ビッグサイズのピザを豪快にかじろう『PIZZA SLICE COMMISSARY』【小伝馬町】
ミミをかじるとカリッ、モチッ。小麦の旨味がじわ~っ。『COMMISSARY NIHONBASHI』は、「カミサリー(セントラルキッチン)」という名が示すとおり、工房を併設する話題のフードコート。こちらの店も裏の工房で手捏(てご)ねした生地を使い、店頭のオーブンで焼き上げる。さながら工場直売所のような臨場感。
11:00~22:00、無休。
☎03-4361-5026
おじいさんになるまでドーナツを作りたい『sweetie shop GRANDPA』【小伝馬町】
並んでいるのは、オーナーの田渕諒さんが愛情たっぷり手作りしたドーナツ。パッと見、大きめだが、食べるとふわっとして歯切れも良く、軽い食感なので2個、3個とつい手が伸びる。一つ一つ形が若干違うのは「味のあるいびつさ」と、もう一人のオーナーの三上龍馬さんがにっこり。『COMMISSARY NIHONBASHI』で営業中。
11:00~22:00、不定休。
☎なし
店内に漂う甘い香りにニンマリ『Hiromi & Co.』【小伝馬町】
白を基調にした内装によく映える愛らしいお菓子たち。近隣住民をはじめ毎週のように通う常連客も少なくない。オーナーパティシエの小山弘美さんは、フランスで学んだ伝統菓子の技術をもとにしながら独自に創意工夫。ホイップクリームにカスタードクリームを潜ませ、2種類のイチゴで飾ったシュークリームもおすすめだ。
12:00~19:00(土は~17:00)、日~水休。
☎なし
浅煎りか深煎りかより大事なのは素材の魅力『nexpect coffee』【小伝馬町】
使用する豆は、ノルディック・ローストの先駆者であるティム・ウェンデルボー氏が焙煎したもの。コーヒー豆が本来持っている果実味を存分に生かしているのが特長だ。時季によってラインアップはさまざまで、いかに豆の個性を引き出すかはバリスタの腕の見せどころ。柑橘系の明るい酸味が漂うホンジュラス ゲイシャ1100円、モモに似た香りのエチオピア エケモ950円。
8:00~18:00、無休。
☎なし
贈り物の花束など相談も気軽にどうぞ『HOUSE of TERPSICHORE(ハウス オブ テルプシコレー)』【馬喰町】
以前から花屋兼インテリアショップを営み、照明を柱に空間デザインを手掛けてきたディレクターの福嶋慶太さん。部屋を明るく見せてくれる花や、良いシルエットの枝ものも揃い、2023年、日本橋馬喰町に移転して以来「近所の方々が花屋として普段遣いしてくれます」。Ceramichiの花器など、作家ものセラミックアートも充実。
12:00~19:00、火休。
☎03-6661-6919
「日本らしさ」にあえて違和感をプラス『EGO STORE』【馬喰横山】
卸商社が集まるオフィス街で異彩を放つピンクののれん。扱っているのは作家や窯元の器、郷土玩具、フレグランスで、オリジナル商品も多い。オーナーの橋本悟さんいわく、水滴のようなドット柄の器は「雨が降った後のアスファルトをイメージ」。鯨車は高知の張り子で、店のテーマカラーであるピンク(別注)が近日入荷予定。
12:00~19:00、水休(不定休あり)。
☎03-6661-1279
大豆が香るできたて豆腐の底力『豆腐屋料理店 四方八方(ヨモヤモ)』【人形町】
あらゆる調理法を駆使し、バラエティーに富んだ豆腐料理を提供。主役として、またある時はメイン食材を支える黒子として豆腐が活躍する。よだれ鶏の上に重ねた汲み上げ湯葉は、ラー油と黒酢を合わせたタレを絡めると甘さが際立ち、クリーミー! 工房ものぞけるので、豆腐をきっともっと好きになる。
11:00~15:00・17:00~22:30(日はランチ営業のみ)、無休。
☎03-6704-7991
旧日光街道沿いでワインを補給『tim sum(ティム サム)』【小伝馬町】
販売するナチュラルワインはフランス、イタリアを中心にポルトガルなど広範囲(角打ちは抜栓料+2000円)。グラスワインもあり、ペアリングが醍醐味(だいごみ)だ。檸檬焼売は「広島県産瀬戸田レモンの酸味が肉汁を引き立て、後味サッパリなのでワインにも合います」と、マネージャーの鈴木慎一郎さん。
16:00~23:00(土・日・祝は13:00~21:00)、無休。
☎03-5801-9822
ここはコンビニ? 飛び交う歓声!『レコードコンビニ Yショップ 上総屋』【浜町】
