本当におにぎり屋さん? キラキラした店内とのギャップに釘付け
「おにぎり自体は伝統的な形を崩さずに提供しています。一方で女性が入りやすいカフェ風のお店を目指しました」と代表の竹内未来(たけうちみき)さん。
天井が高くて開放的な店内では、シンボルのように照明が煌めき、BGMの軽やかな洋楽やメニューが書かれた黒板も、カジュアルでポップだ。
ショーケースに並ぶテイクアウト用のおにぎりは三角。のりで包むような昔ながらのスタイルがメインで、全部で16種類が並ぶ。総菜は通常6種類。デザートや肉巻きおにぎりもあるので、これならたとえ毎日訪れても飽きることはなさそう。
ファッションの仕事をしていた竹内さんは、友人のすすめが転機となって2012年におにぎりのケータリングサービスをスタートした。届け先は雑誌やテレビの撮影現場など。それまで早朝におにぎりを配達する業者は少なかったこともあって重宝され、クチコミで人気となった。最初の厨房が手狭になって移転したのが、現在お店がある場所だ。人通りの多い場所ではないが、広いスペースを活用してカフェを併設することにした。
「ケータリングのお客さんにとっては、実店舗があるお店の方が安心してもらえますよね。せっかくなので一般のお客様にも食事をしてもらうことにしたんです」
長野県佐久市産コシヒカリが冷めてもおいしいおにぎりに
もともと料理上手な竹内さんだが、どちらかというと洋食派で、たくさんお米を食べる方ではない。だからこそせっかく食べるならおいしいものをと、おにぎり用の米選びには慎重になり、いろいろなお米を食べ比べて選んだ。
「よっぽど失敗しない限り、炊き立てのお米はおいしい。でも、おにぎりのお米は時間が経って冷めた後に、どれだけおいしいかが重要です」
選んだ米は竹内さんの出身地、長野県佐久市で栽培されたコシヒカリだ。佐久市産のコシヒカリは、粒が大きめで、もちもち感がある。
「だから、ふんわり握ってあげると、握りたては点と点がくっつくように仕上がります。時間が経つと全体が沈んではしまうのは避けられませんが、のりで着物着せるようにして防いでいます」
握り方もスタッフの間であまり差が出ないようにマニュアルを作成。量はきちんと計量し、専用の枠を使って形を整える。それ後、枠を外して、テイクアウト用は手で2回転し、注文を受けてから作る店内用は3回転することになっている。
家庭的な総菜がうれしい定食屋としての顔も
ランチタイムには、定食スタイルのプレートを提供。人気のよくばりプレートは、シンプルな塩おにぎりにプラスして好きなおにぎりを1つ選べる。さらにおかずとして唐揚げが2つ、総菜が2種類にお味噌汁という、シンプルながら充実。野菜もたくさん食べられる。
プレートに必ず付く塩おにぎり。ふんわりしていて、口の中で噛んだ分だけほろっと崩れる。お米ひと粒ひと粒を感じるようなおにぎりだ。十六穀米ネギ味噌大葉のおにぎりは、のりだけでなく大葉のパリッとした食感も楽しめる。風味豊かな十六穀米と味噌のコンビネーションもいい。
唐揚げは、揚げてから時間が経っても、衣がサクサク。米粉を使っているのがその秘密だ。2種類選べる総菜は、ショーケースから。季節ごとに種類が変わるが、ポテトサラダときゅうりの浅漬けはほぼ定番。ポテトサラダは、竹内さんのお母さんの味がベースになっていて、主張しすぎないおいしさが心に沁みる。
カフェのような店の作りから若い女性客も多いが、ランチメニューには豚の生姜焼きや角煮のようなガッツリ系もある。
「実は普通の定食屋だということに気づいた男性たちが、食べに来ていますよ。食事に気を遣っていない人も、週に1度でも2度でも、バランスのいいものを食べて欲しいので、値段も抑えています」
近くに田んぼのある環境で育った竹内さん。お米の消費量が減っていることも心配していて、日本のお米やおにぎりのおいしさが世界に広がる方法も模索している。近く代々木公園付近に2店舗目を出店予定で、米粉を使ったパンやスイーツも販売するとのこと。
「日本のお米っておいしいので、もっとみなさんにおいしさを知ってほしいですね」
日々の生活で、何気なく食べることも多いおにぎり。だからこそ、そのおいしさに改めて気づくことができるカフェだ。
取材・撮影・文=野崎さおり