慣れ親しんだ中国・福建省のお茶を提供
西荻窪駅南口から五日市街道方面へ歩くこと、およそ8分。『sweet olive 金木犀茶店』と書かれた小さな看板の先には、鮮やかなスイーツが並ぶショーケースとテイクアウト販売用の小さなカウンター。
その脇の扉から店内に足を踏み入れると、金木犀の香りがふわりと鼻先をかすめる。
店主の李海純(リ・カイジュン)さんは中国・広東省で生まれ育ち、2012年にインテリアデザインを学ぶために来日。旅行で初めて東京を訪れた際に、目にする街並みや人々の様子にたちまち魅了され、「ここで暮らす!」と即決したのだそう。上海出身の旦那さんとも東京で出会い、2019年に夫婦でこの店をオープンした。
この店では、中国・福建省の茶葉を多く扱う。李さんは、幼い頃から広東省に隣接する福建省のお茶を飲んで育ってきた。福建省はウーロン茶の故郷として知られ、ほかにも鉄観音茶やジャスミン茶などの有名なお茶の名産地でもある。お茶を水と同じくらい欠かせないものとして捉える李さんは、自身が最も慣れ親しんだお茶を提供したいと考えたという。ちなみに、茶葉はお父さんの親友が営む茶荘から仕入れているそうだ。
また、陶磁器の名産地である江西省景徳鎮市で作られた茶器も店頭で販売している。「日本で中国の茶器といえば、さまざまな絵柄のついたものをイメージされることが多いので、あえてシンプルな茶器を仕入れています」と、李さん。
中国と日本の要素が融合した独創的なメニュー
お茶とともに、李さんの大切な記憶にあるのは金木犀だという。李さんが幼い頃に住んでいた家の近所では、秋になるとたくさんの金木犀が花をつけた。その思い出が今でも強く心に残っていると話す。また、中国では金木犀の香りを付けたお茶である桂花茶(けいかちゃ)が有名で、そのほかにも金木犀は、お菓子の原料に使われたり、エッセンシャルオイルを抽出したりと、幅広く活用されている。
そんな李さんに故郷を思い起こさせる金木犀を店名に冠しただけでなく、シロップ漬けにしてドリンクやスイーツにも使用している。
提供するドリンクやスイーツはどれも、李さんたちが中国で親しんできたものをヒントに、独自のアイデアをプラスして創り上げたオリジナルばかり。金木犀のシロップもその一つだ。その金木犀シロップを加えた金木犀鉄観音は、この店の定番メニューでもある。中国茶になじみのない若い人たちにも飲みやすいメニューをと考え、自家製の金木犀シロップをプラスすることを思いついたという。味わいの濃い福建省産の安渓鉄観音(あんけいてっかんのん)に、金木犀の香りと甘みが加わることで、爽やかな後味を感じられる。
スイーツの定番メニューである、金木犀と季節のフルーツのムースケーキにも金木犀シロップが活躍。金木犀シロップで作った金木犀ゼリーにヨーグルトムース、塩気のあるタルト地で構成されるこのケーキは、甘さ控えめな味わいが特徴だ。そのほかのスイーツも、すべて甘さをギリギリまで控えて作っているため、スイーツ好きだけでなく、糖分を気にする人や甘いものが苦手な人にもファンが多いという。
オープン当初は、祖国に伝わるお菓子を中心に販売していたという李さんだが、日本人には味のイメージが湧かないものが多く、購入するお客さんは少なかったという。そんな試行錯誤を経て、中国の食材やお菓子に独自のアイデアをプラスしたメニューを創作したことで、今では多くのお客さんが集まる人気店になった。最後に李さんは、「自分たち独自のアイデアで、これからも新しい中国の飲食文化を伝えていきたい」と語ってくれた。
『sweet olive 金木犀茶店』店舗詳細
取材・文・撮影=柿崎真英