気分転換に東京の東エリアへ
オレの狙い通り、ちゃんとエルボーは来てくれた。
今日は浅草橋駅で待ち合わせだ。
浅草橋と言えば、問屋街として栄え、近年ではハンドメイドの聖地としても知られる場所だ。
それだけではなく、グルメスポットも多数。
大衆酒場や多国籍料理など、さまざまな店で夜までにぎわっている。
蔵前はカフェが多いことでも有名だ。
エルボーはカフェをやっているいから、色んなカフェを知っているんだけど、「せっかくだったら『Webさんたつ』に載っているところに行ってみよう!!」ということで、『さんたつ』で「蔵前」というキーワードを入れると色んな記事が出てくる。
「ここは?」
浅草橋を盛り上げる期待の新星。カフェ『Pretty Good – coffee & donut』
「いいね。前を通って気になってたけどまだ入ったことはないの」
こちらのカフェは、浅草橋で長年カバンの製作や修理に携わってきた企業が業態変更し、ホテルをオープン。その一部として始めたカフェらしい。
「揚げたてドーナツ気になる!!けど、ショーケースの中のも可愛くて食べたくなっちゃうね。私、オールドファッション系のドーナツ好きなの!!」
エルボーはご機嫌だ。
カフェを出ると榊神社がある。
ご利益は健康長寿と諸業繁栄らしい。
「せっかくだからお参りして行こう。」
エルボーは何を願っているのだろうか……。
宅建ワンポイント:区画整理されている街・されていない街
せっかくなので田原町方面まで足を伸ばしてみる。
「ねえ、ここらへんって綺麗に四角くなってるよね。」エルボーがエリアマップを指差す。
写真のエリアマップを見てもらえばわかるけど、この界隈はきちんと区画整理されている。
道路もまっすぐでわかりやすいし、公園もあったりする。電気やガスはもちろんのこと、下水道などの生活関連施設もちゃんと整備されている。
いいでしょ、ちゃんと区画整理されていて。
……あ、そうか。「そこそこの都会だと、区画整理ってあたりまえなんじゃないの?」というふうに思っている人もいるかも。
では今回は、いろんな街角のガイドマップを見てみましょう。
ごくふつうに目にするガイドマップだけど「区画整理」という視点からながめてほしい。
最初に、この界隈のように、ちゃんと「区画整理」できている街から。おなじ「下町」と言われている東京の街です。
では、次。
区画整理ができているかどうか、駅を起点にして、東側と西側を見比べてみてね。
続きまして。この界隈も川を挟んで、東側と西側でちがうでしょ。
東京の港区あたりでも、ほらね。
六本木のこの界隈。
大通りから中に入ってみるとご覧のとおり。おおざっぱに入り組んでいて、ここを歩いていくと「どこに出るんだ?」とちょい不安になる感じ。
東京の渋谷区、広尾界隈もこんな感じだ。
東京の新宿区。
西新宿の特定街区(街区ごとに超高層ビルが建っている)の界隈と、隣合わせの南新宿界隈。
わかりやすいでしょ(笑)
ということでね、おなじ街だとしても、ちゃんと区画整理がされているところとされていないところが混在しているわけですよ。
みなさんは、どっちがいい?
そもそもの話なんだけど、どうして「区画整理」がされているところと、されていないところがあるんでしょうか。
そうです。
誰かが「区画整理」という事業(土地区画整理事業)をやったからですよね。
区画整理はだれがやる?
ちなみに、この「誰か」というのを土地区画整理法では「施行者」というんだけど、都道府県や市町村などが施行者となる「公的施行」というのと、民間の土地所有者や借地権者が設立した「土地区画整理組合」が施行者となる場合などの「民間施行」というのがある。
はい、ここでみなさん、ちょっと考えていただきたいのだが……。
公的施行だろうが民間施行だろうが、実際に区画整理をやろうとすると、住民のみなさんにいったんどいてもらうとか、既存の建物を移転させるとか、それ相当の大掛かりな工事となるわけだから、ものすごく手間もかかるし時間もかかる。
なので、かんたんには始められない。
かんたんには始められないし、かんたんに完成するということでもない。
ではここで、もうひとつの視点。
それは「区画整理」をしやすい界隈と、しにくい界隈というのがあるという見方。
たとえばですね、あ、そうだ、もう1回、新宿のガイドマップをみてもらおう。
西側の西新宿側は見事に区画整理されているでしょ。
区画整理しやすかったんですよ。
ここ、超高層ビル街になる前は、なんだったのでしょうか。
そうです。広大な淀橋浄水場でしたね。
つまり、民間の土地所有者らが入り混じって住んでいた街ではなかったので、区画整理がやりやすかったということ。
区画整理をやらなかったらどうなっていたか。
淀橋浄水場の移転にともなって生まれた、手つかずの広大な土地。
ここを「人が住める街」にするためには、まずは道路をちゃんと作らなければならないし、電気・ガス・上下水道などの生活関連施設の整備も必要だ。
ところがね、この広大な土地をなにもせず放っておくとどうなっちゃうか。
よくあるパターンですね。
道路も生活関連施設も勝手気ままにごちゃごちゃ作られて、なんの統一性もない乱雑な街になってしまう。
その前に、区画整理をやっちゃおうということだったわけです。
適地(例:大規模な工場の移転による広大な空き地)が出現したのだったら、四の五の言わずに、まずは区画整理をしちゃうのがいい!みたいなね。
たまに米軍基地の返還などが話題になることもあるけど、もし本当に返還されたとしたらあの広大な土地、やっぱり区画整理からはじまるのかな。
では最後にもう1回、今回の浅草橋・蔵前界隈のガイドマップを見てもらいましょう。
きれいに区画整理されていますけど、江戸の昔からこの界隈は「街」だったわけで、人もいっぱい住んでいて建物も密集して立ち並んでいたはずです。
ではどうして、このようにちゃんと「区画整理」されているのでしょうか?
そうです。
関東大震災からの復興として、震災土地区画整理事業が行われたからです。
それから、第二次世界大戦のときの東京大空襲の影響もあったかも。
戦後の復興として行われたのが戦災土地区画整理事業。
この界隈にかぎらず、東京の街で区画整理されているところは、震災土地区画整理事業か戦災土地区画整理事業のどちらかが行われているケースが多いみたいだよ。
「そろそろ夕方ね」
エルボーはそう言って、俺にすっきりとした笑顔を見せる。
「今日は楽しかった。……ありがとうございました」
……え? 楽しかった。
かった?????
それに、なんか、ございましたと丁寧語。
えーっ!? 過去形!!!
えーっ!? 丁寧語!!!
「じゃあね」
呆然とする俺を横目に、駅方面にくるっと振り向いたエルボーは軽やかに歩き始めた。
え、え、え、えるぼぉぉぉーーー!
俺の恋愛も整理されてしまうのか!?
取材・文・撮影=宅建ダイナマイト執筆人