名建築、名庭園がそろう文教地区へ
お昼時、都電荒川線の早稲田駅を下りると、ラーメン? そば? いやいやハンバーグ? とにかくおいしそうな香りが漂ってきた。誘われるように、大隈通り商店会へ入ると、学生向けらしき魅力的な飲食店が並んでいる。
「若返った気持ちでモリモリ食べたい……」と食欲がかきたてられるが、散歩をはじめたばかりでお腹いっぱいにするわけにもいかない。学生の街だけに「安くてうまい飲食店が充実」という事実を確認しつつ、さらなる発見を目指して歩く。
街のランドマークは、早稲田大学の大隈記念講堂だろう。ゴシック様式の堂々たる構え、高々とそびえる時計台から、およそ100年前に建てられたとは思えないエネルギーを感じる。
そのすぐ近く、規模こそ小さいが負けない存在感を放つのが、「ドラード和世陀」だ。1989年、日本のガウディと呼ばれる建築家の梵寿綱氏が、当時気鋭のアーティストらと作り上げた。意外にも分譲マンションとして設計されており、2階以上には居住者がいる。
表情豊かな壁面の彫刻を見上げるだけでも、あっという間に時間が過ぎてしまう。エントランスに足を踏み入れると、鮮やかなステンドグラスと巨大な手のオブジェが迎えてくれる。アート界隈では知られた名建築で、建築、芸術に携わる人たちが見学にやってくるという。取材時も、通りの向こうから全容を描こうと、熱心に鉛筆を走らせる方と出会った。
1階は店舗になっており、そのひとつとして営業しているのが『ドラードギャラリー』。画家の小原聖史さんが経営するアートギャラリーで、毎週新しい企画展を開催している。
建物の雰囲気もあって少々敷居が高いが、入れば気さくに迎えてくれる。「雑貨屋のような感覚でのぞいてほしい」と小原さん。一度足を踏み入れてしまえば、通勤や買物、散歩の途中に、ちょくちょく立ち寄りたいアートな一角だと感じられる。
このあたりは、広い芝生の大隈庭園や回遊式庭園の甘泉園公園など、これからの時期にのんびり過ごせるスポットがそろう。ケヤキ並木が美しい早大通りは道幅が広く、天気のよい日に歩くと実に気持ちいい。週末は歩行者天国になるので、友人と散策したり、家族と遊ぶのに重宝しそう。
早大通りは住宅やオフィスが多く、商店街のようなにぎやかさはない。だからこそ『和菓子nanarica〜七里香〜』のようなゆったりとした空気感のお店がよく似合う。
店内に入るとほんのり小豆の香り。「自分で食べたい和菓子」をコンセプトとした、かわいらしい品々が並ぶ。大手コンビニでの和菓子開発経験を持つ中川さんは、手づくりの店だからこそ提供できるつきたての餅、商品ごとの餡など、丁寧な菓子づくりを突き詰める。
人気のイチゴ大福432円や看板商品の七⾥⾹餅270円をテイクアウトし、公園や通りのベンチに腰かけて、季節を満喫してはどうだろう。「春は神田川のお花見の行き帰りに、立ち寄ってくださるお客様も多いです(石川さん)」。
石川さんが紹介するマンションは、「ライオンズ早稲田ミレス」と「アス西早稲田一街区パークタワー(西早稲田パークタワー)」。「ライオンズ早稲田ミレス」は大隈通り商店会の一角にあり、文教地区のど真ん中といったロケーション。ノスタルジックな街並みのなかで、「アルミシルバーの格子とバルコニーのガラスの手すりがスタイリッシュ」と石川さんが言う現代的な雰囲気を漂わせている。
「アス西早稲田一街区パークタワー」は、「西早稲田パーク・タワー」「西早稲田東ウイング」「西早稲田南ウイング」の3棟からなり、敷地面積は全体で1万㎡を超えるという。
隣接する早稲田大学の所有地を含むエリア一帯の再開発によって整備された場所で、「定住性の高い都市型住宅や、従前からあった診療所等に加え、新たに地域コミュニティーの核となる交流施設を含み、都市環境を再編成しました」と石川さん。
「特に地上31階建ての『西早稲田パーク・タワー』は、西早稲田のランドマークでもあります。隣接する新宿区立甘泉園公園の深い緑とのコントラストが、美しい景観を創り上げていますね」
桜の名所に大型の高級マンションが立ち並ぶ
都電荒川線が通る新目白通りを渡ると、街の趣は一変する。商店、飲食店はぐっと少なくなり、大規模なマンションの谷間に、古くからの小さな個人宅が並ぶ。そんななかでも、アートを感じる散歩スポットが点在する。
