恐がらないで!願いを聞くよ!のサイン
まずは、皆様におなじみ「奈良の大仏」が表す印相。
大仏のほかにも多くの仏像で同様のポーズを見ることができます。
右手の指先を上にして、手のひらをこちらに向けてる印相は「施無畏印(せむいいん)」。
その名の通り、「畏(おそ)れなくていいよ」という意味です。
以前の「お釈迦さまの一生」の記事でご紹介した通り、仏教では「生老病死」を苦しみと考えます。病気や老いや死を恐れる私たちを安心させるメッセージを送ってくれているんですね。
この施無畏印とセットになるのが「与願印(よがんいん)」。左手の指先を下にして手のひらを見せるポーズです。
こちらは「願いを聞いてあげるよ」という意味を持っています。
誰かの優しい振る舞いを「神じゃん!」と褒める言葉を耳にすることがありますが、安心させてくれて願いを聞いてくれる存在は、まさに「仏じゃん!」ですね。
深い瞑想中のポーズ
そんな神対応の仏(?)も、長い修行と瞑想でその域に達しました。
その瞑想中の姿を表すのが「定印(じょういん)」または「禅定印(ぜんじょういん)」。
座禅の際の足の組み方である「結跏趺坐(けっかふざ)」で座り、お腹の前で手のひらを上にして重ね、親指をつける印相です。
私たちも、お寺での座禅体験などに参加するとこのポーズをすることになります。
なお、仏像の顔として私たちがイメージする穏やかなあの表情は、まさに瞑想が深い状態にある時の表情です。
薄く目を閉じ、やや微笑むような様子から「半眼微笑(はんがんびしょう)」と言われます。
OKサインは阿弥陀如来の目印
施無畏・与願や定印は、様々な仏像が表す印相です。
しかし、阿弥陀如来にはオリジナルのポーズがあります。
それがこの「OKサイン」のようなポーズ。
これは「阿弥陀定印(あみだじょういん)」と言い、「地獄じゃなく、極楽に連れて行ってあげるからね!」というメッセージがあります。
指の形はそのままに、手の位置を変えたバージョンもあります。
鎌倉の大仏などは、一見「定印」を結んでいるように見えますが、よく見ると指の形が「OKサイン」に!
これによって、鎌倉の大仏が阿弥陀如来であることがわかります。
阿弥陀如来は、このOKサインを手の位置と指の形で様々な表現をします。指の形は、親指とどの指をつけるかによって決まります。
人差し指をつけると上品(じょうぼん)、中指だと中品(ちゅうぼん)、薬指だと下品(げぼん)になります。
東急大井町線には「九品仏」という駅がありますが、隣接する浄眞寺というお寺に9種類それぞれの印を表す9体の阿弥陀如来が祀られているところから来ているのです。
ニンニン!は大日如来の目印
如来の中でも特徴的なのが、大日如来の一部が表す「智拳印(ちけんいん)」で、一見、忍者のポーズのようにも見えます。
これは、大日如来の最高の智慧を表現した印相です。
仏像に近寄らないと見られないディテールですが、包み込んだ右手親指の先は左手の人差し指の先に触れています。
なお、大日如来は真言宗などで祀られる仏ですが、真言宗ではそれぞれ金剛界と法蔵界というふたつの仏の世界があるとされています。
野球でいうとセ・リーグとパ・リーグのような感じでしょうか。
智拳印を表すのは、金剛界の大日如来のみで、法蔵界の大日如来は定印を結びます。
悪霊退散!の瞬間
印相には役割やメッセージの他に、経典に描かれた一場面を表現しているものもあります。
人差し指を地面に触れさせる形は、お釈迦さまが悟りを開く直前、襲いかかる悪魔を退治した瞬間のポーズで「降魔印(ごうまいん)」と言います。
まさに「悪霊退散!」の瞬間なのです。
また、胸の前で、手首をひねったポーズは「説法印(せっぽういん)」または「転法輪印(てんぽうりんいん)」といって、お釈迦さまが説法をしている場面を表す印相です。
如来以外にも!個性派な印相の仏像たち
如来以外にも、個性的なハンドサインを表す仏像がいます。
まずは馬頭観音が表す「馬口印(まこういん)」です。
合掌した状態から、人差し指と薬指を折った、独特な印相です。
また、五大明王のメンバーも様々な印を結んでいます。降三世明王は狐の影絵を作るような指を両手で作り、それぞれの小指を絡ませます。
また、金剛夜叉は両手で3本の指を立て、胸の前で交差させます。
こんなに様々なポーズのメンバーが揃う五大明王が並ぶ姿は、戦隊モノがファイティングポーズを決めた時のようなカッコよさも!
造形だけでなく意味まで見えてくると、旅やお散歩でお寺に立ち寄った時の面白みがアップしてくるはず!
仏像を前にした時は、ぜひ手に注目して見てください!
写真・文=Mr.tsubaking