情報の発信源として注目されるアキバでカレー屋を開きたい
秋葉原駅電気街口を出て、アキバらしい電気屋さんや模型屋さんなどを眺めながら中央通りを末広町駅方面へ。蔵前橋通りを左に曲がってしばらく進む。『カリガリ』があるのは、昌平橋通りに出る少し手前。“神田カレーグランプリ優勝”ののぼり旗が目印だ。
店頭の看板には、バラエティに富んだ独創的なカレーが並ぶ。種類豊富なメニューは、見た目にも楽しい。
出迎えてくれたのはオーナーの二木博さん。お店の定番であるカリガリカレーは、二木さんが以前勤めていた銀座のクラブで出していたカレーがルーツなんだそう。「日本風のカレーを出すとせっかく店に来てくれたお客さんが家に帰りたくなっちゃうと思って、タイ風のカレーを作って出してました」と笑いながら話す二木さん。
「でも実は、自分がタイカレーのシャバシャバ感があんまり好きじゃなくて、作る度に改良を重ねて、日本人が好きそうなドロドロ風のカレーを作ったらこれが好評で。気づいたら、来店してまず座って『カレーちょうだい』ってオーダーするお客さんが増えてました(笑)。自分好みのカレー作っていたらそれをみんなが好きになってくれたっていう感じです」。
この、ココナッツベースでドロドロのカレーが、現在の『カリガリ』の定番であるカリガリカレーだ。「このカレーが世の中で通じるのか自分で試してみよう」と2005年、渋谷に『カリガリ』をオープンした。
もともと「いつか情報の発信源として世界から注目される“アキバ”でカレー屋をやりたい」と考えていた二木さん。念願かなって秋葉原にオープンしたのが2015年のこと。
お家のカレーに近い食感のスパイスカレー
今回いただいたのは、2色がけカレーに人気のトッピングをのせたアキバ盛りカレー1。
カレーは、ココナッツベースのカリガリカレーと、20種類以上のスパイスを使った本格インドカレーの2色がけ。ここに人気のトッピングを盛り合わせたボリューム満点の一品だ。
トッピングはチキン竜田、揚げナス、ポテトフライ、うずらの卵、チーズ、パクチー。
銀座のクラブのカレーがルーツとなっているカリガリカレーは、とろりと濃厚。「タイカレーを日本風にアレンジしていったので、豚、タマネギ、じゃがいも、チーズなど、いろんなものが入っています。それを圧力なべで半日煮込んで、具材の形がなくなるまで溶かしちゃう」と二木さん。
たしかに、普通のタイカレーとはまったく違って、日本のお家のカレーに近い食感。辛さも程よく、これはクセになる味わい!
インドカレーの方は、20種類以上のスパイス、大量のタマネギ、チキンをこちらも圧力なべで煮込んでいる。スパイシー感があるが、それでいて辛すぎず、後味がやさしい。
最後はカレーの合いがけの醍醐味、2色を混ぜ混ぜして完食。おいしかったー! トッピングがもりもりすぎて、正直最初は全部食べきれる自信がなかったけど、あっという間に食べきってしまった。満腹。
芸人とコラボの“間借りカレー”も展開中
二木さんにお店のコンセプトを伺った。
「“文化、建設中”をスローガンに、カレーを使った面白い活動を発信するというのをずっとやってきています。これまでも、著名人とコラボカレーを作ったり、ライブハウスを貸し切ってライブを開催したり。カレーにこだわるのではなく、カレーを通じて文化を作っていきたい」。
そんな二木さんが現在展開しているのは、“間借りカレー”。夜に営業するバーや居酒屋さんの空き時間にお店を間借りして、ランチ営業をするカレー屋さんだ。
「店を出すのにはそれなりにお金がかかるわけで、昼の少しの時間だけのためにお店を新規オープンするのは現実的ではない。それなら間借りという文化を活用して、場所を借りたい人と貸したい人をマッチングしてあげればいいと考えたんです。メニューは『カリガリ』でプロデュースしたカレーを出せばいいと」。
現在はお笑い芸人かもめんたるの槙尾さんとのコラボで、三軒茶屋で『マキオカリー』を間借り営業している。
「芸人さんは1回売れてもなかなかテレビに出られなかったりで、アルバイトをしないと生活ができなかったりするんですけど、1度顔が売れちゃうとコンビニとかでバイトするのってつらい。それで深夜の清掃業とかをやってる方が多いんです。でも、逆に思いっきり顔出しして、本人が店頭に立ってますよ、おいしいカレー出してますよ、とプレゼンする。そうすればファンの方が来てくれたりするじゃないですか」と二木さん。
自分をブランドにしてマネタイズする、そんな働き方の提案。収入に困って芸をあきらめざるを得ない芸人さんが減ってほしいという二木さんの思いがこもった活動だ。
実は「ラーメンが一番好き」という二木さん。2022年には巣鴨に馬刺し専門店をオープンするなど、カレーにこだわらず、新しいことに次々と取り組んでいる。今後についてはどんなことを考えているか聞いた。
「飲食店という固定概念になるべくとらわれないようにやっていけたらなと思っています。店舗に立ってずっとおんなじことをしていられないんですよ。いろんなことをやっていないと(笑)」
これからどんな楽しい文化を発信してくれるのか。今後も『カリガリ』から目が離せない。
取材・文・撮影=丸山美紀(アート・サプライ)