週末、いつもと違う照明の下でイベントが大盛況。およそ100年前、初代がこの場所で酒屋を創業し1999年、コンビニに業態変更した。「営業中にBGMとしてレコードをかけていたらレコード好きが集まるようになって、そのうち販売も」と、3代目の進藤康隆さん。元々倉庫にしていた地下を整理し、プロによるDJ教室も開催している。
はじまりの地、日本橋の今の日常風景
オフィス街と思いきや、小伝馬町にはビジネスマン以外にもいろんな人がいる。ピークタイムを外し、早めのランチをしに『COMMISSARY』に行くとすでにほとんどの席が埋まり、とてもにぎわっていた。近隣のホステルをチェックアウトしてきたと思しき外国人のバックパッカーや、普段着の親子連れも混ざっていて、和気あいあいとした雰囲気。
ホームメイドのドーナツを並べる『GRANDPA』の三上さんいわく「この辺は下町も近いから、人と人との温かいやりとりもよくあるんですよ。ご近所さんのリピーターも多くて、アットホームです」。休みの日に周辺をぶらぶらしていると、近所の店の店主や花屋から「こないだもずいぶんにぎわってたねえ!」なんて声をかけられることもあるとか。
中通りを進み、いくつか十字路を過ぎると、『Hiromi & Co.』の小さな看板が目に入る。「週に1回、必ず朝食用のパウンドケーキを買いに来てくれるご夫妻がいます」と、オーナーの小山さんは本当にうれしそうだ。訪れる人の7、8割が常連客で、店内には毎日食べたくなるような親しみやすいお菓子がずらり。今日食べた華むらさき芋のサブレもおいしかったけど、ケーキはもちろん、焼き菓子も季節ごとにがらっと顔ぶれが替わるから、気軽に通える地元の人がうらやましいなあ。
ちなみに、大人になるまで豆腐に対して何の感情も抱かず生きてきた。大して特徴のある食べ物でもないと思い込んでいた。しかしある日、ふらっと立ち寄った街の豆腐屋で買って、食べてみたら! あの時の大豆の香りはいまだに忘れられない。
現在、全国的にも豆腐屋は減る一方。豆腐マイスターの資格を持つ工藤詩織さんが言うには「昔は5万軒くらいありましたが、今はその10分の1以下」。それを思うと、人形町の甘酒横丁に『四方八方』がオープンしたというニュースは、まさに吉報。しかも、早い時間帯に売り切れ終了となってしまう豆腐屋が多い中「うちは夜まで営業していますし、小売りもしているので、仕事帰りの方にも立ち寄ってもらえます」。通りに面した工房に立つのは、和歌山県の龍神村で地釜炊きの豆腐を作っていた小澤聖さん。奥では、できたての豆腐を使って料理人が腕を振るう。
変わっていく景色と変わらぬ下町人情
馬喰町に個人が営む気鋭店が続々と増えているのも面白い。中小規模のオフィスビルが集まる中通りで、ピンクののれんを掲げるのが、2024年12月にオープンした『EGO STORE』だ。店内を見回すと、伝統的な工芸品も扱いながらオリジナルのデザインを加え、新風を吹かせている。オーナーの橋本さんは中央区の下町出身で、仲間に「日本橋に来なよ」と誘われ、場所をここに決めたという。
『HOUSE of TERPSICHORE』も同じように言われ、2023年に荒川区から移転。友人の店でポップアップショップを開かせてもらうなど、たびたび足を運ぶうちに「この街に根付く粋な心意気に触れて、好きになった」そうだ。
「下町は懐が深くて、良い店であれば新参者でも受け入れてくれます。それに、みんな人懐っこくて居心地がいいんです」
日が沈んできた頃、隅田川に向かって歩き、浜町方面へ。新大橋に近い『レコードコンビニ Yショップ 上総屋』の前を通りかかると、楽しげな歓声がこぼれてきた。入ってみると、コンビニらしからぬ照明の下でイベントの真っ最中。「定期的にDJ教室を開いているんですが、今日はその生徒さんたちの発表会なんです」と、オーナーの進藤さんが声をかけてくれた。
聞くと、元々店内BGMとしてレコードをかけていたところ、東日本大震災のあたりから近所の人を中心にレコード好きが集まるようになったという。やがて角打ちも始めることに。コロナ禍には、自宅でできる趣味としてDJを始める人が増えたので、プロのDJを講師として呼び、教室もスタートした。生徒の年齢は、10代から60代までと幅広く、なんと卒業生の中から今年の大阪万博に出演する人も出たのだとか。
「角打ちをしている町内会の会長とレコードを買いに来た若者が、世代を超えて音楽でつながってそのまま盛り上がることも。うちはイベントも子連れOK! 子供はお菓子を買ってもらえるからついてくるんです(笑)」
昔ながらの住宅地だった浜町にもマンションが立ち、新しい住民が増えた。街の景色はどんどん変わる。でも、下町人情は健在だ。
取材・文=信藤舞子 撮影=高野尚人
『散歩の達人』2025年6月号より