まずは蕎麦屋で腹ごしらえだ。
それはそうと、エルボーが持ってきた『東京散歩地図』。
少しずつバージョンアップして、不動産情報も新しく入ったんだよね。散歩してその街が好きになったら住みたくなるもんね。
そんなことを話しているうちに定食がきた。
腹ごしらえをした後は散歩。
玉屋から横断歩道を渡ってすぐに吉良邸跡がある。赤穂の四十七士が討入りしたところで、『忠臣蔵』で知られるところ。
ここは当時の86分の1で、地元両国3丁目の融資が発起人となって邸内の「吉良公御首級(みしるし)洗い井戸」を中心に土地を購入して維持されているようだ。
今日も海外から観光で訪れている人も多数いた。
「街中にこんなところがあるって、歴史を感じられていい街だね。」
街が「長靴」になってしまうワケ
「今日はいいお天気だから隅田川沿いに行ってみない?」
ということでもう一度駅のほうに戻ってみる。
ではここで、歩道橋の上から見た景色。
並べてみる。
『宅建デートは突然に』を読んでくださっている方はもうお気づきであろう。
気付きましたよね?
……え???
という方のほうが多いでしょうから、写真に雑に補助線を入れてみました。
道路に沿った帯状の部分には2階建てくらいの建物しか建っていない。後ろには立派なビルが立ち並んでいるのに、なぜでしょう?まるで「長靴」のようです。
実際に、不動産業界ではこういう風景を「長靴」という人たちもいますが。
どうしてこんな「長靴」になっちゃうのでしょうか?
どうでしょう。思い出していただけましたでしょうか。
そうです。湯島・本郷編でもやりましたね。
道路の拡幅が都市計画で決定されているんですね。道路などの都市施設が計画されている区域を「都市計画施設の区域」と言います。また、計画段階での道路のことを「都市計画道路」とも。
この「都市計画施設の区域」では、都道府県知事の許可を受けなければ建築物は建築できません。なぜならば、将来、計画が事業化されれば道路になるわけだから、そうそう闇雲に好き勝手に建物を建てられちゃったら困りますもんね。
だから「許可制度」となっているんだけど、ここで問題が。お察しのとおり、計画段階から事業決定まで、けっこう長い時間がかかるんですよね。
たとえば、いまをときめく東京・港区の虎ノ門タワー。その開業に合わせて新虎通り(環状2号線=外堀通り)が整備されたんだけど、計画から事業決定までなんと70年くらい。となると計画決定されたのは終戦あたりで、かのマッカーサーが計画したという話もあって(諸説あるようだけど)、マッカーサー道路とも呼ばれる。しかし一向に事業化されないので「幻のマッカーサー道路」ともいわれる始末。ところが急転直下、東京オリンピック騒ぎが巻き起こり虎ノ門も再開発となって、道路計画が事業化されたのであった。
かようなことと次第で、計画から事業化までとてつもなく長い時間がかかるため、「都市計画施設の区域」で建築許可の申請があった場合、木造2階(東京都だと3階)までだったら許可が出る(建築できる)ということになっている。
つまり、事業化までその土地を暫定的に使ってていいよという意味合いなのだ。「長靴」はこうしてできるってわけ。
隅田川と荒川、人工的に作られたのはどっち?
そんなマニアックな話をしているうちに隅田川に着いた。
街角のガイドマップを見れば、このへんは隅田川と荒川に挟まれている。
東京を代表する2つの大きな「川」だが、さて問題です。
人工的に作った(掘った)のは、つまり「水路」だったのは、どっちの「川」でしょう?
この「河川」と「水路」なんだけど、もちろんふつうに生活してる分にはどっちでもいい話。
でも宅建試験の受験勉強をしていると、ほんの少しだけど「河川」と「水路」が登場する項目がある。宅地建物取引業法には「河川」や「水路」として使われている土地は宅地にはならないよという項目があるのだ。
宅地建物取引業法
(用語の定義)
第二条 この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号の定めるところによる。
一 宅地 建物の敷地に供せられる土地をいい、都市計画法(昭和四十三年法律第百号)第八条第一項第一号の用途地域内のその他の土地で、道路、公園、河川その他政令で定める公共の用に供する施設(=広場、水路)の用に供せられているもの以外のものを含むものとする。
〜以下略〜
そもそも河川や水路ってなにがちがうの?って話だが、かんたんにいえば、自然の状態で川だったら「河川」、人工的に掘削したりして作ったものだったら「水路」。法律ではそうやって呼び分けている。
あ、それでさっきの答えだが、正解は荒川。かつては荒川放水路と言われていたんだよね。
明治時代に、いまの隅田川がしょちゅう洪水を起こしてたいへんだったので、上流部分から西へ向かう水路を作ったということらしい。そんでややこしいんだけど、しょっちゅう荒れていた隅田川を「荒川」と呼んでいたんだって。
その分岐点になるのが、岩渕水門かな。
荒川の河川敷の公園や緑地に行ったことある人も多いと思うけど、どっちかというと、隅田川よりも荒川のほうが、いまや自然の「川」っぽくね?
隅田川のほうは「隅田川テラス」として整備されているんだけど、要はコンクリートでがっちり護岸を固めているわけで、水路っぽいんだよね。
あと、水路っていうほど大げさではないけれど、じつは街の中にも「水路」っぽいものがはりめぐらされている。
地下にだけど。つまり暗渠。
暗渠ってどういうところなのかというと、たとえば、かつては「のどかな小川」だったとことかですね。そこに人間が手を入れて水路っぽくして、さらに蓋をする。
なぜそんなことをするのか。
都市化の進展でなんやかんやあった、ということなんだけど、たとえばその「のどかな小川」を下水道にするという話が出た。
……え?下水道?と、思いますよね。まさかね、のどかな川を下水道にしちゃうの?って。
どういうことかというと、のどかな小川が流れていた界隈は、かつてはおなじようにのどかな環境だった。しかし市街化が進むに連れ、その界隈も宅地開発され、いつしか人が住み始めるようになる。
人が多く住み始めれば「衛生面をどうするか」みたいなことも問題になる。もちろん衛生面もさることながら、道路だ公園だ義務教育施設だと、人が集まる都市ならではの施設、つまり都市施設を整備していかないとね。
で、けっこう手間とお金がかかるのが、下水道の整備。なので「下水道をどうするか」みたいな話になったとき。
ふと見渡せは、なんだそこに小川があるじゃん。
あ、ちょうどいいじゃん。
そんじゃ手っ取り早く、その小川を下水道にしちゃえと。
蓋をしちゃって暗渠にしちゃえ、という流れですね。
この話もかつてしましたね。
道路拡幅と暗渠の関係に触れたこともありました。
隅田川の川面を渡る風が気持ちいい。
エルボーは持参してきた新しいほうの「東京散歩地図」をバックから取り出した。
「私も、新しいほうもいいなー」
私も新しい……新しいオトコがいいってこと……!?
取材・文・撮影=宅建ダイナマイト執筆人