世界のカフェを巡った店主のセンスが光るおしゃれカフェ
JR北千住駅西口から徒歩7分ほど。アーケード付きの商店街“きたろーど1010”を進み千住本町商店街に入ると、そのうち見通しのいい交差点にたどり着く。通りの向こうにあるカフェ『Takuru』は、レンガ造りの花壇と白いのれんが目印だ。
この店のオーナーは、台湾出身の竹井アリエルさん。元キャビンクルーで、シンガポールで出会った日本人のご主人とともに2021年に来日した。
「食べることと料理をつくることが大好きで、いつか自分の店を持ちたいという夢を持っていました。航空会社を退職後、台湾に戻ってカフェを開くための準備を始めようと思っていたのですが、夫と結婚して日本で暮らすことになったんです。来日当時は日本語も話せなかったのに、まさか東京でカフェをやることになるなんて。今も不思議な感じがしてます」。
1階はレンガ造りのベンチシートで4席ほど。洗練された空間で、広くはないけれどとっても居心地がいい。また、インテリアや小道具など目に映るものすべてがおしゃれで、カメラのシャッターを切る手が止まらない!
「世界のカフェを巡るなかで、いつも自分がつくりたい店のイメージを膨らませていました。頭の中で理想のカフェをたくさん思い描いていたのですが、この店は物件を見てから、ロハスな雰囲気にしようと決めました」とアリエルさん。
店内のところどころに観葉植物を配してタンポポなどの植物を植えるほか、壁を漆喰塗りのようにするなど、どことなく自然が感じられる空間になっており、アリエルさんの豊かな感性が散りばめられている。
2階もまたおしゃれで、カウンター席が6席。にぎやかな北千住の駅前から少し離れたところで、ゆっくり落ち着ける素敵な店に出合えてうれしいかぎり♪
本場台湾のカフェ飯、あなどることなかれ!
さて、今回いただくのは台湾ローカルグルメの代表、ルーロー飯のランチセット。丼物、汁物、副菜が円いお盆にのって運ばてきた。まるで梅の花のように並んでいてかわいい~♡ 伊万里焼の器の組み合わせも美しくて、ほんとセンスいいなあ。
あめ色に輝く照り照りの豚バラの角煮がお茶碗にてんこ盛り! では、いただきま~す。
角煮とご飯をいっしょにほおばると、「……!!」。思わず言葉を失ってしまうほどの旨さに感激。甘みしっかりで辛さほんのり。甘&辛のバランスがいい塩梅で、これは白飯が止まらなくなるお味です!
「ルーロー飯は毎日、2~3時間かけて仕込んでいます。豚バラを丁寧にカットするだけで味のしみ方が変わって、おいしくなるんですよ」とアリエルさん。手間隙かけてつくられただけあってお肉はしっとりやわらかく、コクと深みも感じられる。
「台湾では八角や花椒などの香辛料をしっかり効かせるんですが、どなたでも食べやすいようにあえて控えめにしています。母の味をベースに、夫に試食してもらってスパイス感を調整しました。まろやかで上品な甘さの甜菜糖と黒砂糖でコクを出しています」。
本格的な味わいながらもクセが強すぎず、口の中に独特の香りがやさしく広がる。ああ~、ほんっとおいしい! これは何度も食べたくなりますよ。
本日の付け合わせは、わかめと麩の味噌汁、水菜と厚揚げの煮びたし、マカロニポテトサラダ、自家製ピクルス。和食も洋食もおいしくつくれるアリエルさんは、まことに料理上手です!
「台湾の味を気軽に楽しめるカフェにしたい」
『Takuru』の始まりは、2021年8月。アリエルさんは浅草のカフェでバリスタとして働きながら、森下にあるシェアキッチンで週2回、台湾カステラとカステラ焼きプリンをつくって販売し始めた。
ふわしゅわの食感とやさしい甘みが特長の台湾カステラはたちまち人気に火が付き、シェアキッチンでの営業開始からほどなくしてクラウドファンディングを利用し、着々とカフェの開店準備を進めた。
そして2022年4月、「台湾の味が気軽に楽しめて、おいしいものを食べて癒やされる店にしたい」という想いのもと、『Takuru』をオープン。開店から1年あまりで大勢の客が付く人気店となった。
「日本に来る前は、東京の人は冷たいんじゃないかと不安に思っていたんですが、まったくそんなことはありませんでした。近所の店の方が自分のお客さまにうちの店を紹介してくださったり、そのお客さまがまたお友達にすすめてくださったりと、気づいたらお客さまがたくさん増えていました。下町の人たちって、あったかいですよね。地元の方が何度も店に顔を見せてくださるのが一番うれしいです」。
平日は1人で切り盛りしているものの週末は混み合うことが多くなり、今はご主人が店を手伝ってくれているという。ちなみに、レンガ造りのベンチシートはご主人の協力があって完成したもの。彼女が希望する色味のレンガを求めてご主人が店を回って買い集め、何十キロもある重たいレンガを運び入れてくれたのだ。
「事業計画から細かいところの準備まで彼がサポートしてくれたおかげで、店をオープンすることができました。私の夢を叶えてくれた夫にはとても感謝しています」と、うれしそうにほほ笑むアリエルさん。
情熱的でひたむきな彼女を応援したくなるご主人の気持ち、僭越ながらわかる気がする。アリエルさんの魅力はきっと、これからもたくさんの客を虜にするだろう。
彼女がつくる手料理は本格料理店顔負けの旨さで、ちょっとしたカフェ飯どころではない。一度食べたら忘れられないこの味を求めて、これから何度も『Takuru』を訪れことになるだろう。台湾料理の若きおふくろの味、ここにあり!
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=コバヤシヒロミ