1980年代半ば、僕が駆け出しのライターだった頃の話。神保町の編集プロダクションに顔を出すと、先輩ライターが近くの町中華に誘ってくれた。まずは、餃子を食べながらビールを酌み交わす。次第に気分も良くなり、腹も膨れていった。
すると突然、先輩がタンメンを2つ注文した。これが人生初のタンメン・餃子・ビールの三者が揃った「タンギョウビー」との出合だった。先輩は、タンメンを半分ほど平らげたところで、それまで使っていた餃子のタレをタンメンに注いだ。驚いて見ている僕に先輩は「無駄がないだろう?」と笑う。僕もやってみると、それまで優しかったタンメンにパンチが出て、一気にスープまで飲み干した。このとき僕は、大人の世界を垣間見たような気がして、ひとりでもやってみたくなった。

1948年創業『珍々軒』の前で。写真左は、店主・河田喜代美さん。
1948年創業『珍々軒』の前で。写真左は、店主・河田喜代美さん。

ある日の昼下がり、家の近所の町中華で 「ビール、餃子にタンメン」 と注文してみた。すぐにビールが出てきて、ほどなくタンメンが着丼。 「えーっ、順番が違うよ」と思いつつ、タンメンを食べながら餃子を待つ。そして、ほぼビールとタンメンがなくなったところで餃子がやってきた。いやはや、これでは失敗だ。
つまり、頼み方が重要だったのだ。まず、「ビールと餃子」と注文し、餃子が程よく減ったところでタンメンを頼む。これぞ「タンギョウビーのタイミング」と言っていいだろう。慌てて一度に頼んでは、楽しめるものも楽しめない。
とはいえ、若い頃はそんなことを考えていた僕も、還暦を過ぎた今となってはこの3つをゆったり楽しめればいいなという心境にもなっている。ぜひとも自分なりの「タンギョウビー」の楽しみ方を見つけてほしい。

これがマグロ流・タンギョウビーのたしなみだ!

はじめに餃子とビールを注文。

サービスのぬか漬けにラー油をトッピング。

ぬか漬けをアテに、まず一杯。「餃子を待つ間に喉を潤そう!」。

モチモチの餃子(5個・500円)が到着。

「タレを育てるイメージで!」餃子を食べ進めたらタンメンを注文。

タンメン 750円。野菜はアツアツのうちにほおばるべし。

タンメンを半分ほど食べ進めたところで……。

餃子の旨味がしみ出したタレを投入して味変。一気にフィニッシュ!

『珍々軒』店舗詳細

住所:東京都台東区上野6-12-2/営業時間:10:00~23:00(日は~20:00)/定休日:月/アクセス:JR・私鉄・地下鉄上野駅から徒歩3分

上野界隈はタンギョウロード?

タンギョウ初心者の高橋(編集部)を引き連れて、上野~御徒町を歩いてみたよ。

下関マグロ「上野駅から出発だ!」
高橋 「よろしくお願いします、師匠!」

下関マグロ「線路の間を攻めて行くぞ」
高橋「この道は初めて通るなぁ」

高橋「あ、タンメンの看板が!」
下関マグロ「早速、珍々軒に寄るとしよう」

高橋「そばにもう一軒ありますね」
下関マグロ「昇龍の餃子も絶品だよ」

下関マグロ「福しんもタンメンが人気だね」
高橋 「上野はなんでも揃うなぁ」

高橋「飲食店跡地のようです……」
下関マグロ「大興、早く戻ってきてくれ~」

高橋「御徒町駅前の珍満まで来ました」
下関マグロ「サンプルの並びがタンギョウ!」

取材・文=下関マグロ 撮影=山出高士
『散歩の達人』2021年2月号より