どこのお店のパンがあるかはその日のお楽しみ
ビッグイシュー日本が運営する『夜のパン屋さん』は、パン屋さんで売れ残ってしまった商品を営業終了後に引き取って販売し、フードロスを削減して雇用をつくるという取り組みだ。参加店は、東日本橋『BEAVER BREAD』やGINZA SIXの『Sinifiant Sinifié(シニフィアン シニフィエ)』など、パン好き垂涎の名店ぞろい。どこのお店のパンがあるかはその日のお楽しみ。訪れた人は「複数の人気店のパンを一度に買えるのがうれしい」と頬をほころばせる。
『ビッグイシュー』といえば、ターミナル駅などで、赤い帽子をかぶった販売者が手売りするストリート・ペーパーのこと。生活困窮者のための自立支援事業の一環で、雑誌の売り上げの約半分が販売者の収入となる。『夜のパン屋さん』での商品のピックアップと販売は、ビッグイシューの販売者が主に担う。フードロス削減だけでなく、コロナ禍でさらに厳しい生活を余儀なくされた販売者たちの支援にもつながる取り組みなのだ。
「フードロスをなくそう、という人が増えてくれたら」
プロジェクトの代表で、NPO法人ビッグイシュー基金共同代表を務める料理研究家の枝元なほみさんは「コロナ禍で仕事を失ってしまった人がいる一方で、毎日売れ残ってしまうパンがある。両者を結び付けて、現状をボトムから変えていこうという取り組みです。こうした活動をきっかけに、フードロスをなくそう、という選択をする人が増えてくれたら」と語る。
出店に神楽坂を選んだ理由をたずねると、「神楽坂はたくさんの個人店があるせいか、何かをやっていると自然と足を止めてくれる人が多い街。お客さんとも言葉を交わし、今だからこそ人と人をつなげる仕組みを作っていきたい」と笑った。
2021年10月1日で1周年を迎えたこのプロジェクト。同年秋からは江戸川橋駅方面のマンション下でも販売を開始したほか、各所で着実に活動範囲を広げている。
まずは散歩のついでに一歩、『夜のパン屋さん』に足を運んでみては。軒先で小さくともる明かりに似た、優しいつながりの場をきっと感じることができるはずだ。
取材・文・撮影=吉岡百合子(編集部)
『散歩の達人』2021年12月号より