駅周辺にあった警告看板ですが例によって赤い文字が紫外線に負けて、ただ黄色いだけの短冊のようになっていました。こうしてみるとやたらと足の長いプロポーションが独特で、「スリム看板」というネーミングもうなずけます。
偶然にも、カーブミラーのオレンジ色のポールと斜めのワイヤーを覆う黄色い円筒カバーと交差していて、グレーの街並みの中でひときわ目立っています。直線が交差した様子は作者不明の抽象的なオブジェのようで、どこかロシア構成主義風にも見えます。
電柱とブロック塀の隙間から「ちかん・ひったくり」が顔をのぞかせていました。よくみると片足が壊れて傾いているんですね。年季の入った防犯啓発看板もこうなると邪魔で怪しい感じしかしません。早めのお取り替えをお願いします。
赤い塗料は耐光性のものを使用してくださいとあれだけ言っているのにやっぱりこの有様です。このまま放置していると完全に消えるのも時間の問題でしょう。
でも、ちょっと待ってください。今まさに消えていくこの過程で、なんとも言えない微妙な筆跡が浮かび上がってきていることに注目です。特にこの看板上部の赤い部分。これは一体何が描かれていたのだろうかとしばらく首を傾げてしまいました。
何かの絵を想像しているとなかなかわからない難問ですが、正解は赤い爆発マークの中に「危い!」という文字が斜めに(多分黄色で)書かれていたようです。
さらに下の方を見ると「飛」の字の右の点々の部分などに看板屋さんの丸筆と思しき絶妙な筆づかいまで見て取れます。なんとこの手の看板は一枚一枚手書きだったというのも驚きです。
ここにもまたひったくりが現れました! スリム看板だと足が邪魔なので電柱に直接針金でくくり付けられていますが、それでも斜めになってしまうのは一体なぜでしょう。交通看板が斜めになっているのは見ない気がするので、「ひったくり看板ナナメの法則」とでも名付けたい謎の現象です。
勝手な憶測で深読みすると、同じ警察署の名前が入っていても連名の団体が交通看板は地域の交通安全協会、ひったくり看板は防犯協会と管轄が別だと設置の予算や交換の頻度まで違うのかもしれません。
さて、ここまで観察をしながら明らかになってきた通りスリム看板は足が壊れやすく傾きやすいことから、最近の黄色い安全看板はビニール製の巻き付けタイプの電柱幕に変わってきています。
ところが、それでも無言化の波は止まりません。いや、ビニール上の赤文字はむしろ劣化が早そうにも見受けられます。
これなどは赤文字がすっかり消えて、黒の四文字しか残っていません。「事故多し」……隣は何をするひとぞ? いやいやそんなわけはない。
とりあえず事故が多い場所であることはわかりましたが、元の標語はまったく想像もつきません。
こちらは「学童」の二文字だけ。ここまでくると前後の文字は完全に再生不能です。
でも、ドライバーは「学童」というたった二文字を見ただけで、ここが通学路であり子どもの急な飛び出しに気をつけて減速して走行しなければならないという様々な情報を一瞬で察知するはずです。だとすれば、これはある意味イラスト看板で有名な「飛び出し注意くん」のテキスト版といってもいいのかもしれません。
文字がすべて消えてしまいそうな電柱幕ですが、それでも黄色の地色だけでドライバーに向けた注意喚起だということはわかるので、どのクルマもここでは消えかけた文字を読むために必ずブレーキを踏んでいくのです。
もしかしたらこれはクルマを必ず一時停止させるための作戦なのか?
目を凝らしてよく見るとうっすらと書かれているのは「一時停止」ではなく「右折禁止」なんですけど、とりあえず安全は確認されたということでここは結果オーライとしましょう。
ではドライバーのみなさん、今日も安全運転で、お気をつけて。
文・写真=楠見 清