松戸のアパートの一室で「ことば」と向き合う
吉田さんの活動はさまざまで、週に数回ほど上記2つの実店舗を開けながらも、西千葉や本八幡を中心に、県内外でほぼ毎月古本市を主催している。
「イベントは僕にとってはある種のお祭り。それを定期的に開催することで、ハレとケの間のような存在になっていくことを目指しています。色々なところで、何か楽しいきっかけを作りたいんです」
ゆっくりと言葉を選ぶ吉田さんの原動力は、いつも「楽しさ」にある。昨年オープンした『甲羅文庫』は、住宅地のアパートの一室、6畳の小さな空間だ。畳の上をぐるりと囲む本棚に、部屋の中央にはちゃぶ台。
「本八幡の『kamebooks』が新刊書店であるのに対して、『甲羅文庫』は“ことばのある場所”と名付けました。本の購入ももちろんできるけれど、それ以外のことがしたくて」
ここに来るのはゆっくり読書をする人、本の話をしに来る人など目的はさまざまだ。読書会や読み聞かせなどのイベント会場としても利用が可能で、吉田さんは「明確に意味を与えすぎず、来た人が使い方を考えられるような場所にしていきたい」と言う。吉田さんの活動に通底しているのは、本のある場所や古本市を通して、社会の「余白」を生み出すことだ。
静かに本をめくれば、時折、隣の住人の生活音すら聞こえてくる。日常と非日常のあわいに存在する、そのあいまいさが不思議と心地いい。アパートの戸を叩くのは少し勇気が要るけれど、一歩足を踏み入れたら、きっと気持ちが解きほぐされていくはずだ。
取材・文・撮影=吉岡百合子(本誌編集部)