甘~い焼き芋の匂いに鼻がひくひく。匂いをたどれば、三輪自転車の前に設けた木箱に、素焼きのつぼがデンと鎮座。なんとキュートな屋台だろうと見やれば「熱々ですよ~」と、甘い囁き。
かぶりつけば、ほっくりしっとり、とろけていく。『銀六いも』を営むのは、生まれも育ちも戸越の柴岡由利子さん。食べ歩きするほどの焼き芋マニアが、ある時出合ったのがつぼやきいも屋だったという。
「つぼやきいもは皮を焦がさないよう、じっくり時間をかけて丁寧に焼くんです。丸ごと食べられていいですよね」
大磯のつぼやきいも屋で基礎を学び、愛知県にも出向いたうえで、納得する常滑焼の焼き芋つぼをゲット。昨シーズン、勤めの傍ら試験営業し、晴れて今シーズン、専業となって本格始動すると、女性や年配客のほか、「男性客も多くいらっしゃるのが意外でした」と、幅広い客層が訪れるように。戸越らしく食べ歩く人も少なくない。
午後からの営業だが、仕込みで朝から大忙し。匂いや炭の灰が焼き芋に付かないよう、国産の炭を熾し、サツマイモのヘタや汚れをきれいに落としてつぼにセット。ひとつひとつ状態を見て、サツマイモを返しながら約90分。甘い匂いが漂い始めたら、蜜がじんわり染み出してきて焼き上がる。
商店街外でも活動を広げる
サツマイモは柴岡さんの「一番好き」な紅はるかを基本に、その時期におすすめの品種を日替わりで3、4種。香味の多彩さ、甘みの違いには驚きだ。「この三輪自転車でどこまでも出かけようと思っていましたが、25㎏のつぼを載せると、坂が多い戸越ではきつくて。近場が限界」と笑いつつも、柴岡さんは大崎の銭湯『金春湯』や大崎駅前マルシェなどへ出張販売にも出かけている。
昨今、焼き芋はサイクリストやランナーたちのエネルギー補給や、ヘルシースイーツとして人気が鰻上り。第4次焼き芋ブームが巻き起こっているのだ。
商店街で軒先を借りての営業は春まで。シーズンが終わったらどうするのだろう。
「つぼやきいものように、昔からあるのに、今の人にとっては新鮮でかわいく映る。そんな新しいスタイルのカフェを出したくて、物件探しを始めてます」
焼き芋の次なるステージに向け、動きだしているもようだ。
取材・文=佐藤さゆり(teamまめ) 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2020年3月号より