新子安の誇り、ハマの誇り。『市民酒蔵 諸星』[京急新子安]
創業を尋ねると「そういうのちゃんと記録してなくて……でも自分で3代目で、戦前からやってるから」と大将の諸星道治さんは苦笑した。「どうして“市民酒蔵”なんですか」と、無粋ついでに聞いてみた。時代は戦中戦後に溯る。酒の流通量が圧倒的に少ない中、「当時は酒とは呼べない質の悪いものも多かったらしく。だからちゃんとしたものを出すために」酒店の管理と相互扶助のために横浜市が敷いた制度が「市民酒場」。2代目のときに「こんだけ酒があるんだから」と、「酒場」は「酒蔵」へと名称を変えた。最盛期は200軒ほどあった「市民酒場」も今は2、3店を残すのみ。しかし今でもそれは横浜の飲み屋の誇りだ。
諸星では、常連も一見も、誰でも同じ。注文をきいて、酒を出す。余計なことは話さない。諸星で酒を飲んでいる間だけは、こんな無粋な私でも、市民酒場の長い歴史の中にたゆたう透明人間になれる気がする。いや、大将がそうしてくれてるだけなんだけどさ。
『市民酒蔵 諸星』店舗詳細
川崎の働き者を癒やす、大衆酒場兼食堂。『丸大ホール』[京急川崎]
開店は朝の8時30分で、昼前にはほぼ満席! だいたいのお客が早い時間からジョッキや猪口を手に持ち、楽しげに頬を赤くしている。四方に貼り巡らされた品書きを見ると、ごはんものからつまみまで実に幅広い。夜勤明けの人が朝(?)ごはんにオムライスを頬張り、サワーで流し込む、なんて光景がここではおなじみだ。和・洋・中、各ジャンルでしっかり修業した職人が厨房に控えているので、料理の味もピカイチ。
『丸大ホール』店舗詳細
魚と対話するように味わい、酔う。『正木屋』[鶴見市場]
宴会場もあるので、魚はなるべく豊富に準備。店主の勇崎昌己さんが市場で目利きし、他の店が敬遠するようなものでも活きがよければ仕入れる。長年培った信頼関係から、1㎏を超える大きなタチウオなど高価な魚が安く買えることも。刺し身や鍋、はたまた揚げたり焼いたり、素材に合った調理法を見つけてぐっと魅力を引き出す。もちろん、その味は1階の普通席でも享受可! 料理に合うお酒は、女将と若女将のW看板娘に聞こう。
『正木屋』店舗詳細
商店街のはずれに潜む、立ち飲み処。『愛知屋酒店』[杉田]
昭和14年(1939)の創業以来、角打ちのスタイル。古いカウンター越しに酒瓶のラベルを眺めつつ飲むのが、乙だ。酢のものや点心など、ざっと70種以上あるつまみは、主に店主の小林彰一さんが南部市場で仕入れたもの。適当に2、3品選び、1杯飲んでパッと帰ろうとちびちびやっていると、他のお客のために小林さんがスルメを炙り始め、その香りに後ろ髪引かれてもう1杯……なんてことも。結局長居してしまうが、それもまた乙だ。
『愛知屋酒店』店舗詳細
取材・文=信藤舞子 撮影=加藤昌人