懐かしさとモダンが融合する住宅地のカフェ
中野駅の北口から歩くこと、およそ15分。閑静な住宅地に、のれんを下げた民家のようなたたずまいのカフェが現れる。ここが2016年から営業を続ける『しのカフェ』だ。
店主の祖母の住んでいた家を改装した店内は、親戚の家に遊びに来たような安心感と、モダンなカフェの雰囲気がバランスよく融合している。大きな窓から陽の光がたっぷりと注ぐ空間は、席に座るなり伸びをしたくなるほど居心地がいい。
民家が立ち並ぶ中野の住宅地にありながら、なぜだかこの場所だけ、ゆっくりと時間が流れているように感じてくるから不思議だ。
「この店の建物はもともと、祖母の家だったんです」と話すのは、店主のふみさん。
「祖母が亡くなったあともしばらく空き家になっていたんですが、せっかくお庭もあるから人に見てもらえるような形にしたいと思い、主人が内装のデザイン、大工の棟梁の父がリフォームを手掛け、
店内の大きな窓からは、どの席に座っていても庭を眺めることができる。
「春は桜が咲くので、お花見気分でカフェを楽しむ方もいらっしゃいます。巣箱があるので、鳥も遊びにきますよ。小さな庭ですが、四季を感じていただけると思います」
店の中でも圧倒的な人気を誇るのが、縁側にあるこたつ席だ。こたつといえば冬のイメージだが、人気があるため電源を入れずにゴールデンウィーク期間までは出しているという(ちなみに夏場はちゃぶ台に変わる)。
「小さなお子さんは“初こたつ”なんてことも多いです。こたつが温かくて気持ちいいから、そのまま寝ちゃう子もいますよ」と、ふみさんはふふっと笑う。
縁側とこたつという日本人の心をくすぐる組み合わせは、老若男女問わず、どんな世代の人にとっても魅力的なのだろう。『しのカフェ』はオープン以来“こたつのあるカフェ”として注目を集めるようになり、現在ではこたつ席を求めて遠方からも多くの人が訪れている。
真心こもった手作りスイーツで至福のひとときを
『しのカフェ』のメニューは、すべて店主のふみさんが手作りしている。一汁三菜の定食、カレーなどを楽しめるランチメニューは、畑でとれた自家製の野菜をふんだんに使い、季節感を大切にしながら素材を厳選。ぜんざいや常時3種類のオリジナルケーキを揃えたスイーツメニューも、体に優しい素材を選ぶよう心掛けている。
そんな真心あふれる手作りメニューから、今回は名物デザートのぜんざいと、ドリンクには抹茶ラテを注文することにした。
小豆から丁寧に作るざんざいには、食べやすい一口サイズの餅がたっぷりと入っている。その中に紛れて、ツヤツヤと輝く栗もうれしい。やわらかな餅に小豆の粒感と優しい甘さが絡み、一口食べ進めるたびに、どこか懐かしい味わいにほっこりとする。
5月頃からは、白玉入りのぜんざいにアイスクリームがのった冷やしぜんざいも選べるようになるそう。こちらも待ち遠しい。
猫好きにもたまらない。ファンが多い“看板猫”
同店の人気の秘密はもうひとつある。ランチタイムの終了後など、店内が落ち着いたタイミングで登場する“看板猫”だ。猫はしのすけ、あめ、ゆきの3匹。とても人懐っこい3匹は、店のアイドルになっている。そんな、猫好きにもたまらない空間なのだ。
住宅地でひっそりと始まった『しのカフェ』は、2023年でオープンしてから7年もの月日が経つ。
「7年もカフェをやっていると、小さかったお子さんが小学生になったりとか、お腹にいた赤ちゃんを連れて来てくださる方がいたりとか、そうしたいろんなお客様の大切な時間を一緒に共有できるんです。それがすごく嬉しいですね」とふみさん。そして「誰かの家から帰るみたいに、“お邪魔しました”と言って帰られるお客様も多いんですよ」と笑う。
それほど、ここに訪れた人たちは心からリラックスしている証拠なのかもしれない。
「最近のんびりできていない」と感じるときには、『しのカフェ』で庭を見ながらゆっくりとカフェを楽しめば、自然と気持ちがリセットされるはずだ。
取材・文・撮影=稲垣恵美