がきっかけで道ができてゆくかわからないものである。
「『FUGLEN』では単にコーヒーを作るだけでなく、店舗の立ち上げやマネージメント、お酒やヴィンテージなどいろいろなことをやらせてもらっていて楽しいです」と高橋さん。
店内ではダイニングテーブルでパソコンに向かう人、友人同士ソファで談笑する人、それぞれが思い思いの時間を過ごしている。1階は木を多く使った内装で、全体的に落ち着いた雰囲気。でも決して重々しくはなく、大きな窓と高い天井、それに観葉植物のグリーンがあるからだろうか。店の中央にはらせん階段があり、そこを上ると2階には屋根裏部屋を思わせるような空間が広がる。
平日の夕方だからか店内はリラックスした雰囲気で、心地よい時間が流れている。店に訪れたときにはまだ明るかった空も、いつの間にかすっかり暗くなっていた。
「ここにはいろんなお客さんがいらっしゃいます。浅草に観光でいらした方。地元の方。店を目指して来てくれる方。皆さんそれぞれのお気に入りの場所を見つけて、思い思いの時間を過ごしてくれると嬉しいですね」。そう高橋さんは言った。
構成=フリート 取材・文・撮影=千葉深雪