ライター不在!どうする!

取材当日の朝、事件は起こりました。普段お世話になっているライターのくーりーさんから「体調不良で休みます。」と、1通のLINEが。もう既に、取材先も訪問時間も決まっています。

このご時世、くーりーさんに這って頂いてまで取材へ同行させるわけにいきません。今回はセキ・ア・ラ・モード1人で全てを担当せざるを得なくなりました。そんなわけで、当記事は全てセキ・ア・ラ・モードのみで書かせて頂きます。

正直「いつか1人で更新する日が来るかもしれない」とは思いましたが、まさか企画が始まって、たった3回目で訪れるとは。

いつもならば序章で、僕が集まるまで3回も遅刻したり、駅に着いてからネタで使うフリップを入れる為にコインランドリーを探そうとしたりと、様々な失態を晒して参りました。しかしながら、今回は一切そういった僕のミスは描かれません。また、道中の茶目っ気たっぷりな会話もありません。どうか、ご容赦くださいませ。

いざ、駅から取材先の喫茶店まで1人散歩

都営新宿線を使って、神保町駅まで向かいます。
東京メトロに乗る度いつも感動するんですけど「駅の何両目で降りれば、効率良く改札を抜けられるかマップ(正式名称をご存知の方が居たら教えてください)」を考えた人って天才ですよね。

「A6~A9」でまとめて順路を示す看板と「A6~A8・A9」で刻んで順路を示す看板。この差って何ですか。

そんな細かいことを考えながら、都営新宿線・神保町駅のA7へ。地上階です。

今回の取材先『さぼうる』さんは、左手すぐ。
お気付きでしょうか。もう、お店の看板が見えています。目的地に到着しました。

くーりーさん、編集部の方々。そして、読者の皆様。セキ・ア・ラ・モードは決して、散歩をサボったわけじゃないんです。ウソでも何でもなく、最寄りのルートがコレなんです。疑わしければ、確かめに行ってみてください。

『さぼうる』さんと僕

今回、取材させて頂く『さぼうる』さんは1955年創業、2022年時点で67年目を迎える喫茶店です。
僕は大学を卒業するまで、ずっと宮城県仙台市に住んでいました。昔、東京は観光地として年1回ほど遊びに行っていました。
父が東京の生まれでして、学生時代を神保町で過ごしており、「東京へ行ったら神保町の『さぼうる』へ行ってみて。」と教えられ利用したのが最初です。

入店したときは衝撃でした。「外はカレーの香りと古本でいっぱい。学生さんやサラリーマンでひしめいているのに、ドアを開けた途端に飛び込んでくるログハウスのような内装!異世界すぎる!」驚きが止まりませんでした。僕の喫茶店好きが開花した瞬間です。実は、人生初の喫茶店が『さぼうる』さんだったわけです。まさか8年後、あの頃は学生だった僕が「喫茶店大好き芸人」のセキ・ア・ラ・モードになって、取材をさせて頂けるなんて。人生、何があるかわかりません。

まずは『さぼうる2』で昼食を

『さぼうる』さんは、喫茶・軽食をメインとした『さぼうる1』さんと、お食事をメインとした『さぼうる2』さんの、2店舗が隣接しています。

取材当日は雨天だったのに、なかなかの行列。

食べログさん「喫茶店百名店2021」の楯の横にチャーミングな達磨さん達を添える、独特なフォーメーション。

僕が頼んだのはコチラ。

圧巻のナポリタンです。
「水曜どうでしょう」のシェフ大泉を思い出すほどのボリューム。これが、飽きることなく食べられるんです。是非お腹を空かせて行きましょう。

食後のアイスコーヒーも、喉越しと飲みやすさがたまりません。この日は割と気温が高かったのですが、なんと飲み終えるまでグラスからフワ~ッと冷気が出ていました。手割り氷たる所以ですね。

干支の達磨を揃えているのかと思いきや、十二支に入れなかったネコちゃんも2匹ほど居ました。眺めているだけで和める、素敵なコレクションです。

いざ、思い出の地『さぼうる1』へ

『さぼうる2』さんで満腹になった後、いよいよ僕が喫茶店好きを開花させた『さぼうる1』さんへ。
どうでも良いですけど、2から1へ行くみたいな流れ、映画「スターウォーズ」みたいですね。すみません、今のは適当です。あと、書いていて思い出したんですが僕は「スターウォーズ」を1作品も観たことがありませんでした。知りもしないのに、どうして喩えに使ってしまったんだろう。悪いクセです。

