コーヒーの淹れ方は、ハンドドリップとエアロプレスの2種類
「エアロプレス」。初めて聞いた方式だった。お湯を注いで淹れるハンドドリップとは、使う器具も淹れ方も全く異なる。細長い筒の中に挽いたコーヒー豆をセットして、空気の圧力で抽出するという比較的新しい方法だ。
主な機材は、コーヒーの粉とお湯を入れるチャンバーという筒、押し出し用の筒であるプランジャー、そしてフィルターがセットされたキャップ。このキャップは、抽出されたコーヒーを受けるポットを安定させる役割もある。
代表の野口さんに淹れてもらった。
器具を温めたら、チャンバーにコーヒーの粉を入れ、馴染ませるようにゆっくりとお湯を注ぐ。静かに撹拌してキャップをはめ、少し蒸らしたらポットに乗せ、プランジャーでプレスして抽出していく。
プレスするときのコツは、一定の速度でゆっくり圧をかけること。
お湯を注ぐスピードや、蒸らし時間、プレスの速度などで味に変化が出るが、そのレシピを守ることで品質のブレが少なく、ハンドドリップに比べて短時間で抽出できることもメリットだ。
豆の個性がダイレクトに伝わる、エアロプレスで淹れたコーヒー
今回エアロプレスで淹れてもらったのはルワンダ。華やかな、いい香りがした。一口飲んでみると、酸味と甘みのバランスが良く、さわやかな味わいだ。
プレスするからだろうか、ハンドドリップよりも豆そのものの個性を感じやすいような気がした。エアロプレスで厚みのある味にするか、ハンドドリップでクリアな味を楽しむか。その日の気分に合わせたチョイスを楽しみたい。
キャンディのように、ペーパーで包まれたロータスチーズケーキはコーヒーにぴったり。上に乗ったロータスビスケットはシナモンの香りで、なめらかなチーズケーキにひと味違った風味をプラスしていた。売り切れるほどの人気で、これを目当ての客も多いという。
原産国の農家や精製工場の抱える問題に切り込む
コーヒーを飲むこと自体は日常のこと。だが、どのような環境で作られたコーヒー豆かを知ることはほとんどないのではないだろうか。この店で出しているコーヒー豆は、味や産地だけでなく、精製工場、加工の方法、そして詳細な説明が明記されている。ここまで詳しい説明は必要なのだろうか。
「飲む人が、産地のことや関わっている人について知ることも、とても大切です。それがコーヒー業界全体を変えていく力になるので」と店長の野口さんは話す。危惧しているのは、「世界が変わらないとおいしいコーヒーが飲めなくなってしまう」ということだ。
生産には3年もの時間がかかるというコーヒー豆。それだけ時間と手間がかかるのに価格は下落する一方で、リスクは生産者が背負っている。この状況では、減少傾向のコーヒー農家がもっと減ってしまうのは当然だ。なんとかして構造を変えていかなければ。そう考えた野口さんは、持続的で循環するコーヒーの世界を目指すというオランダのコーヒー商社「This Side Up」とタッグを組み、自社で輸入した豆を取り扱うことにした。
関わる人すべてがハッピーになれる仕組み作り
購買量を確約し、毎年継続して購買を続けることにより、生産者の収入が安定。より挑戦的な生産方法を試すことも可能になる。このことは、生産者とロースター、お互いにとって大きなメリットだ。消費者にとっては、より品質と鮮度の高いコーヒーを飲むことができ、野口さんたちロースターは、豆の評価をフィードバックとして返す。この繰り返しが、さらにおいしいコーヒーを作り出している。
現在扱っているのは、ルワンダで3種、タイで2種。「関わる人すべてが平等なパートナーであり、ハッピーになってほしい。」と話す。『NOG COFFEE ROASTERS』の考え方は、少しずつ、確実に広がりを見せている。
おいしい。だけじゃない。だけど、おいしいコーヒーをもっと日常に。
農家、精製工場、ロースター、消費者、そして環境への配慮。野口さんの話す内容は、とてもサスティナブルだ。そしてその思想は店名の「NOG」にも表れている。「Not Only Good coffee=おいしい、でもそれだけじゃない」。
「おいしいコーヒーをもっと日常に」をモットーに、しかし、「おいしい」だけではなく、すべての人がハッピーで持続可能な構造への変化を求めていく。
コーヒーにこだわりのある人も、ない人も、そしてコーヒーが苦手な人にも寄り添った新進気鋭のカフェ。これからも注目していきたい。
取材・文・撮影=ミヤウチマサコ