老若男女問わずに愛する絶品ハンバーグ!

「腹いっぱいになるだけじゃなくて、“本物”を食べたいって思ったなら、ウチの店に来てほしいね」――店主の柴田さんがそう語ってくれたのが、『ウチョウテン』という洋食屋だった。

JR池袋駅から歩くこと8分ほど。チェーン店やショッピング街から離れ、街の雰囲気は次第にビルが立ち並ぶオフィス街の様相に。豊島区役所近くにあるちょっと年季の入った赤と白のファサードが目印のこのお店は、池袋界隈では知る人ぞ知る洋食店。コロナ前は開店前から行列ができるのは日常茶飯事で、メニューが売り切れて早じまいする日も少なくなかったという。

外観は昔ながらのファサード(テント)が印象的。取材当日もお店は満員御礼というほど大賑わいだった。
外観は昔ながらのファサード(テント)が印象的。取材当日もお店は満員御礼というほど大賑わいだった。

この日、お店にお邪魔したのはランチのピークを過ぎた13時30分ごろ。「この時間くらいから空いてくるよ」と伺っていたのだが……実際はお客さんがカウンターからテーブル席までびっしりと座っていて、さらには外に数人並ぶという盛況ぶり。その顔触れは大学生風情の若者のグループから、近所に住んでいる様子のご老人まで多種多様。誰もが一心不乱になって柴田さんたちの作る料理に舌鼓を打っていた。

店内の様子。昔ながらの洋食屋といった風情の店内だが、席数は全部で30席ほど。
店内の様子。昔ながらの洋食屋といった風情の店内だが、席数は全部で30席ほど。

混雑緩和のため、ホール担当のスタッフが並んで待っているお客さんから注文を取っていたので、その一部始終を見ていたが……どうやら1番人気は「黒毛和牛のハンバーグ」。それにシーフードクリームコロッケを付けるかどうかという感じだった。

他にもメンチカツ、高級ブランド豚肉として名高い林SPFを使用したポークジンジャーやロースカツなどの魅力的なセットがあるにもかかわらず、ハンバーグが断然の支持を集めている。ふとカウンターに目をやると、どのお客さんもハンバーグでご飯をおいしそうに食べているのだから、この人気は本物だろう。

名物のハンバーグは評判が高く、飾られていたトロフィーや盾から、これまでに数々の賞を受賞したことがうかがえる。根強いファンがいるのもうなずける。
名物のハンバーグは評判が高く、飾られていたトロフィーや盾から、これまでに数々の賞を受賞したことがうかがえる。根強いファンがいるのもうなずける。

ご飯との相性を考えたオリジナルのデミグラスソースが絶品!

本来ならメニューをいただく前に、オーナーのお話を伺うようにしている筆者だが、この日は柴田さんたちのリクエストもあり、先にメニューをいただくことに。選んだのはもちろん黒毛和牛のハンバーグとシーフードクリームコロッケだ。

半数以上のお客さんが注文するという黒毛和牛のハンバーグとシーフードクリームコロッケ1390円。味が混ざらないようにハンバーグとコロッケが別皿になっているのが嬉しい。
半数以上のお客さんが注文するという黒毛和牛のハンバーグとシーフードクリームコロッケ1390円。味が混ざらないようにハンバーグとコロッケが別皿になっているのが嬉しい。

テーブル席に着き、数分で注文したメニューが到着。セットのごはん、味噌汁に加えメインのお皿にはデミグラスソースがたっぷりと掛かったハンバーグに千切りキャベツとマカロニサラダ、そしてハンバーグと相性抜群な目玉焼きが盛られていた。普通の洋食店ならここにコロッケも盛りそうなものだが……デミグラスソースの味が混ざらないようにコロッケは別皿に盛られ、タルタルソースが添えられていた。

黒毛和牛を使用することで深みのある味わいになるハンバーグは箸で切ると肉汁が……!付け合わせのマカロニサラダも手作りなのが嬉しい!
黒毛和牛を使用することで深みのある味わいになるハンバーグは箸で切ると肉汁が……!付け合わせのマカロニサラダも手作りなのが嬉しい!

