鉄道文字ににも確かな個性がある

鉄道の文字なんてどれも一緒、特に気にするほどのものでもない、と思う人もいるかも知れない。しかし2020年に開業した高輪ゲートウェイ駅の表示に明朝体が使われたことが大きな話題となったり、

建物の全体的な雰囲気に合わせたフォントということだが、賛否が分かれそうな高輪ゲートウェイの明朝体。
建物の全体的な雰囲気に合わせたフォントということだが、賛否が分かれそうな高輪ゲートウェイの明朝体。

国鉄時代の行先表示札をモチーフとしたグッズが最近になって販売されたりしていることを考えれば、

中に同じデザインがプリントされたマシュマロが入った缶。他にも蒲田や上野などの種類がある。
中に同じデザインがプリントされたマシュマロが入った缶。他にも蒲田や上野などの種類がある。
鉄道開業150年の記念グッズマウスパッド。
鉄道開業150年の記念グッズマウスパッド。

多くの人の潜在意識には「鉄道フォントはこうあるべき」というイメージが刻まれているのではないだろうか。

そういった意味で私がまず思い出すのは、ホーム上部に設置された、電車が到着することを知らせる列車接近表示器の文字だ。今ではほとんど電光掲示板に取って代わられてしまったが、現役で使用されている駅もある。

福島と飯坂温泉を結ぶ飯坂電車の列車接近表示器。これは行先を示すタイプ。
福島と飯坂温泉を結ぶ飯坂電車の列車接近表示器。これは行先を示すタイプ。
JR前橋駅の表示器。比較的新しい。
JR前橋駅の表示器。比較的新しい。

子どもの頃、駅名表示よりもよく見つめたのはこの表示器であり、電球でホワンと光る「こんどの電車は〇〇をでました」の文字にワクワクした記憶が蘇る。

ホームの駅名標は新しいものになっていても、柱にはホーローの縦型表示板が残されていることがある。

横須賀駅のホーロー駅名標。スミ丸角ゴシック体で書かれている。
横須賀駅のホーロー駅名標。スミ丸角ゴシック体で書かれている。

特に乗り場を案内する看板は、書体もさまざまで面白い。

高円寺駅の乗場案内板。角のない丸ゴシック体である。
高円寺駅の乗場案内板。角のない丸ゴシック体である。
一方、大宮駅の案内板は力強い角ゴシック体だ。
一方、大宮駅の案内板は力強い角ゴシック体だ。

こちらは割と多くの駅に残っているので、ぜひ見つけてみて欲しい。

昭和のフォントが愛おしいのだ

飯坂温泉駅の切符売り場。「自動きっぷうりば」のレトロな書体と、新しい「福島交通自動券売機」とのギャップが面白い。
飯坂温泉駅の切符売り場。「自動きっぷうりば」のレトロな書体と、新しい「福島交通自動券売機」とのギャップが面白い。

ここまで見てきて、つい懐かしさを覚える書体というのは、国鉄時代の駅名標等に多く用いられていた「スミ丸角ゴシック体」と言われるもののように思う。

ただ、心惹かれるのは角ゴシックばかりではない。角のない丸ゴシック体で書かれた駅名標が残っている駅もあるし、

大雄山線の五百羅漢駅の駅名標。いかつい駅名が丸ゴシック体で和らげられている。
大雄山線の五百羅漢駅の駅名標。いかつい駅名が丸ゴシック体で和らげられている。
優しい雰囲気の案内板(五百羅漢駅)。
優しい雰囲気の案内板(五百羅漢駅)。

駅構内の案内板の多くも丸ゴシックで書かれている。

JR上野駅の注意書き看板。句読点がないのに読みやすい。
JR上野駅の注意書き看板。句読点がないのに読みやすい。
JR上野駅のエスカレーターに設置された注意書き。最近はエスカレーターの片側空けをやめようという流れになっており、「左寄りに」が消されたようだ。
JR上野駅のエスカレーターに設置された注意書き。最近はエスカレーターの片側空けをやめようという流れになっており、「左寄りに」が消されたようだ。
JR由宇駅(山口県)の案内板。下に書かれた英語表記と合わせていい味が出ている。
JR由宇駅(山口県)の案内板。下に書かれた英語表記と合わせていい味が出ている。

恐らく昭和の時代に作られた丸ゴシック案内板が各地の駅に残されているのは、柔らかさと読みやすさが両立しているからではないだろうか。

.JR馬喰町駅の階段に設置された案内板。書体のおかげで柔らかい雰囲気に。
.JR馬喰町駅の階段に設置された案内板。書体のおかげで柔らかい雰囲気に。
レトロ書体は私鉄でも見られる(京王線・聖蹟桜ヶ丘駅)。
レトロ書体は私鉄でも見られる(京王線・聖蹟桜ヶ丘駅)。

要するに私は、昭和の時代に書かれた古いフォントが好きなのである。単なる懐古趣味と片付けてしまうには惜しい魅力がある。そんな私が好きだった案内板の一つが、JR南武線の稲田堤駅にあった、恐らくは手書きと思われる「この附近は.込み合いますから.前の方へお進みください」(原文ママ)と書かれたものだ。

撤去後の行方が気になる。
撤去後の行方が気になる。

木製のベンチが置かれた待合所の付近に設置され、いい雰囲気を醸し出していたのだが、駅舎工事に伴い撤去されてしまった。

駅が新しく、便利になるのは良いことだ。しかしその中にレトロなフォントを発見すると、なんだか嬉しくなってしまう。今後もこうした「ふと目に留まるレトロフォント」を楽しみに、電車に乗りたいと思う。

イラスト・文・写真=オギリマサホ