「新宿区は染め物と印刷の街」と話すのは、『富田染工芸』の5代目社長富田篤さんだ。明治15年(1882)に浅草で創業し、大正3年(1914)に面影橋のたもとにやってきた老舗で、江戸小紋・江戸更紗などの染め工房だ。
東京のなかでも神田川の上流にあたる新宿区は、染め物に欠かせない水洗いの工程に適していた。今では同社だけになってしまったが、明治〜大正には面影橋周辺に多くの染め工房が集まった。
やがて、染め物の技術は印刷へと転換し、多くの工場が建設された。古くからの工場地帯だった面影橋エリアでは、企業が持っていた広い敷地の跡に、比較的大規模なマンションが建てられることに。江戸〜明治以来の染め物産業の隆盛があっての住宅地の構成、と考えると今日のマンションめぐりも感慨深い。
『富田染工芸』は『東京染ものがたり博物館』として一部を開放しており、営業時間内なら誰でも無料で見学できる。また、小裂(手ぬぐいやハンカチ)やトートバックの染色体験(2000円~)は、1名から予約なしで参加できる。見学では入れない工房の裏の裏までみることができるオススメの体験プランだ。
ちなみに、工房に隣接する中層マンション「エドコモン西早稲田」は、もともと同社の敷地だったという。言うまでもなくマンション名は「江戸小紋」からとられている。川沿いに細長い敷地はいかにも染工房の跡地らしく、「南側の間口が広く、バルコニーから神田川を望む住戸がメインとなり、春には桜が手に届きそうな立地です。まさに神田川を望むために建てられたようなマンションですね」と石川さん。
雑貨店にカフェが併設された『Zakkaya Maeda/iro』の敷地も、かつては染め工房だった。雑貨店で扱うのは”紙”。ヨーロッパから輸入したペーパーナプキンとアートペーパー、和柄でデザインされたオリジナル和紙(ライスペーパー)を、常時3,000点以上取りそろえる。
ランチョンマットのように食事の敷物にしてもよいし、手頃な値段なので、入れ替えながら絵画のように飾ってもおもしろい。センスに自信のない筆者には、ちょっとしたプレゼントに最適だと感じられた。
また、近所に住むなら試したいのが、「デコパージュ」のレッスンだ。デコパージュは絵柄のある紙を切って、小物に移し貼る技法。レベルに応じたコースが充実しているので、初めての方も気軽に相談してほしい。カフェ『iro』で飲食すると、マスクにかわいい絵柄をつけるデコパージュのやり方を無料で教えてくれるので、まずは体験してみるのも一興。
早稲田〜面影橋の神田川河岸は、都内屈指の桜の名所でもある。「桜プレイス」は、その名の通り、最盛期には川を覆いつくすような桜並木を見下ろすマンション。「この桜並木を借景に取り込むために、梁の無い室内空間に約2.5mのフルハイトサッシュを採用。壁のなかに巻き込まれたロール式の網戸や、最小限に隠されたサッシュ框など、大開口を演出する工夫も随所に見られます。建物の中央に強固なコアウォールを設置して耐震性を強め、構造体は壁と床だけで構成、柱梁のない壁式構造です」と石川さんは力説する。
花見のための工夫を施すほど、魅力的な桜並木だとも理解できる。コロナ禍が一日も早く収束し、のびのびと花見できる日常の回復を願うばかりだ。
チンチン電車の風情を感じる毎日!?
「明治通りは車の通りは多いですが、都電荒川線の線路がいい緩衝材(石川さん)」とは言い得て妙。街を歩いていると、独特の景観と空気を育んでいるのは、やはりチンチン電車だと実感する。小さな車両がゆっくりと走っているだけで、どこか懐かしさを感じるのだ。
そこで、住んでみたくなるのが「ニューライフ西早稲田」だ。「新目白通りと明治通りが交わる交差点は線路がカーブを描き、都電荒川線の車両を見る絶好スポットとても知られています」と石川さん。
「1階・2階は店舗事務所、3階以上が住居で、1Rから5DKまで多様なタイプが揃い、シングルからファミリー層まで幅広く対応しています」
上階からの眺めはどうだろう、電車の天井が見えるのだろうか? 想像をかきたてられながら、徐々に深まる春を感じていた。