【高円寺で長く愛される魅惑のカフェ・喫茶店】

穏やかな国産紅茶に心が和む『サルトリイバラ喫茶室』

アンティークの茶器で用意する。「中央線沿線は昔から喫茶店文化が豊か」と中野さん。
アンティークの茶器で用意する。「中央線沿線は昔から喫茶店文化が豊か」と中野さん。

目当ては国産の紅茶。立ちのぼる香りに鼻先をくすぐられ、つい目尻が下がる。外国産に比べてボディは軽めとされるが、各地の農家に店主・中野木綿子さん自ら赴き、取り揃えた品々は、しっかりした味わいのものやフルーティなタイプなど幅広い。運ばれてくる時にはポットから茶葉を外してあるので、最後の一滴まで完璧なコンディションなのもうれしい。「温度が下がると香味の感じ方に変化が生じます」。その豊かな表情にも、ときめく。

奈良県・岩田さんの月ヶ瀬紅茶さやまかおり860円は、花実のような香り。甘酒のアイスクリン690円は手作りだ。
奈良県・岩田さんの月ヶ瀬紅茶さやまかおり860円は、花実のような香り。甘酒のアイスクリン690円は手作りだ。

『サルトリイバラ喫茶室』店舗詳細

住所:東京都杉並区高円寺南3-46-2-2F/営業時間:12:00~21:45LO(日・祝は~19:45)/定休日:水(火不定)/アクセス:JR中央線高円寺駅から徒歩4分

本から始まる地域のつながり『Book Cafe Dinerイココチ』

店主自筆のポップが付された本も。
店主自筆のポップが付された本も。

「自宅にある本を店に持ってきて置いたのが始まりです。当初は売るつもりはなかったんですが」と店主の蔵下さんは話す。店内には壁際の本棚を中心に、絵本や小説、デザイン、建築、料理など、幅広いジャンルが揃う。席から手が届く距離にある小さな棚にも、まんべんなく本が詰まっている。このごろはラインナップを見て、お客さんが本を持ってきてくれることもあるとか。地域の憩いの場で、本が巡っていく。

フレンチトースト690円。スイーツからごはんまで、いろいろ揃う。
フレンチトースト690円。スイーツからごはんまで、いろいろ揃う。
閲覧のみと販売している本がある。本の裏表紙でわかるようになっている。
閲覧のみと販売している本がある。本の裏表紙でわかるようになっている。

『Book Cafe Dinerイココチ』店舗詳細

作り込みがすごくて読書に没頭できます『アール座読書館』

本棚の本は渡辺さんの蔵書だったもの。
本棚の本は渡辺さんの蔵書だったもの。

私語厳禁。古い机やベンチ、植物や水槽などを配した「読書するためだけの空間」は、異様でもあり、どこか懐かしくもある。宮沢賢治の『黄いろのトマト』に出てくるような博物館、長崎の教会、古い木造校舎、昔乗った列車――。造りたいお店のイメージは物件探しの段階からあったが、「結局、開店まで半年もかかってしまいました(笑)」と店主・渡辺太紀さん。長い時間をかけて作り込まれた、どこにもない場所がここにある。

机は目線が合わないよう同じ向きに配置され、一席一席が個室のよう。
机は目線が合わないよう同じ向きに配置され、一席一席が個室のよう。
コーヒー一律680円はポットサービス。
コーヒー一律680円はポットサービス。

『アール座読書館』店舗詳細

住所:東京都杉並区高円寺南3-57-6 2F/営業時間:13:30~22:00LO(土・日・祝は12:00~)/定休日:月(祝の場合は翌)/アクセス:JR中央線高円寺駅から徒歩3分

薄闇と音の洪水に埋没し、ひっそりと読みふける『ルネッサンス』

入り口近くに飾られたつげ忠雄氏の原画や、『クラシック』のマスターが手作りした不思議な装置の数々に目を奪われる。
入り口近くに飾られたつげ忠雄氏の原画や、『クラシック』のマスターが手作りした不思議な装置の数々に目を奪われる。

スタッフが「全国で一番敷居が低いんじゃないかと思います」と語る、会話もOKの名曲喫茶。かつて中野に存在した名曲喫茶『クラシック』の家具を使用し、同店おなじみの大工さんが作り上げた空間は、2007年にオープンしたのが信じられないムードを漂わせる。地下演劇の舞台のように入り組んだほの暗い座席で、クラシックに身をゆだね頭の芯を痺れさせれば、難解な詩集や哲学書のわからなさがむしろ楽しくなってくる。

メニューは珈琲、紅茶、オレンジジュースの3品。各400円(珈琲お代わり200円)。フードの持ち込みOK。
メニューは珈琲、紅茶、オレンジジュースの3品。各400円(珈琲お代わり200円)。フードの持ち込みOK。

『ルネッサンス』店舗詳細

住所:東京都杉並区高円寺南2-48-11 堀萬ビルB1/営業時間:12:00~19:30(土・日・祝は~21:00LO)/定休日:月・火/アクセス:JR中央線高円寺駅から徒歩5分

夢見る人たちを迎い入れる駅前のアメリカンダイニング『Yonchōme Cafe』

自家製チリミートのタコライス 半熟卵添えは名物メニューのひとつで1200円。パテの肉肉しさが決め手のクラシックバーガーは1000円。
自家製チリミートのタコライス 半熟卵添えは名物メニューのひとつで1200円。パテの肉肉しさが決め手のクラシックバーガーは1000円。

