東急東横線は大衆酒場不毛地帯と思いきや、地元っ子の憩う名店があるわあるわ。郊外ならではのほのぼの感とにぎやかさが絶妙に調和するアットホーム酒場5店をピックアップしました。北から南へ千鳥歩きしよう!

新子安の誇り、ハマの誇り。『市民酒蔵 諸星』[京急新子安]

もつのにこみ480円は汁っけが少ないのが誇り。いわしのさしみ420円は横浜や川崎の河岸から仕入れている。肉肉しさとタマネギの甘みのシウマイ440円。湯豆腐ではなく「温めとうふ」160円、安すぎる。ぎばさと長芋のとろろ450円、永遠に食べられる。コップの東鏡360円で流し込む!
もつのにこみ480円は汁っけが少ないのが誇り。いわしのさしみ420円は横浜や川崎の河岸から仕入れている。肉肉しさとタマネギの甘みのシウマイ440円。湯豆腐ではなく「温めとうふ」160円、安すぎる。ぎばさと長芋のとろろ450円、永遠に食べられる。コップの東鏡360円で流し込む!

創業を尋ねると「そういうのちゃんと記録してなくて……でも自分で3代目で、戦前からやってるから」と大将の諸星道治さんは苦笑した。「どうして“市民酒蔵”なんですか」と、無粋ついでに聞いてみた。時代は戦中戦後に溯る。酒の流通量が圧倒的に少ない中、「当時は酒とは呼べない質の悪いものも多かったらしく。だからちゃんとしたものを出すために」酒店の管理と相互扶助のために横浜市が敷いた制度が「市民酒場」。2代目のときに「こんだけ酒があるんだから」と、「酒場」は「酒蔵」へと名称を変えた。最盛期は200軒ほどあった「市民酒場」も今は2、3店を残すのみ。しかし今でもそれは横浜の飲み屋の誇りだ。

諸星では、常連も一見も、誰でも同じ。注文をきいて、酒を出す。余計なことは話さない。諸星で酒を飲んでいる間だけは、こんな無粋な私でも、市民酒場の長い歴史の中にたゆたう透明人間になれる気がする。いや、大将がそうしてくれてるだけなんだけどさ。

酒や肴を置くにも、人との距離感的にも、すべてが大正義すぎてしびれるカウンターの幅。
酒や肴を置くにも、人との距離感的にも、すべてが大正義すぎてしびれるカウンターの幅。
千葉の名酒「東鏡」は蔵元直送。日本酒、焼酎、ビール、ホッピー、とにかく何でもある。
千葉の名酒「東鏡」は蔵元直送。日本酒、焼酎、ビール、ホッピー、とにかく何でもある。
3代目店主、諸星道治さん。カッコいいし、メニューの短冊の字もカッコイイし、最高。
3代目店主、諸星道治さん。カッコいいし、メニューの短冊の字もカッコイイし、最高。
京急新子安駅徒歩30秒に天国はありました。
京急新子安駅徒歩30秒に天国はありました。

『市民酒蔵 諸星』店舗詳細

川崎の働き者を癒やす、大衆酒場兼食堂。『丸大ホール』[京急川崎]

オムライス600円、アジフライ450円、レモンサワー350円。自家製のしめさば450円も自慢の一品。
オムライス600円、アジフライ450円、レモンサワー350円。自家製のしめさば450円も自慢の一品。

開店は朝の8時30分で、昼前にはほぼ満席! だいたいのお客が早い時間からジョッキや猪口を手に持ち、楽しげに頬を赤くしている。四方に貼り巡らされた品書きを見ると、ごはんものからつまみまで実に幅広い。夜勤明けの人が朝(?)ごはんにオムライスを頬張り、サワーで流し込む、なんて光景がここではおなじみだ。和・洋・中、各ジャンルでしっかり修業した職人が厨房に控えているので、料理の味もピカイチ。

開店直後から閉店まで一日中にぎわっている。ランチで利用する近隣のサラリーマンも多い。
開店直後から閉店まで一日中にぎわっている。ランチで利用する近隣のサラリーマンも多い。
相席した常連客と乾杯!  夜勤明けに仮眠し、運動してから来るのが日課だという。
相席した常連客と乾杯!  夜勤明けに仮眠し、運動してから来るのが日課だという。
女性も歓迎。
女性も歓迎。

『丸大ホール』店舗詳細

住所:神奈川県川崎市川崎区駅前本町14-5/営業時間:8:30~21:15LO(日・祝は~20:50LO)/定休日:土/アクセス:京急本線京急川崎駅から徒歩2分

魚と対話するように味わい、酔う。『正木屋』[鶴見市場]

刺身盛合1320円。日本酒(熱燗・常温)2合540円。
刺身盛合1320円。日本酒(熱燗・常温)2合540円。

宴会場もあるので、魚はなるべく豊富に準備。店主の勇崎昌己さんが市場で目利きし、他の店が敬遠するようなものでも活きがよければ仕入れる。長年培った信頼関係から、1㎏を超える大きなタチウオなど高価な魚が安く買えることも。刺し身や鍋、はたまた揚げたり焼いたり、素材に合った調理法を見つけてぐっと魅力を引き出す。もちろん、その味は1階の普通席でも享受可! 料理に合うお酒は、女将と若女将のW看板娘に聞こう。

ふぐ鍋3000円。ふぐの出汁を存分に味わうには、シメにご飯を入れて雑炊に。
ふぐ鍋3000円。ふぐの出汁を存分に味わうには、シメにご飯を入れて雑炊に。
息ぴったりの女将(右)と若女将。
息ぴったりの女将(右)と若女将。
2階が宴会場。1階は一般テーブル席と小上がり。
2階が宴会場。1階は一般テーブル席と小上がり。

『正木屋』店舗詳細

住所:神奈川県横浜市鶴見区市場大和町3-17/営業時間:16:00~23:00/定休日:日/アクセス:京急本線鶴見市場駅から徒歩2分

商店街のはずれに潜む、立ち飲み処。『愛知屋酒店』[杉田]

穏やかな口調から、3代目・小林さんの人柄が窺える。
穏やかな口調から、3代目・小林さんの人柄が窺える。

昭和14年(1939)の創業以来、角打ちのスタイル。古いカウンター越しに酒瓶のラベルを眺めつつ飲むのが、乙だ。酢のものや点心など、ざっと70種以上あるつまみは、主に店主の小林彰一さんが南部市場で仕入れたもの。適当に2、3品選び、1杯飲んでパッと帰ろうとちびちびやっていると、他のお客のために小林さんがスルメを炙り始め、その香りに後ろ髪引かれてもう1杯……なんてことも。結局長居してしまうが、それもまた乙だ。

餃子180円、タコブツ330円、コンビーフ500円。剣先スルメは700円。日本酒、焼酎は約20種あり、1杯350~560円。
餃子180円、タコブツ330円、コンビーフ500円。剣先スルメは700円。日本酒、焼酎は約20種あり、1杯350~560円。
土曜日は昼間から酒好きが集う。
土曜日は昼間から酒好きが集う。

『愛知屋酒店』店舗詳細

住所:神奈川県横浜市磯子区杉田4-8-57/営業時間:15:00~21:00/定休日:日/アクセス:京急本線杉田駅から徒歩5分

取材・文=信藤舞子 撮影=加藤昌人