日本の良さを再現する珈琲店を目指して

どこか日本らしさを漂わす店舗の外観
どこか日本らしさを漂わす店舗の外観

「いつか海外で珈琲店を営みたかったのです」

そう話すのは店主の長谷川寧子(やすこ)さん。夫婦でそれぞれの勤める会社の駐在員として北京に滞在していたが、その後寧子さんは勤務先を退職。コーヒーの勉強を重ね、ついに北京でひとり店を立ち上げたのだという。

海外では珍しいサイフォン式コーヒーに取り組んだのは、日本の文化として「サイフォン」の良さを伝えたかったから。

「海外ではエスプレッソかドリップコーヒーが主流で、サイフォン式コーヒーを知る人はほとんどいないのです。ですが独特の淹れ方や、サイフォンで抽出したコーヒーの味わいが豊かなことを伝えたかった。なにより器具そのものが“日本らしさ”を表していると思ったので、あえて店に導入しました」

日本でもあまり見ることがなくなった、電気式のサイフォン。
日本でもあまり見ることがなくなった、電気式のサイフォン。

2018年に北京で開店したのは、街中でようやくスターバックスコーヒーを代表とするシアトル式コーヒーが登場したばかりの頃。コーヒーはまだ一般市民にとって当たり前のものではなかったのだ。こうした中で突如現れたサイフォン式コーヒーは物珍しさもあり、現地では徐々に客が増えていったという。

2020年に、夫の敬徳(たかのり)さんの駐在期間が満了となり、中国から帰国。2021年に再び三鷹で店を開くことになったのだ。日本でお店を開くことになっても、このサイフォン式コーヒーは外せなかったという。

「もはや日本国内でもサイフォンを導入するお店は少なくなりました。でも古くからあるこの器具の良さと、コーヒーの味わいを楽しんでほしいです。古き時代を知る方には懐かしさを感じてもらい、若い世代の人には新たな選択肢として楽しんでもらえればうれしいですね」

湯がロートへ上昇し、珈琲の粉が上ってきたら竹べらで攪拌(かくはん)する。
湯がロートへ上昇し、珈琲の粉が上ってきたら竹べらで攪拌(かくはん)する。

クラシックな味わいから、季節を感じるメニューまで

コーヒーのラインナップは全部で8種類。定番の商品に始まり、シーズナルメニューとして2〜3種類用意している。季節に合わせて変化を試してみたい。注目してほしいのは雲南・プーアル産のコーヒー。中国生まれの店ならではだ。

「プーアルってお茶や紅茶のイメージが強いけれど、コーヒーもあるんですよ。味わいも軽やかでおすすめです」

これらの厳選した豆は、店内に備える焙煎機で丁寧に炒り、提供する。

「焙煎機も国内メーカーにこだわり採用しています。海外での経験を経たからこそ、随所に日本の良さを感じていますね」

タルト・オ・シトロン520円、ニンカフェオリジナルブレンド480円(セットで50円引)。
タルト・オ・シトロン520円、ニンカフェオリジナルブレンド480円(セットで50円引)。

スイーツやフードも味わい深い。自家製クラシックプリンは目を引くビジュアルかつ、濃厚。昔ながらの固めの触感にコクのある卵の風味は、キリッと苦味のあるコーヒーとのバランスが良い。自家製ベイクドチーズケーキや焼菓子のほか、シーズナルケーキも時折登場するので、欠かさず味わいたいところだ。

見事なまでの生クリームタワー、喫茶店愛好家にはたまらない品。喫茶店のクラシック・プリン440円。
見事なまでの生クリームタワー、喫茶店愛好家にはたまらない品。喫茶店のクラシック・プリン440円。

懐かしさと新しさを提供する場所

窓からの日差しが心地良い店内は、ダークブラウンとブラックを基調としていてスタイリッシュ。そこにオールドテイストのテーブルやチェアが並び、新しくもあり、どこか古き良き喫茶店の香りも感じる。ぽつりぽつりと一人客が店に入り、お気に入りのコーヒーを注文。書籍を読む者、新聞を読む者、各々が滞在する時間を楽しんでいる。

昔ながらの落ち着きのあるテイストでありつつも、スタイリッシュさも感じる店内。
昔ながらの落ち着きのあるテイストでありつつも、スタイリッシュさも感じる店内。

「訪れる人の年代が幅広いのですが、意外と近所に住む高齢の方も多いです。昔ながらの喫茶店の雰囲気を懐かしんでいただけているのかと思うとうれしいですね。この土地で暮らす人に長く愛される店になれたらいいなと思います」

長谷川さん夫婦。明るくオープンで話しやすく、コーヒーへの愛情が深い。
長谷川さん夫婦。明るくオープンで話しやすく、コーヒーへの愛情が深い。
住所:東京都武蔵野市中町3丁目3-1/営業時間:10:00~17:45LO/定休日:第1・3月、金/アクセス:JR中央本線三鷹駅から徒歩11分

取材・文・撮影=永見薫