通し営業の中、チャーシューや餃子を黙々と仕込む
店内に入ると、ウィーンという機械音。なんだろう?と思ってカウンター越しに厨房をのぞくと、電動のカッターで大量のキャベツを刻む音だった。業務用の巨大なステンレスボウルいっぱいの量の餃子用キャベツだ。一体餃子何個分になるのか、そして、このキャベツがすべて皮で包まれるのは本当か……。などと考えていたらちょっと気が遠くなった。店主の佐々木さんは動きを止めず、今度はチャーシューのために、大きな豚バラのカットに取り掛かった。
ほぼすべてのメニューが店内で手作り。定食から飲みの席までフォローする。11時の開店から24時まで通しの営業なので、仕込みは客足が少ない時間を利用するしかない。話を聞くにつれ、ハードワークである以上に、佐々木さんの料理に対する真摯さ、丁寧さに驚きを感じずにはいられなかった。
豚のげんこつと鶏ガラ半々のスープは3時間かけてじっくり煮込んで作る。また、ホイコーロー、味噌ラーメン、スタミナラーメンは、それぞれに異なる味噌を用意している。ホイコーロー用の味噌は、調味料を加えて1時間ほど火にかけながら練るため、はねた味噌は火傷するほど熱いというから大変だ。カットした豚バラも、チャーシューにするには縛って煮込んで2日間かかる。
どれもこれも、思った以上に手をかけて作っている印象をもった。
ワインリストがあるなんて意外! 中華とワインの相性も楽しんで
カベルネソーヴィニヨンにシャブリ、ソーヴィニヨン・ブラン、グラスワインは赤と白のほかになんとロゼも……。中華屋では珍しい、なんとも豊富なワインリストにびっくりする。
これは、ワイン好きだという佐々木さんの妻のアイデア。ボトルワインが多いことも特徴だ。
「案外ワインと中華は合うんで、ボトルでオーダーする人も多いんです」と話す佐々木さん。おすすめのロゼワインとチャーシューをいただいた。
チャーシューはほんのり温められ、皿にいっぱいのボリューム。箸で持ってみると、ぺろんと垂れ下がってしまうほどの大きさだ。それをそーっと口に運ぶ。じっくり煮込まれて旨味が凝縮した赤身と、熱でふんわり溶けた甘い脂が絶妙!ここでワインをひと口。ほどよいフルーティーさが、チャーシューの甘さとしょっぱさをさわやかに流していく。これはなかなかいい。そういえば、豚肉料理にフルーツソースが合うことと同じかもしれないな。
名前どおり!スタミナラーメンは元気になる味
豚肉、ネギ、ニラ、そして玉子が入るスタミナラーメンは、ホイコーローとは違い、ニンニク、豆板醤を練り込んだ味噌を使う大人気メニューだ。
ニンニクと味噌のいい香りが鼻をくすぐる。すごく熱そうなので、麺をふーふーっとしてからすすると、中太のストレート麺はつるつるでコシも十分。そして、なんといってもスープだ。ニンニクのきいた味噌とニラでパンチのきいたがっつり味で、ちょっとピリ辛なのもますます食欲をそそる。ここぞ、というタイミングで玉子を割ると、ちょうどよく火の通った卵黄がとろ〜っ!麺をからめて味の変化を楽しもう。
味噌に入ったニンニクやニラのおかげだろうか。食べ終わってからずいぶん時間が経っても身体がほかほかして、寒い日にはぴったりだと思った。
これからも、町の“普通の中華屋”でありたい
中華の職人になって半世紀以上という佐々木さん。「町中華」という言葉ができる前からのベテランだ。今でも忙しい合間を縫って、週に2回、野菜や肉を自らの目で見て仕入れることは変わらない。
町の“普通の中華屋”という文化を残したい。
佐々木さんはいう。ラーメンなどの専門店が増え、定食を出す店が減り続ける。そのため定食を作れる職人が育たず、このままでは「普通の中華屋」がなくなってしまうかもしれない、と懸念する。
「文化」というと大ごとに聞こえるが、自分ができる限り店を続ける。それだけでもなにかが残せるはず。
仕込みの手を止めず、佐々木さんはそう話した。
取材・⽂・撮影=ミヤウチマサコ