シンプルな外観で、逆に興味を持ってもらいたい

高円寺駅前から歩くと7分ほどの場所。線路脇の道も環七を渡ると急に住宅街らしさのある空気になる。そんな場所にあるのが『RAD BROS CAFE』だ。東京のカフェらしいスタイリッシュな外観だが、高円寺のカフェというくくりで考えると“らしくない”かもしれない。

「この辺りは飲食店が少なくて、こんなカフェがあったらいいなと思っていたら、ちょうどこの場所が開いたんです」と話すのは店長の佐々木志朗さん。

佐々木さんは長く高円寺に住んでいて、自宅も店から近いそうだ。だからこそ、敢えて高円寺らしすぎない店にと考えた。

「雑居ビルに古着屋さん、いろんなカルチャーが混在していてごちゃごちゃしている感じが高円寺の魅力です。でもあえてスッキリした、高円寺に今までないような店にしたかったんです」と話す。

カフェというよりコーヒースタンドと自称する店は、ガラス張りで、白とグレーが基調色になっている。看板もシンプルだ。外からわかるのは、エスプレッソマシンがあることと、カウンター下のガラスケースにスイーツが並んでいること。「どんなお店かわからない方が、調べるはずですよね」というが、確かに新しくできた店が気になれば、すぐに検索するのはすっかり日常だ。

店名の由来を尋ねると、「RADはかっこいいといった意味合いのスラングで、BROSはブラザーの略。お客さんにとって、気軽に立ち寄れる身内のような店になるように」と店名に込めた願いを話してくれた。

1日に何度も作って品切れなし。こだわりのスイーツ作り

ガラスケースにディスプレイされるのは自慢のスイーツ。

実は佐々木さんは今の店がオープンするまで、赤坂でカフェを運営していた。都内でもさすがの一等地とあり、理想としていた街の人がコーヒーを買いにふらりと寄って行くような店とは行かなかった。

だから「今の店では赤坂でできなかったことをやっています」という。そのうちの一つがスイーツで、いちばん人気はオリジナル バスクチーズケーキだ。

卵黄たっぷりのオリジナル バスクチーズケーキは500円。米粉を使っているのも珍しい。

チーズと生クリームは北海道産、小麦粉ではなく米粉を使い、砂糖もてんさい糖を使うなど、原材料は厳選。表面を焦がした下の生地は、卵黄を多めに使って黄色味を帯びている。生地はぎゅっと詰まっているが、フォークを入れた時と口に入れた時で、重さにギャップがあるのが不思議だ。するりと口の中に入っていく。

ロゴはタヌキのシルエット入り。この向こうに大きめのキッチンがある。

チーズケーキは、コーヒーとチャイといった複数の風味が用意されているほか、フィナンシェやクッキー、かぼちゃのプリンなど定番に加えて、月ごとに新しいケーキも並ぶ。どのスイーツもコーヒーに合わせて楽しんでもらうことを考えて作っており、ケーキ目当てで訪れる女性客も多いようだ。そんなお客さんをがっかりさせないため、カウンターの後ろにあるキッチンでは、パティシエが営業時間中ほぼずっとお菓子を作り続けている。そのため品切れしていることはまずないのだ。

ただし「SNSにスイーツの写真をアップしてくださるお客様も多いのですが、ドリンクも拘っているので、その思いがもう少し伝われば」と佐々木さんは苦笑いする。

コーヒーは、セレクトショップのような形式。オリジナルブレンドは、愛知県豊田市の焙煎所『WORK BENCH COFFEE ROASTERS(ワークベンチコーヒーロースターズ』に依頼。そのほか4種類から5種類ほど用意しているシングルオリジンコーヒーは、毎月のように違うお店から仕入れている。

店長の佐々木志朗さん。

「国分寺にある『Life Size Cribe(ライフサイズクライブ)』のような付き合いの長いお店のコーヒーもあれば、僕が休みの日に飲みに行って、おいしかったコーヒーを使わせてもらいたいとお願いすることもあります。地方にあるお店のコーヒーをこの店で紹介できるのも、こだわりのひとつです」

丁寧に入れてくれるカフェラテは480円。

コーヒーにしろ、ケーキにしろ、定番はありながら、毎月何かが変わっているというのも、店を訪れる楽しみとしておもしろい。

5年後にあるかもしれない道路拡張。それが近付けるご近所さんとの距離

『RAD BROS CAFE』の誕生は、近隣住民にとても歓迎されている。それは近くにおいしいコーヒーを出す店が少なかったことに加えて、目の前を走る道路の拡張が検討されていることに関係がある。

「5年後ぐらいに工事があると言われています。近所の人たちは、うちの店が人気店になったら道路拡張が検討しなおされるのではないかと期待してくれているみたいです。そんなこともあって、近所のおばあちゃん達もすごく応援してくれています」

道路に面していて全てガラス張り。白いテーブルが映える。

立ち退きもある道路拡張の対象地域ということで、しばらく新しいお店が開かれることがなく、その分活気がなかったのだろう。通行量は多いこともあって、高円寺らしい風貌の男性客、パソコンを抱えて訪れるビジネスパーソン、流行の韓国っぽいものが好きそうな若い女性たちなど、いろんな人がひっきりなしに訪れて、コーヒーとスイーツを楽しんでいく。さらにはすぐ後ろにある学校の保護者が立ち寄ることも多い。少し寂しげだったこの地区に賑わいをもたらしている。

「高円寺のいい意味で媚びないところが好きです。よく居酒屋さんなどでは常連さん同士が仲良く話している姿をよく見かけますが、そういう距離感も高円寺のよさだと思います」と、高円寺愛を語る佐々木さん。スタイリッシュだけれど、近所の人やお客さんたち、そしてスタッフもまるで顔見知りのような距離で楽しめるカフェとして長く愛されることだろう。

住所:東京都杉並区高円寺北1-4-2/営業時間:10:00〜20:00/定休日:無/アクセス:JR中央本線高円寺駅から徒歩7分

取材・撮影・文=野崎さおり