落ち着いて過ごせるヨーロピアンな異空間
JR渋谷駅の新南口から明治通りに出て、恵比寿方面に向かって徒歩5分ほど。八幡通りと交わる並木橋交差点付近は、人波はあるものの渋谷の中では落ち着いているエリア。八幡通りの坂道を上ってさらに5分ほど進むと、珈琲専門店『青山壹番館』にたどり着く。
重厚感のある扉を開けた瞬間、ノスタルジックな雰囲気に包まれて思わずため息が出た。何もかもが新しくなっていく渋谷に、こんな素敵なレトロ喫茶があるとはうれしいかぎり♪
「おタバコは吸われますか?」と店員さんに聞かれ、筆者は禁煙席を希望。窓際の席に案内してもらった。ロウソク型のランプが灯る店内にはアンティークなインテリアが所々に飾られており、時折、黒電話のベルがやさしく鳴り響く。初めて訪れたのだが、早くも居心地のよさを感じている。
サイフォンで手際よくコーヒーを淹れているのは、マスターの竹森さん。蝶ネクタイをきりりと締めた姿と、まるで「神技か!?」と思えるほど機敏な動きを目にして、思わず見とれてしまった。
そのうち常連さんと思しき人が店員さんとあいさつを交わし、店の奥のほうに入っていった。あとを目で追うと、短い廊下の先が別室になっているのが見える。
「奥は喫煙席なんですよ」と店員さん。こちらは禁煙席とは少し趣が異なり、エレガントな空間の中でだれに気兼ねすることなく、ゆっくりタバコをくゆらすことができる。愛煙家の方にとってはありがたいだろう。
「父の店」から「自分の店」へ。2代目マスターの覚悟
『青山壹番館』のような重厚感のあるレトロ空間は、そうそうつくれまい。この店がいつ頃できたのか、竹森さんに伺ってみた。
「喫茶店ブームの流れにのって、ホテルマンだった父が昭和40年代に創業したと聞いています。僕が店に顔を出すようになったのは高校生の頃からで、大学時代は母に乞われて時折店を手伝うようになり、社会人になってからも休日は店に立っていました。不動産関係の仕事を楽しくやっていたので、自分がこの店を経営することになるなんて、当時は想像すらしませんでした」。
「母に対してはついイエスマンになってしまうので(笑)、頼みを聞いているうちに、気づいたらこの店にどっぷり……といった感じでした。ただ働いているなかで、父がコツコツと続けてきた店をなくしたくない、という想いが芽生え始めました。両親には生み育ててもらった恩や愛情があります。恩返しというわけではないのですが、父が半世紀にわたって大切にしてきたこの空間を、これからは僕が守っていきたいと思っています」。
本格的に店で働き始めて10年が過ぎ、ようやくカウンターの中に入った竹森さんは、「この10年、長かったですね……」と、ポツリとつぶやいて微笑んだ。カウンターに立つようになって、「父の店」から「自分の店」という意識に変わっていったと話す。
トーストサンドのサービスセットはドリンク&おやつ付き!
さて、小腹が減ってきたので、写真付きの卓上メニューと四面体の木製メニューをチェック。今回は店頭に案内板が出ていたサービスセット950円をいただくとしよう。
セット内容は、日替わりのトーストサンドにフルーツ、ミニデザート、ポテトチップスも付いてくるというお得感! セットドリンクはホットのブレンドコーヒーか紅茶のいずれかで、プラス50円でアイスコーヒーなどに変更できる。
今回いただくのはハムトースト。こんがり焼き上がった三角食パンに厚切りハムがサンドされている。
早速ひと口、パクッ。おおッこりゃ旨い! 上質なバターが香るトーストはサクッと軽めの食感で、いわゆるハム×マヨネーズの王道の組み合わせではなく、シンプルながらも味付けにオリジナリティが感じられる。塩加減もちょ~どいい感じ。
「食パンに辛子バターとオリジナルのマヨネーズソースを塗って、オニオンスライスをはさんでいます。昔ながらの味を大切にしながら、自分なりに日々研究を重ねています」と竹森さん。このハムトーストのお味、かなり筆者好みです!
「ほかでは食べられない味や思いっきり特徴のある味にするのもいいかもしれませんが、うちの店では例えば、100人中20人のお客さまがハマる味にするよりも、80人の方に食べていただきやすい味にしたいと思っています。古くからの常連さんが多い一方で、最近ではSNSを見て来る若い方も増えてきているので、幅広い年齢の方においしく召し上がっていただけるようにしたいですね」。
いやいや、竹森さんが手がけるメニューも十二分に「ほかでは食べられない味」に仕上がっていますよ! 喫茶店の王道メニューであるトーストサンドにも、それぞれの店の創意工夫が見られるのは楽しいものだ。今度はツナやチーズのトーストサンドも食べに来ようっと♪
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=コバヤシヒロミ