接客力の高さに感動

入ると直ぐに、伊藤雅史店長の奥様・智恵さんが僕を席まで案内してくださいました。このときの導線が、とにかくスムーズなんです。
僕は芸人をやる前、スーツ屋で売り場に立ち接客業をしていたこともあり、喫茶店を巡る上で店員さんの応対は注目して見てしまいます。元職業病です。
少なくとも僕の知る限り「さぼうる」さんで働かれている方々はテキパキとされていて、所作やコミュニケーションに無駄がありません。1名様は階段上の席へ、2名様以上は階段下の席へ、テキパキとアテンドしていきます。

取材にあたって、店内や店外の写真を撮影させて頂くときも「赤い電話があった方が良いですよね!今、出します!」と、その日は雨で出していなかったトレードマークの赤電話を、わざわざ奥から出してセットしてくださいました。
こういった細かな配慮の数々は、決して「僕が取材で使わせて貰えたから」では無いと思っています。
先代マスターの鈴木文雄さんは、お客さんで子供が来ると帰りにサービスでバナナを渡してあげていたそうです。お店では近所の八百屋さんを「バナナ屋さん」と呼んで通うほど、常にバナナのストックは絶やさなかったと伺いました。
こういった「おもてなしの心」は今の伊藤夫妻になっても変わらないんだな、と僕は改めて感じました。

ちなみに僕は4年ほどスーツ屋で正社員として働いていましたが、お客様に余計なことばかり言って怒られていました。それから、すべきサービスをし忘れたことも多々あります。セキ・ア・ラ・モードが、おそらく喫茶店で働くことは不可能でしょう。

いつもは「ピザトースト」を頼むのですが、この日は「さぼうるミックストースト(チーズ・ツナ)」を注文。
このときのオーダーも迷いましたが、丁寧にヒアリングし注文を一緒になって決めてくださいました。

『さぼうる1』といえば、7色のクリームソーダです。SNSでも頻繁に見かけます。毎回どの色にしようか迷ってしまうのですが、ここでも智恵さんが「取材で来るカメラマンさんは、水色を選ばれる方が多いですよ。」とコッソリ教えて下さいました。情報の質もタイミングも、完璧です。
僕が撮る角度で迷っていたら「ここから撮られる方が多いですよ。」と、これまたナイスアシストを頂きました。おかげさまで、大変キレイに収まりました。

それから僕は、ここのスプーンが大好きなんです。
先端は耳かきのような形をしておりまして、おかげでバニラアイスが尋常じゃなく掬いやすいんです。雅史店長に伺いましたら「今は探しても、なかなか見つからない」そうです。僕が見てきたスプーンの中でも、突き抜けてタイプです。ドリンクの色ごとに、スプーンの柄が合わせてあるのも素敵。

プロのオススメ

お笑いの世界では「プロの芸人が面白いと思う芸人は面白い」という理論があります。同じように喫茶店の世界でも「プロの店員さんがオススメして下さるメニューは美味しい」という、実に勝手な理論が僕の中であります。ですから今回、お2人にもオススメのメニューを伺ってみました。

雅史店長のオススメはミルクセーキ。シェーカーで迅速かつ丁寧に作ってくださいます。

上方・階段近くの席に座れると、カウンターでの立ち振る舞いも見られるのでオススメですよ。

そういえば僕、この日だけで大盛りのナポリタンにアイスコーヒー、ミックストースト、クリームソーダ、ミルクセーキといっているんですよね。なんだか「いきなり!黄金伝説」を彷彿とさせます。

さらに余談ですが、喫茶店大好き芸人を始めてから僕は胃袋が大きくなりまして、先日3年半ぶりに受けた健康診断で6キロも太っていました。売れていない若手芸人が恰幅良くなるなんて、世にも奇妙な物語です。
智恵さんのオススメは、レモンスカッシュ。あまりにも飲みたさ過ぎて取材翌日、普通にプライベートで飲みに行ってしまいました。生搾りのレモンは果汁感も充実していて、実に爽快でした。

僕にとって、『さぼうる』最大の謎に迫る!

