いったいどうすればこんなに丸くなるの?
いったいどうすればこんなに丸くなるの?

酒屋や酒蔵の軒先に吊るされている茶色い球体。「杉玉」と呼ばれるもので、ただの飾りかと思っていたら冬の時期に新酒ができたことを知らせる重要な意味があったんですね。
作りたての杉玉は、葉っぱがまだ青々としているが、飾って時間が経つと茶色く枯れるというわけ。

それにしても気になるのは、見事なまでの“まんまる”具合。一体どうやって作っているのか。と今回、体験を行っている場所を発見。いざ!
舞台は千葉市若葉区にある『わたしの田舎 谷当(やとう)工房』。農産物の収穫、そば打ち、味噌づくりなどが体験できる施設だ。さらに、毎年11月3日には杉玉づくり体験も行なっている。

チーム杉玉は左から中新井田さん、山下さん、田中さん、金親さん。
チーム杉玉は左から中新井田さん、山下さん、田中さん、金親さん。

今回教えてくれたのは、千葉県佐倉市の酒蔵『旭鶴(あさひづる)』7代目当主の田中孝一さん、工房代表の金親博榮(かねおや・ひろし) さん、スタッフの中新井田(なかにいだ)拓也さん、山下賢一さん。
田中さんが言う。
「15、16年前かな。四街道の『なにわや』という酒屋さんの店頭に吊るされていた杉玉があまりにも見事でね。店主に声を掛けたら『作り方を教えてやるよ』と言われて。そこからです、杉玉づくりにハマったのは」

千葉県佐倉市の『旭鶴』の門に飾られている田中さん作の杉玉。
千葉県佐倉市の『旭鶴』の門に飾られている田中さん作の杉玉。

作業場所に選んだのは、自身が所有する里山で自然体験などを展開している『谷当工房』。『旭鶴』の五男坊でもある金親さんに頼んで場所を貸してもらえることに。当初は作った杉玉を自分の蔵に飾るだけだったが、「作ってみたい」という一般の方の声を受けて、杉玉づくり教室を開くようになる。

「ヨーロッパでも『ホイリゲ』と言ってワインの新酒ができると店の軒先に小枝の束をぶら下げる風習があるんです。世界のどこでも新酒に寄せるワクワク感は共通しているんでしょうね」

杉玉づくりに使用するのは金親さんが採ってきた青々とした山武杉というブランド杉の葉っぱ。すべての制作工程をご紹介します。

これが杉玉のつくり方だ!

【 STEP 1 】 杉を準備

千葉市内の山から採ってきたばかりの青々とした杉の葉。育ちすぎた杉は枯れ葉が多くなるので10年モノぐらいがちょうどいいそう。
千葉市内の山から採ってきたばかりの青々とした杉の葉。育ちすぎた杉は枯れ葉が多くなるので10年モノぐらいがちょうどいいそう。

【 STEP 2 】 針金を組む

杉玉づくりにはさまざまなやり方があるが、ここでは杉の葉を針金に吊るす方式。サイズ によって針金の太さを調整するのがポイント。
杉玉づくりにはさまざまなやり方があるが、ここでは杉の葉を針金に吊るす方式。サイズ によって針金の太さを調整するのがポイント。

【 STEP 3 】 節を残して切る

大枝に付いている小枝を植木用の剪定(せんてい)ばさみで切り出す。見栄えをよくするために枝分かれする節の部分は残してカット。
大枝に付いている小枝を植木用の剪定(せんてい)ばさみで切り出す。見栄えをよくするために枝分かれする節の部分は残してカット。
このような実が成っている杉の葉は使用しない。
このような実が成っている杉の葉は使用しない。

【 STEP 4 】 引っかけていく

針金の上に杉の葉をどんどん乗せていく。ただ乗せるだけだと落ちてしまうので、針金に引っかける。この作業が約30分続いた。
針金の上に杉の葉をどんどん乗せていく。ただ乗せるだけだと落ちてしまうので、針金に引っかける。この作業が約30分続いた。

【 STEP 5 】 重ねる

杉の葉を重ね終わったモサモサの状態。左の杉玉は山下さんが昨年作ったもの。枯れてしまったのでアクセントとして緑を足しました。
杉の葉を重ね終わったモサモサの状態。左の杉玉は山下さんが昨年作ったもの。枯れてしまったのでアクセントとして緑を足しました。

【STEP 6 】 針金をねじる

重ねた杉の葉を針金ごとぐるぐる回す中新井田さん。全体をギュッと締めるためにはこの作業が重要。何となく海ぶどうに見えてきた。
重ねた杉の葉を針金ごとぐるぐる回す中新井田さん。全体をギュッと締めるためにはこの作業が重要。何となく海ぶどうに見えてきた。

【 STEP 7 】 刈り込む

丸くするためにひたすら刈り込みます。最初はざっくりと大胆に、仕上げは繊細に。表面 を触ったときにチクチクするぐらいがベスト。
丸くするためにひたすら刈り込みます。最初はざっくりと大胆に、仕上げは繊細に。表面 を触ったときにチクチクするぐらいがベスト。

【 STEP 8 】 完成!

開始から約1時間、杉玉の完成です。最後に気になっていたハミ出し部分を切らせてもら った。感無量。皆さん、新酒できましたよー。
開始から約1時間、杉玉の完成です。最後に気になっていたハミ出し部分を切らせてもら った。感無量。皆さん、新酒できましたよー。
小さな白い枝を入れ込むとおしゃれな杉玉になる。
小さな白い枝を入れ込むとおしゃれな杉玉になる。

そして編集部へ……

直径約45cmの見事な杉玉さん。編集部に飾って、毎日めでています!
直径約45cmの見事な杉玉さん。編集部に飾って、毎日めでています!
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【 見せてもらったのは 】わたしの田舎 谷当工房(やとう)

住所:千葉県千葉市若葉区谷当町70 /アクセス:千葉都市モノレール千城台駅からさらしなバス右回り約15分の「谷当町2」下車1分。

取材・文=石原たきび 撮影=泉田真人
『散歩の達人』2022年2月号より