「カップオブエクセレンス」入賞など、ランクの高い豆を多数取り揃える
その年に収穫されたコーヒー豆の中から、もっとも素晴らしいものを決める国際的な品評会である「カップオブエクセレンス(COE)」。国際審査員が3日にわたり行う厳格なカップテストで入賞を決定する。COE入賞の豆となれば、スペシャリティ以上、まさに世界最高峰ということ。この店では、そんなCOE入賞の豆を多数取り揃えている。
「いい豆で鮮度のよいものを揃える。それが一番大切だと思います」店長の伊藤さんは話す。そして、この店では、いい豆だからこそできる淹れ方を採用している、と語る。
サイホンでも通常のハンドドリップでもない「浸漬法」とナイロンフィルター
コーヒーの抽出方法は、大きく分けると「透過法」と「浸漬法(しんしほう)」の2つ。「透過法」は、コーヒーの粉にお湯を注ぎ、濾過する方法で、通常のハンドドリップなどでお馴染みだ。それに比べ「浸漬法」はあまり聞いたことのない方式だ。コーヒーの粉をお湯に浸した後、粉とコーヒーを濾過して分離させる。
この店では、主に「浸漬法」で抽出している。その抽出方法を見させてもらった。
まずはコーヒーの粉をほうろうのカップに入れる。そこに沸騰したお湯を少量入れて、20秒ほど蒸らした後、1杯分のお湯を追加し、蓋をして時間を置く。その後は、ナイロンフィルターをセットしたドリッパーに空けて濾す。
沸騰したお湯を使うことに驚いた。ハンドドリップで淹れるときには、お湯は90度がいいとか、沸騰したお湯はダメとかいうのだが……。しかも、コーヒー豆を蒸らして濾すだけ。フィルターも紙でもネルでもない。うーむ、今までの概念を覆されるような気持ちだ。
ナイロン製のフィルターにも理由がある。紙やネルを使うのは、コーヒーにある脂やえぐみなどを取る効果があるためだが、ナイロンにはその特性はない。
「新鮮ないい豆であれば、脂もおいしい。フィルターに吸わせる必要はないんです。ナイロンであれば、コーヒーの成分をすべて抽出することができます」と伊藤さん。ちなみに、コーヒーの原産国ではナイロンストッキングを使ってコーヒーを淹れることもあるそうだ。
また、すべてのコーヒーを浸漬法で淹れるわけではない。例えばアイスコーヒーは苦味をむしろ出すようにハンドドリップする。「出したい味のために、方式を使い分けているので、ときにはサイフォンも使います」とのこと。
絶品のコーヒーと、それに負けないトーストのうまさ
淹れてもらったのはブラジル「シティオダトーレ」。鼻を抜ける香りにほっとする。ひと口飲んでみると、適度な酸味でとてもおいしいのだが、少し不思議な気持ちにもなった。苦味はあるのだが、「苦い」というのとは違う。えぐみもまったくない。なんといっても、後味がすっきりしているのが印象的で、「豆の味をストレートに感じる」ってこういうことなのか、と思った。
シナモントーストもいただこう。こだわって選んでいるという食パンは、オーダーが入ってから約5cmに厚く切ってトーストするため、表面はかりっと香ばしく、中はふっくら。そしてそこに、シナモン、砂糖、生クリームの3つが合わさる。ああ、なんて幸せな味なのだろうか!
ピザトーストは、玉ねぎ、プチトマト、そしてチーズがたっぷり。どちらも一つで十分満足できるボリューム感がうれしいし、500円と値段もお手頃だ。コーヒーのお供にはぜひオーダーしたい。
それにしても、豆だけでなく食パンや生クリームなどの食材まで、ずいぶんこだわりがあるように思う。そのことを伊藤さんに聞いてみると、「ライバルとなる喫茶店が多いエリアなので、他よりもおいしいものを置くようにしてます」とのこと。
まるでチョコレート!最後の最後にもお楽しみが
コーヒーもトーストも十分堪能した。さて後はお会計……、とその前に。
浸漬法で淹れたコーヒーは、最後に粉が残りやすい。ここにミルクと砂糖を投入し、スプーンですくってみると……。なんと、チョコレートのような風味でとてもおいしいのだ。
いい豆、そしてミルクも脂肪分45%というコクのあるものを使っているからこそ、味わえるお楽しみ。ぜひ試してほしい。
「今後は食事のメニューも増やして行きたい」。コーヒーや料理に対し、とても真摯で研究熱心な伊藤さん。コーヒーの魅力を再認識する店だ。
取材・文・撮影=ミヤウチマサコ