インパクトのある赤鬼らーめんと青鬼らーめんに野菜らーめんも人気

『らーめん一蔵』があるのは高円寺南口から歩いて5分ほどの場所。高南通りを中野側に折れたところだ。ラーメン店が多い高円寺駅周辺で、2001年から20年以上にわたって営業している。

店の前に券売機があるスタイルが珍しい。5つ並ぶ中で赤鬼らーめんと青鬼らーめんという名前が気になってしまう。

赤鬼らーめんは開業当時からのメニューで、味噌らーめんに辛味噌を加えたもの。対となる青鬼らーめんは、オープンから数年後に賄(まかな)いから生まれたメニューとのこと。痺れる山椒を中心にオリジナルブレンドの七味を加えて、辛味の強さを強調したラーメンだ。「青鬼らーめんは、結構辛いので、食べ切れないとおっしゃるお客さんもいます」と話すのは店主の出水一慶(でみずかずよし)さんだ。

『らーめん一蔵』がベースとしているのは札幌ラーメンだ。麺は卵が入っていてクリーム色。埼玉・戸田に工場を持つ「サッポロ製麺」から仕入れている。綿密な打ち合わせの結果生まれたコシの強い縮れ麺だ。

世間の平均が太くなったから、中太だった麺は今や中細扱いに

味噌野菜ラーメン970円。野菜が山盛りに入っている下から、麺を発掘。
味噌野菜ラーメン970円。野菜が山盛りに入っている下から、麺を発掘。

「オープン当初は中太と言っていましたが、最近太麺が流行ってきたので、今では中細と言われるようになりました」という、出水さんの冗談とも本気ともつかないコメントが、20年という時間を感じさせる。

まろやかなスープは、ごまの風味も。健康のためにスープは残すようにしている人も、いつもより多めに飲んでしまいそうだ。
まろやかなスープは、ごまの風味も。健康のためにスープは残すようにしている人も、いつもより多めに飲んでしまいそうだ。

スープのベースは豚骨8割、鶏ガラ2割。ひとつの鍋で10時間炊く。白濁はしているが、高齢のお客さんでも食べやすいようにと、こってりしないように気を配っている。

味噌は3種類を合わせて、さらに擦りゴマを加えている。まろやかなスープは一味唐辛子がアクセントになっている。塩分がそれほど高くないのも好感触。

野菜の香ばしさもおいしさの要素。
野菜の香ばしさもおいしさの要素。

『らーめん一蔵』では、ごま油で炒めたもやしが入るメニューが多いが、名前に野菜とつくラーメンには、キャベツやピーマン、ニンジン、玉ねぎ、そして豚ひき肉が加わって、まさに野菜たっぷりだ。調理中の店内には、ごま油の香りが充満し、野菜を炒める中華鍋とお玉がぶつかるカンカンカンという音が小気味よい。

野菜炒め以外の具は、チャーシューとメンマ、そしてのり。豚バラ肉で作るチャーシューは3時間煮たあと、一晩寝かせて、翌日別のタレで表面をしっかり焼き上げるというなかなか手の込んだもの。分厚めに切られていて食べ応えのある1枚だ。

実は麺の代わりになるようはるさめも用意している。「カップルで来店された女性のお客さんから、麺抜きでというリクエストを受けることがあったんですよ。店で作っているスープを味わいに来てくださるのは嬉しいものです。でも、さすがにスープと具材だけは寂しいじゃないですか。だからはるさめも用意するようになりました」。

ヘルシー志向のお客さんや、本当はラーメンを食べることを医者に止められているが、好物を月に1度ぐらい食べたいというお客さんなど、長年やっていればいろんなお客さんがやってくる。そもそもそんなお客さんがやってくるのは、もともとのラーメンに野菜がたっぷり入っていること、スープがまろやかなことも理由に違いない。

時代の流れで変遷してきた営業時間。深夜に働く人の野菜不足解消に貢献

野菜たっぷりがうれしい。
野菜たっぷりがうれしい。

『らーめん一蔵』が誕生した当時、高円寺には他に味噌ラーメンのお店が珍しく、味噌なら勝負できるのではないかと考えたそう。メニューはオープン当初からある赤鬼らーめん、味噌らーめん、醤油らーめん、塩らーめんに青鬼らーめんが加わった形だが、「どれかに特別力を入れているわけではないですよ。全部手を抜かずに作っています」と出水さんは話す。

オープン当初朝5時まで営業していた。リーマンショックや東日本大震災など、大きな出来事があるごとに営業時間を変更してきた。今も遅くまで働く人のために、本来の営業時間は平日が午前2時、金土は3時までだ。

当たり前のことだけど、と前置きして「夜勤の人や、飲食店で働いている人もお客さんにアツアツのラーメンを食べてもらう。毎日来てくれる人に昨日よりもちょっとでもおいしくラーメンを食べてほしいという気持ちでやっています」と出水さんは話す。その基本的な姿勢も、強く持ち続けるのは難しいし、そうでなければ長く店を守ることは難しいに違いない。

夜遅くまで働く人ほど、野菜を食べる機会が少なくなる。そんなニーズに応えてきたのだろう。おいしいことは大事だけれど食べ物はその人の体と暮らしを支える要素でもある。街の人に寄り添う店はありがたい存在だ。

住所:東京都杉並区高円寺南4-23-1/営業時間:11:00~翌2:00(金・土は11:00~翌3:00)※変更の可能性あり/定休日:無/アクセス:JR中央本線高円寺駅から徒歩5分

取材・撮影・文=野崎さおり