近江牛を1頭買いし、店内でさばくから品質が良い肉を提供できる
新橋駅のA1出口を出たにぎやかな繁華街の中に『ラ・ブシュリー・オーミ』がある。看板に併記されている『近江牛肉店』というのは精肉の販売店としての屋号だ。
店頭にある「すべて近江牛です」「店内で焼肉が食べられます」というシンプルな看板が印象的だった。この店の推しポイントがスッと頭に入ってくる。ああ、お腹が減ってきたなぁ。
店内はテーブルとイス、煙を吸い取ってくれるロースターとシンプルで、壁には近江牛のうんちくや牛肉の部位の図解、肉の焼き方などが書いてある。それを横目に見ながらまずはオーナーの谷奥さんに話を聞いた。
「2002年に近江牛の専門店としてオープンしました。松坂、神戸、近江は3大銘柄牛と名高いですが、その中でも近江は最も歴史が古いと言われています。ウチは滋賀県で100年以上の歴史がある牧場さんから、品質の良い牛肉を直接仕入れています」と語る。
全国各地に銘柄牛があるが、なかでも近江牛は「肉が上質なのはもちろんですが、サシがキレイに入っていて芳醇な香りがありますね。そこに惚れ込みました」と谷奥さん。1頭丸ごと仕入れて、店内で加工し、できるだけ安く提供する努力をしている。
箸を入れた瞬間じゅわっと肉汁がしみ出る近江牛100%のハンバーグ
ランチは2015年よりスタート。いくらランチがお値打ちだっていっても、そこは日本三大和牛の1つ。さすがに財布から野口英世先生が2〜3枚出ていくんだろうなあ。なんて思っていたが!
ハンバーグや牛すじカレーはなんと1000円とな。「選べる焼肉ランチも好きな部位を2品選べて人気ですよ。けっこうみなさん、平日でもモリモリ召し上がりますね」と店長の渡邉福士さん。
2022年までは1250円だったハンバーグを2023年に入ってすぐ税込1000円に値下げしたという。世間は度重なる値上げラッシュに見舞われているというのになんとありがたい。ぜひ食べてみたいです!
「お肉を加工したときに、焼肉やステーキで提供するにはちょっと硬いところとかを無駄なくハンバーグやカレーにしているんですよ。みなさんにもっとお得に召し上がっていただこうと値下げしました。ただ、ハンバーグは1日15食限定ですから早いもの勝ちですね(笑)」と、谷奥さんはにっこり。
おお〜、早めにきて良かった。なんとか今日はご相伴にあずかれそうだ。
ほどなくしてテーブルに運ばれてきたのは赤い器に入ったハンバーグ。ゴマが香るわかめスープにあきたこまちのほかほかご飯。サラダにはごま油をベースしたドレッシングがかかっている。
ハンバーグに箸を入れた途端に肉汁が出てきたので、さぞ脂がこってりしているのだろうと思ったが、予想以上にあっさりといただける。なるほど、良質な肉の脂とはこういうものか。
谷奥さんが「硬い部分を挽肉にしています」と言っていたけど、ふんわりとしてニンニクが利いた上質なハンバーグだ。やや酸味があるデミグラスソースが肉の旨味を引き出している。付け合わせのほうれん草はバターソテーにされていて、これまた箸休めに最高じゃないの。お腹いっぱい、いただきました。
マニアックな部位もプリーズ。近江牛を隅々まで味わい尽くす
ランチでこの店の実力を確認したら、焼肉やステーキを食べてみたくなる。ディナータイムは、1頭買いならではのレアな部位も食べられるという。
「ほかの焼肉屋さんでも日替わりでいろんなお肉を提供していると思うんですけど、うちは種類がもっと多いです。毎日同じメニューではないので、来るたびに違う部位が食べられますよ」と渡邉さん。
鮮度バツグンの近江牛を隅々まで食い尽くす! なんて夢のような食道楽ではないか。肉好きさんのパラダイスとは『ラ・ブシュリー・オーミ』なり。
これまで何十年も肉バルや焼肉店などの飲食店の厨房に立ってきて、肉にはちょっとうるさい店長の渡邉さんも「いろんな肉を食べてきましたけど、近江牛はやっぱりうまい。これに尽きます」と近江牛のおいしさには太鼓判を押す。
ジュ〜ッと焼ける肉を想像したら喉が鳴った。とはいえ、一度ではこのグルメ御殿を攻略できるわけがない。熟考しながらオーダーを組み、ときにはおかわりをして3〜5度目の来店でやっと一巡ってところでしょうか。長い旅になりそうだ。
そんじゃ、カルビに赤身、ハラミやタン、ホルモンまで、卓上のガスロースターで思い思いに好きな部位を焼いて楽しんじゃってください。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