今回の取材にあたって、学生時代『さぼうる』さんを利用していた父へ事前に質問を募いました。
するとLINEで「壁の落書きを止めさせなかったのは何故ですか?」という質問が。たしかに、僕も疑問だったことです。

『さぼうる』さんといえば、レンガ造りの壁一面をビッシリと埋め尽くすほどの落書きが名物。シンプルに来店した日付が書かれているものもあれば、どういうわけかレンガ1枚に大きく「光GENJI」と書いてあったり……。
ある種さぼうるさんのトレードマークと申しても過言ではありませんが、なぜ落書きを容認しているのか?
すると雅史店長は「落書きは禁止にしているんです」と。お店の壁に落書きなんて、しちゃダメなんです。愚問ですよね。伊藤夫妻が携わる16年前から、既に落書きはありました。先代の鈴木さんも、落書きを止めさせようとしていたそうです。一時は消す作業までされていたといいます。
ただ、どうもハッキリとは拒まなかったようなんです。
お2人は「今でもダメとは言っています」と仰っていました。これに、智恵さんがひと言だけ付け加え「やるならバレないように……」と。
これ以上、この日の取材では深く追求することが出来ませんでした。
ここからは完全な僕の想像になるんですが、おそらく伊藤夫妻は「壁の落書き」を、先代が遺した「さぼうるにある作品の1つ」として捉えていらっしゃるんじゃないか、と思いました。だからスタンスも同じように引き継ぎ、あえてグレーな空気にされているのかな、と。

先代マスター・鈴木さんの意志を継ぐ、伊藤夫妻

伊藤夫妻は元々ここで従業員として働いており、その縁で出逢われました。その前は、お客さんとして利用されていたそうです。そして、今はマスターになっています。
全く違う人が経営を代わることはありますが、実の息子やお弟子さんなどでもなく従業員の方が後を継がれるケースは、僕の知る限りですが割と珍しい気がします。
僕が話を聞いていて感じたのは、伊藤夫妻から滲み出る先代マスター・鈴木さんへの愛情と敬意です。
先代のこだわりで、夏になると必ずお店には「スズムシ」「風鈴」そして「アサガオ」を飾る風習があるそうです。
とりわけ「アサガオ」については鈴木さんが真夏の暑い中、自ら市場まで買い付けに行っていたといいます。そして、お店へアサガオにとってコンディションの良い状態で持って帰りたいがために、公共交通機関は使わずタクシーに乗り「アサガオの温度に合わせたいから、エアコンを止めてください。」と運転手にお願いし、車内を暑くするほど大事に運ばれたそうです。しかし、お店に着くやいなやアサガオは速攻で店内の涼しい場所に置かれていた、と。
この他、数々のエピソードトークを披露して下さったのですが、いずれも実のお父様であるかのように懐かしんで話して下さった姿が印象的でした。どれほど鈴木さんが愛されているか。そして、そのイズムを引き継ぐ伊藤夫妻の温かな人柄も感じ取ることが出来ました。
店内には、鈴木さんの位牌も飾ってあります。

伊藤夫妻にとって、そして古くからのお客様にとって、『さぼうる』は鈴木さんそのものを表しているのでは無いかと感じました。

セキ・ア・ラ・モードの夢、いつかここでライブがしたい!

お客さんやロケ地として『さぼうる』さんを利用する芸能関係の方は多くいらっしゃいますが、以前ここで働いていた芸人さんもいたようなんです。以前は、ここで「落語会」を開いた方もおられたと伺いました。
ひと通り取材も終わる頃、雅史店長が僕に「いつかウチでライブでも」と言って下さったんです。夢のような話。

いつかセキ・ア・ラ・モードが主催ライブをやれる身分になったら『さぼうる』さんで開催することを、芸人としての目標にします。そのときは、紹介してくれた父も必ず招待したいですね。

【 住所 】東京都千代田区神田神保町1-11
【 アクセス 】JR御茶ノ水駅から徒歩6分ほど、地下鉄新宿線・三田線・半蔵門線神保町駅から徒歩1分ほどに位置している
【 TEL 】 03-3291-8404
【 営業時間 】 11:00~17:00
【 定休日 】日、祝日不定休
※上記は2022年12月時点での店舗情報です。

取材・文・撮影=セキ・ア・ラ・モード(サンポー)