まずはハンバーグ。箸で切り込みを入れるとそれだけで肉汁があふれ出るほどジューシーで、一口食べれば肉のうまみがダイレクトに広がってくる。そしてお店オリジナルのデミグラスソースとの相性も抜群だが、このデミグラスソースはお店独自のこだわりがあるという。

「ウチのハンバーグは『ご飯に合う』ってことに重きを置いたので、デミグラスソースもご飯に合うようにデミグラスソースには欠かせない赤ワインをあえて使わないで作っているの。黒毛和牛のすじ肉を仕込み担当のウチの次男が朝5時から夜の9時まで1日がかりで煮込むから、手間も暇もかかっているよ」

そして、もう1つ驚かされたのがシーフードクリームコロッケ。ゴツゴツとした形のコロッケを箸で割ると、中からはホタテにカニ、そしてエビまでゴロゴロと現れた。ホワイトソースだけにご飯に合わないイメージもあるが、これもご飯との相性が抜群。その裏には柴田さんのこだわりがあった。

「クリームコロッケに使うホワイトソースは鳥取の大山の地鶏からとったスープをベースにして作っていて、そこに魚介類を組み合わせるようにしている。海の幸をふんだんに使った上に鶏も併せているから深い味わいになると思うよ」

ゴツゴツした見た目のシーフードクリームコロッケの中には、ホタテやカニ、エビなどのシーフードがてんこ盛り。もちろんご飯との相性もばっちりだ。
ゴツゴツした見た目のシーフードクリームコロッケの中には、ホタテやカニ、エビなどのシーフードがてんこ盛り。もちろんご飯との相性もばっちりだ。

柴田さんの言葉通り、深い味わいのシーフードクリームコロッケとハンバーグを堪能しつつ、無心で食べ続けて完食。時刻もランチタイムを完全に過ぎ、ひと段落付いたところでようやくインタビュー取材がスタートした。

家族総出で命をかけて作る、本物の味わい

今でこそ「池袋きっての洋食屋」として根強い支持を受けている『ウチョウテン』だが、柴田さんによるとオープン当初は今の繁盛ぶりとは程遠かったという。

「例えばハンバーグは焼くのに15分くらいかかるのね。それだとオフィス街で働くサラリーマンとかはお店から遠のいてしまう。だから最初は今よりも安い定食メニューを出していたかな」。現在は1日100食出る日もあるというハンバーグは当時、1日5食出ればいいというくらいに人気がなかったという。

池袋屈指の人気店だけあり、テレビなどの取材も多数。芸能人にも熱烈なファンがいるのだとか。
池袋屈指の人気店だけあり、テレビなどの取材も多数。芸能人にも熱烈なファンがいるのだとか。

変化があったのは意外にも狂牛病の蔓延。柴田さんたちも当然、大きな被害があったと思われるが、実はこれがキッカケとなり肉の仕入れ先を現在のところに替えたことで、安定して国産の黒毛和牛を使ったハンバーグを提供できるようになり、人気に火が付いたという。このハンバーグを食べたいという思いから、都内はおろか県外からもやってくる客が後を絶たないという。

「池袋だから想像がつくだろうけど、埼玉からのお客さんが多いの(笑)。意外と地元の人より県外から来てくれるお客さんの方が多いかも。遠くからわざわざ来てハンバーグを食べに来てくれたなんて言われたら嬉しいし、家族総出で命がけで作った甲斐があるよね」

すべてが手作りだからこそ楽しめる本物の味わい。『ウチョウテン』でないと食べられない味をぜひ堪能してほしい。

住所:東京都豊島区南池袋2-36-10 SoHo103/営業時間:11:30~14:00LO・18:00~19:45LO/定休日:日/アクセス:JR・私鉄・地下鉄池袋駅から徒歩8分

構成=フリート 取材・文・撮影=福嶌弘