其の一 一力〈小岩〉
62年愛される町のもつ焼き店
昭和通り商店街の外れで62年、「安くて旨い」と開店16時から席が埋まり始め、持ち帰り用の串を求める客もひっきりなし。一串60円だった頃の色褪あ せた献立表が時代の流れを告げるが、それでもどれも一串110円とはうれしい限り。銀色のトレーにのったレバーやシロは、秘伝ダレがよく絡み、何本でもいける旨さだ。「今朝つぶしたブゥちゃんが届くから新鮮」と2代目の鈴木順二さん。当日仕入れたもつしか使わないため、なくなり次第終了だ。
『一力』店舗詳細
其の二 信濃路〈鶯谷〉
和洋中を気分のままに
コンビニ並みにいつでも飛び込める24時間営業の頼もしさ。朝からだって気兼ねせずにグビッといける。創業は1976年。9年後、お客さんの要望に応えて24時間開けっ放しに。壁に張り巡らされたメニューは150種以上。しめさばや肉豆腐、ホイコーローやチンジャオロース、カレーやハムエッグ、懐かしいかな、赤ウインナー揚げまで、和洋中の定番メニューが勢揃い。ジグザグと奥に長く続くカウンター席もあり、さくっと一人飲みにも重宝する。
『信濃路』店舗詳細
其の三 ビストロシン〈目黒〉
旨いつまみとワインの宝庫
2007年、権之助坂近くに開店するやいなや人気となった立ち飲みフレンチの先駆け店。オーナーシェフの高野信也さんがフランスの二つ星店や老舗和食店で修業して得たエッセンスを惜しげもなく注ぐ。安くて旨いビストロ料理をつまみに、ワインを楽しむ客が入れ代わり立ち代わり後を絶たない。店内には筆書きメニューがそこかしこに。鶏レバーのカルパッチョや塩もつ煮込み、ジビエなどおよそ180種、ワインは200種以上と目を見張る。
『ビストロシン』店舗詳細
其の四 多摩一〈八王子〉
圧倒的な木の温もりと地元愛
扉を開ければ、杉やモミの巨木が贅沢に使われ艶めく空間に、圧倒されずにはいられまい。1949年創業の『多摩一』は2代目山崎正人さんと同い年、70年を迎えた。ねじり鉢巻、やかんで酒を注いで回った先代の後を継ぎ、「やかんは持たないけどね」と自らホールで笑顔の接客。100以上の豊富な短冊メニューのほとんどが、長い付き合いのある地元の魚屋や肉屋、酒屋からの仕入れ。地元愛があふれているところも、幅広い世代に愛される所以だ。
『多摩一』店舗詳細
其の五 闇太郎〈吉祥寺〉
47年変わらないおでんの味
繁華街から少し外れた五日市街道沿いに灯ともる赤提灯。作務衣にねじり鉢巻のマスター山田康典さんがおでんを煮込んで47年、今も変わらぬスタイルで、カウンター客を相手に年季の入った鍋からおでんをよそう。「世の中が変動しても、この店はできるだけ変わらないように」と値段はほぼ据え置き、人気のおでんの大半も100円のままだから、頭が下がる。安くて旨いつまみと酒、何よりマスターの奥深い人柄に惹かれてリピーターになる人も数多い。
『闇太郎』店舗詳細
構成・文=都恋堂 撮影=オカダタカオ、金井塚太郎、都恋堂
MOOK『散歩の達人 東京町酒場』より