作りモノではない、本物の年輪と重厚感の魅力
JR総武線・地下鉄浅草線 浅草橋駅から、柳がそよぐ柳橋中央通りを歩くこと5分ほどで『ルーサイトカフェ』が見えてくる。一見したところ、料亭のような佇まいで、そこがカフェとはわからない。
今回は、こちらの『ルーサイトカフェ』にお邪魔してみた。
入り口から玄関までの小道は、手入れの行き届いたグリーンに囲まれていてなんともいえない趣があり、すでに胸が高鳴ってしまう。
玄関の引き戸を開けると、そこにはもう昭和の世界が広がっている。靴を脱ぎ、お邪魔してみよう。
廊下を進む中にも、至るところに歴史が感じられる柱や建具などに目をうばわれてしまう。まるで博物館のようなあれこれに、ため息が出るほどだ。
廊下の途中で、カフェの注文と会計をすませる。お会計は現金のみ。この感じすらわくわくしてしまう。
ギャラリーの2階で、絶景を堪能
この建物は、もともとは昭和の流行歌手であった市丸さんの邸宅だったとのこと。ビクターレコードと書かれた当時のポスターや、手書きの電話番号などが、昔のままに飾られている。
廊下の突き当りはルーサイトギャラリーで、期間限定の催しが行われているとのこと。『ルーサイトカフェ』は、ギャラリー開催中のみのオープンだ。
ギャラリーも気になるものの、今回の目的はカフェなので、カフェへ直行することにした。あれこれと眺めながら廊下を進み、右手にあるやや急な階段を登っていく。
2階に上がると、カフェとなっている。このカフェは、1階のギャラリーが開催しているときにオープンするらしいので、訪れる際には、事前に公式ブログでオープン情報を確認してから訪れよう。
このカフェは、夜にはバーになる。夜の雰囲気も最高らしいので、夜にしっぽりとお酒を楽しむのもおすすめ。
夜はギャラリー開催とは関係なく、比較的オープンしているときが多いようだ。こちらもオープン情報はブログでチェックしてから訪れたい。
今回利用したのは、窓辺のカウンター席。窓から入り込む風と電車や船の音が心地よく、すべてをひとり占めできる。
お抹茶・和菓子セットでまったりとしたひとときを
注文したのは、お抹茶セット(季節の練りきり付)1200円。抹茶と和菓子のセットだ。本当は、アーモンドプードルを100%使った、グルテンフリーの自家製アーモンドケーキをいただきたかったが、この日は残念ながら売り切れだった。
しかし今度またアーモンドケーキを食べに訪れる口実ができたようで、それすらうれしいものである。「次回のお楽しみね」と……。
お抹茶セットの器は、1階のギャラリーで開催されている作家のものだ。これ以上ない、ぜいたくといえる。カウンター席で、隅田川からの心地よい風を感じながら、抹茶と和菓子をいただく。
うん。まちがいなく至福の時間でしかない。
隅田川、総武線、船、首都高、すべてをひとり占め
窓からは、隅田川、総武線、首都高速が眼前に広がる。右手に見える橋を、定期的に総武線が走り抜ける様子は、電車好きはもちろん、そうでない人にもたまらない光景だ。
隅田川には、じつにさまざまな船が行き交っている。観光船、仕事の船、水上バイクなど、見ていてまったく飽きることはない。
電車や船が通れば、泣く子も黙るそうだ。
京都の川床のような、テラス席もおすすめだ。隅田川がさらに身近に感じられ、東京スカイツリーも望める絶景が広がっている。なんともぜいたくな空間だ。
古民家カフェで、昔やモノを大切にするオーナーの思い
今回、オーナーの米山明子さんに、たっぷりとお話を伺うことができた。
米山さんのお祖父様までは、近くで代々料亭を営んでいたとのこと。時代の移り変わりとともに、料亭は立ち行かなくなり、閉じることとなった。
学生時代には、アメリカで生活した経験もある米山さん。その時期に外から日本を見たからこそ、古きよき日本のものがなくなってしまうことに危惧を覚えたそうだ。
本当は料亭を継ぎたい気持ちもあった、と語る米山さん。そんな米山さんにとって、夢の縮小版のような形となっているのがルーサイトギャラリーだ。空き家となっていた市丸姐さんの邸宅を、子育てをしながら大切に守り修繕しつつ維持してきたことに、感動を覚えた。
花街だった柳橋周辺は、かつては、さまざまな芸能が生まれ培われた場所。『ルーサイトカフェ』では、ときにはお芝居なども上演されるらしい。芸術、お芝居、カフェ、バー、などがこぢんまりとだが、この一軒で実現するのだ。
「これから、もっともっと芝居や芸能などもやりたいんです」。今は10分程度の、こだわりがつまった動画コンテンツを制作中で、今後は世界に向けての発信も積極的にやっていきたいと米山さん。
たしかに、日本の良さがつまっている『ルーサイト』や柳橋周辺は、世界の方々にももっと知ってもらいたいと、筆者も強く感じた。
「ここに芝居小屋でも建てられたらいいな。夢のまた夢ですけどね」
そう語る米山さんの目は、輝いていた。
取材・文・撮影=ほしななこ