“新しい町中華”を目指す地域密着のラーメン店
中野駅の南口から5分ほど歩いた路地に現れる、大きな「ジャ」の文字。一度耳にしたら忘れられないキャッチーな店名の『らあめん ジャ』は、ラーメン店が集う中野に昨年オープンしたばかりの新店だ。「1日210分・40杯のみ限定営業」というスタイルの理由は、同じ店舗で夜から営業する居酒屋『ご飯屋 楽多(らくだ)』の店主が営んでいるため。
店内はカウンター席のみのこぢんまりとした空間。夜は常連で賑わう居酒屋だが、昼も「あの路地においしいラーメン店ができた」という噂が徐々に広がりリピーターが定着している。
店を切り盛りするのは、店主の西室さん。持ち前の明るさでお客との会話が弾み、居酒屋はいつも笑顔で溢れている。
新しく始めた『らあめん ジャ』についても、それぞれの町にひとつはある“地域に当たり前になじんでいる、おいしい町中華”のような存在を目指しているという。そのため、ラーメン店の定番である食券をあえて使わないなど、些細なことでもお客とのコミュニケーションが生まれる店づくりをしている。
今だからこそ求められている人とのつながりや心が温まるローカル感を大切に、これからの時代の“新しい町中華”を作っていくそうだ。
作り手の想いがのったラーメンに
『らあめん ジャ』の看板メニューは、町中華の定番である“中華そば”。ここでしか味わえない一杯を作るため、西室さんはさまざまなラーメン店を駆け巡り、何度も試作し、2年もの歳月をかけて研究を重ねた。
そしてようやく完成したのが、醤油、鶏の風味を最大限に生かした中華そば。スープのベースとして選んだのは、鹿児島県大隅半島で、地元の醤油文化を受け継ぐ醤油屋『山中醤油』が誇りを持って作る本醸造の醤油「紅の八塩(くれないのやしお)」だ。
スープを開発する過程でこの醤油の味わいに惚れ込み、あえて一切手を加えず、醤油の味わいをベースにスープを作り上げていった。
そんな醤油と最強のタッグを組むのは、鶏ガラと国産鶏まるまる一匹を使い10時間かけて取った出汁。洗練された味わいを作るため、野菜など他の素材は入れずに鶏のみで勝負した。さらに、油やチャーシューにも鶏を使うことで統一感のある一杯に仕上げている。
ラーメンを作るにあたり、醤油屋を始めさまざまな人とのつながりが増えていったそう。西室さんはできあがったラーメンを「いろんな人の想いがのったラーメン」だと話す。
鶏の旨みが押し寄せる、どこまでも深い中華そば
この日味わったのは、鶏チャーシュー、味玉などの具材がのった特選中華そば。スープから香る鶏の良い香りに、食欲がそそられ「早く食べたい!」という気持ちがおさえられなくなる。
醤油を主役に鶏と水だけで作られたスープは、シンプルな素材からは想像もできないほど奥深い。口いっぱいに広がる鶏の風味が、醤油のコクと重なりさらに深みを増す。スープの奥深さからそこにかけられた手間暇を感じられると同時に、何度も食べたくなるほど魅了される。
分厚くカットされた鶏チャーシューは、和食で使われる調理方法の“幽庵焼き”を応用。ゆずの果汁や皮を入れたタレにチャーシューを漬け込んだあと香ばしく焼くことで、ゆずが心地良く香る上品なチャーシューに。肉厚でジューシーながら、さっぱりと味わえるのがうれしい。こだわりの具材ひとつひとつが、中華そばというシンプルな一杯に強い個性をもたらしている。
「最近では、地元の方が“この辺りで一番おいしい”と言ってくれることもあって。それがとてもうれしいです」とニコリと笑う西室さん。
オープンして1年と少し。ランチ時間帯のみという限られた営業時間でも着実にファンが増えていく『らあめん ジャ』は、中野のラーメン店の新星として一度は足を運んでおきたい一軒だ。
取材・文・撮影=稲垣恵美