A little hope《儚い願い》
A little hope《儚い願い》

電柱は送電や電信以外にも住所を案内する街区表示板やスクールゾーンなどの巻付表示が取り付けられていますが、これに便乗してさまざまな広告や注意書きなどのポスターが勝手に貼られています。こうした電柱の無断利用は多くの自治体が屋外広告物条例で規制していますが、まちの問題解決のために止むに止まれず近隣の住民が自主的に掲示したものを私は「インディーズ標識」とか「勝手看板」と呼んでいます。

上の写真は、そのインディーズのマナー・ポスターの文字が大方消えてしまい、電柱の目の高さの位置に白い紙が残された状態です。近寄ってみると「ここにごみをおかないでください」、その下に小さく「近隣の方が迷惑しています」と書かれているのが読めました。

ポスターがその後更新されていないということは、ゴミ出し問題はすでに解決したのでしょうか。

そして、今度はこの放置ポスターが新たなゴミとなって景観を乱しているという矛盾が生じています。

Power pole after the rain《雨上がりの電柱》
Power pole after the rain《雨上がりの電柱》

のどかな畑の道で直立不動の電柱に出合いました。全身が雨に濡れてコンクリートの色が変わったおかげで無言の掲示物がきれいに写真映えした一枚です。

よく見ると、電柱から生えた電気工事用のステップに傘が掛けてあります。柄が黄色い子供用の傘です。

落とし物だとしたら持ち主のもとには無事返ったのでしょうか。それともいたずらでしょうか。雨は上がってもなんだか心が晴れません。

Stuck in the middle《磔刑図》
Stuck in the middle《磔刑図》

通称ステカン(捨て看板)と呼ばれる短期間の野ざらし立て看板は不動産業者を中心に勝手に設置する事例が後を絶ちませんが、近年これに代わって、電柱に両面テープで貼られる簡易広告も増えました。

捨て看板も電柱への無断掲示も条例違反ですが、業者は最初から回収するつもりはないので、雨で文字が流れて消えてしまうのは証拠隠滅のため最初から計算ずくなのではないかとも想像します。

文字が消え、さらにくしゃくしゃになったこれを見ていたらふと体を斜めに十字架から下ろされるキリストの図を連想しました。

貼り付けられ、やがて磔(はりつけ)になってしまったということですね。

Scratch《爪研ぎ》
Scratch《爪研ぎ》

誰かが剥がそうとしたにもかかわらず糊が全面に塗ってあったのでなかなか剥がれなかったのでしょう。猫の爪研ぎの跡のようになってしまいました。

プログレッシブ・ロック・ファンなら『ピーター・ガブリエルⅡ』のジャケットを思い浮かべてニヤリとしてくれるかもしれませんが、そんなのは50代以上のおっさんだけだということはこの私がいちばんよくわかっています。

Ned Kelly pole《哀愁の鉄仮面》
Ned Kelly pole《哀愁の鉄仮面》

「防犯モデル地区」と書かれた金属製のプレートは完全に劣化してもはや名ばかりのものと化し、その下にある車除けの鉄板も見るも無残にネジが外れて鉄仮面のような姿に……。

マンガ好きの方、ジョージ秋山の『デロリンマン』に出てくる謎の鉄仮面オロカメンを連想してください。目から涙を流しているように錆が出ているあたりもよく似てるでしょう。

あるいは歴史物が好きな方なら19世紀オーストラリアに実在した盗賊ネッド・ケリーはご存知ですか。反骨精神あふれる無法者ネッド・ケリーが被っていた鉄仮面や甲冑装束は、やはりオーストラリアの近未来SFパンク映画『マッド・マックス』にも影響を与えているんじゃないかという説もあります。

Great talking board《過言板》
Great talking board《過言板》

パンクな面構えとアナーキーさではこちらも負けてはいません。「交通安全のため自転車は押して通行してください」の看板が複数のタグ・ステッカーでこの有様。元の言葉はほとんど読めません。いやはやこれは困りものです(タギングやステッカーは器物損壊罪なので絶対に真似しないでください)。

ステッカーが雑多なノイズのようにひしめき合って文字がかき消され許容量をオーバーしていることから「過言板」と名付けることにしました。じつに「無言板」の格好の好敵手といっても過言ではありません。

文・写真=楠見 清