1954年「戦後、食べていくために」はじまった老舗の町中華
池袋駅東口の目の前を通る明治通りを渡ってすぐ、コーヒー店と衣料店の間の細い路地に中華料理店『開楽本店』がある。戦後、力道山が活躍する頃の1954年に創業した店。……といっても、店構えはスタイリッシュ。ロゴマークも今風だ。
創業の理由は「戦後、家族で食べていくためだった」とか。「当時、ラーメンと餃子を売るだけの質素な店がこのあたりにはいくつもありました。その中で差別化をはかるために餃子を大きくして“ジャンボ餃子”として売り出したみたいです」と教えてくれた。
大きすぎる! 職人が手作りするボリューム満点の餃子
ジャンボ餃子5つに半チャーハンと中華スープが付くBセット950円を注文する。実物を目の当たりにしてびっくり。ちょっとこれ、大きすぎませんか⁉
肉と野菜のうま味、モチッとした厚い皮。これらが相まって、見た目のインパクトに負けないおいしさが広がる。 餃子は1つ85gほど。大きいけれど、5個ともペロリと胃袋へと消えた。おいしさの理由は肉と同じくらいの割合で野菜が入っているから。ニンニクは控えめで、少量の油で表面はパリッと焼き上げる。
こだわりは餃子の新鮮さ。その日仕入れた肉と野菜を使い、サンシャインシティのすぐ近くの工房で職人が毎朝手作りする。朝と午後、1日2回お店に届くのでいつでも包みたての餃子を食べられる。
長い歴史の上に今を重ねる。だから行列が途切れない
初めてくるお客さんのほとんどはジャンボ餃子を注文し、何度か通うとほかのメニューにも挑戦する。もやしそば780円や広東麺940円、塩味の効いた五目そば870円、スーラータンメン930円が特に人気だとか。ほかにもニラレバ炒め定食940円など、ご飯とおかずがセットになった定食メニューや丼ものも好評だ。
炒めた具材をたっぷり楽しめるラーメンは大きな中華鍋がある町中華からだからこそ提供できる。肉ピーマンそばもそのひとつ。さわやかな苦みが活きるピーマンとシャキシャキの玉ねぎ、モチっとした豚肉に素朴な中華麺が合う。
ほか、月ごとに替わるメニューにも注目だ。厨房に立つ職人さんが自由な発想で限定メニューを考案するというから飽きがこない。
『開楽本店』は昔ながらの味を大事にしつつ、新しいことにどんどん挑戦している。2014年に増床するタイミングで店のイメージも一新。制服やロゴも今風に新しくなった。
すると「入りにくい雰囲気だったけれど、実は行ってみたかった」という女性の来店が増えていった。若いお客さんも多くなり、ジャンボ餃子の写真を撮ってSNSに投稿していく。その写真を見てまた新たなお客さんが訪れるという。取材時も制服を着た高校生が笑顔で並んでいた。
改装以前から長く通うお客さんも変わらぬ味を求めて足を運ぶ。店に立つスタッフは「大切なのは続けていくこと。昔から通ってくださる常連さんも、新しく来てくださる方も、“おいしく、楽しく”。そんな時間を過ごしてほしい」という。
戦後の焼け野原から立ち上がった『開楽本店』。生き残りをかけたジャンボ餃子は、時を経た今もファンを魅了し続けている。
構成=フリート 取材・文・撮影=宇野美香子