『Yonchōme Cafe』は高円寺駅のホームからも見える老舗のカフェで、オープンは1989年。数々の映画やドラマの撮影が行われ、高円寺ゆかりの著名人たちがそれぞれの思い出を持つ。高円寺の文化を育んできた場所のひとつだ。

オーナーがニューヨーク留学中に好きだったアメリカンダイナーをイメージした店内。鉄製のフェンスがあるのは、ニューヨークの街並みを意識してのことだ。

メニューが豊富なのも『Yonchōme Cafe』の特徴だが、やっぱり代表的なメニューはタコライスだろう。ピリ辛の自家製チリミートが食欲をそそり、ボリュームもたっぷり。表面には野菜がたっぷりと野菜不足になりがちな人にもぴったりだ。

『Yonchōme Cafe』が目に入ると高円寺だと感じる人は多いのでは?
『Yonchōme Cafe』が目に入ると高円寺だと感じる人は多いのでは?

『Yonchōme Cafe』店舗詳細

住所:東京都杉並区高円寺南4-28-10 2F/営業時間:11:30~24:00フードLO、24:30ドリンクLO(※変更の可能性あり)/定休日:無/アクセス:JR中央本線高円寺駅から徒歩1分

ソムリエがコーヒーとスイーツのマリアージュを提案『Poem MANO A MANO COFFEE』

栗のおいしさを存分に味わえる四万十栗のテリーヌは600円。四万十栗のテリーヌに合わせたいブレンドのダヴィンチは600円。
栗のおいしさを存分に味わえる四万十栗のテリーヌは600円。四万十栗のテリーヌに合わせたいブレンドのダヴィンチは600円。

高円寺南口で約半世紀、街の人に親しまれてきたコーヒーハウス「ぽえむ」。2020年4月にリニューアルが行われ店名も少し変わって『Poem MANO A MANO COFFEE』となった。

現店主はソムリエとして、食べ物と飲み物のマリアージュを大切に提案し続けてきた五十嵐智香子さん。彼女が「うちのスペシャリテはこれなんです」とすすめるのが四万十栗のテリーヌだ。高知で取れた四万十栗のペーストを生地に混ぜ込み、中央にホールの栗を配置。焼き上がりに洋酒を丹念に染み込ませ、周囲にはアイシングをまとわせた。味、香り、風味、佇まいまで上等だ。

映えるむっちりカスタードプリン480円。固さがポイント。
映えるむっちりカスタードプリン480円。固さがポイント。

『Poem MANO A MANO COFFEE』店舗詳細

住所:東京都杉並区高円寺南4-44-5/営業時間:10:00〜19:00(金・土・日は~20:00)/定休日:無/アクセス:JR中央本線高円寺駅から徒歩2分

【個性が光るおしゃれカフェ】

スタイリッシュさと手作りスイーツが魅力のコーヒースタンド『RAD BROS CAFE』。

卵黄たっぷりのオリジナル バスクチーズケーキは500円。米粉を使っているのも珍しい。カフェラテは480円。
卵黄たっぷりのオリジナル バスクチーズケーキは500円。米粉を使っているのも珍しい。カフェラテは480円。

高円寺駅から中野に向かう線路沿いを進み、環七を渡ってすぐのところに『RAD BROS CAFE』はある。高円寺らしからぬスタイリッシュな店だ。

手作りのスイーツの中でいちばん人気はオリジナル バスクチーズケーキ。チーズと生クリームは北海道産、小麦粉ではなく米粉を使い、砂糖もてんさい糖を使うなど、原材料は厳選している。生地はぎゅっと詰まっているが、フォークを入れた時と口に入れた時で、重さにギャップがあるのが不思議だ。

コーヒーは、セレクトショップのような形式。コーヒーにしろケーキにしろ、定番はありながら、毎月何かが変わっているというのも、店を訪れる楽しみとしておもしろい。

ロゴはタヌキのシルエット入り。この向こうに大きめのキッチンがある。
ロゴはタヌキのシルエット入り。この向こうに大きめのキッチンがある。

『RAD BROS CAFE』店舗詳細

住所:東京都杉並区高円寺北1-4-2/営業時間:10:00〜20:00/定休日:無/アクセス:JR中央本線高円寺駅から徒歩7分

古いビルの3階に広がるもう一つの物語でティータイムを。『エセルの中庭』

いちばん人気のフレーバーティー、毒林檎の紅茶は700円。クラシカルなティーポットで提供される。数ある中からどんなポットで提供されるかも楽しみのひとつ。
いちばん人気のフレーバーティー、毒林檎の紅茶は700円。クラシカルなティーポットで提供される。数ある中からどんなポットで提供されるかも楽しみのひとつ。

古いビルの3階にある『エセルの中庭』に入店するには、2階まで登った後にドアを開け、さらに狭い階段を上がる。階段は明らかに別世界に繋がっている。

オーナーは同じビルの2階にあるおしゃべり禁止の読書カフェ『アール座読書館』の渡邊太紀さん。少年の頃から宮沢賢治やミヒャエル・エンデに親しみ、大人になってからは洋館やアンティークショップ巡りも楽しんだ。その2つが融合したのが『エセルの中庭』だ。

第2次世界大戦前後の英国に暮らしていた少女エセルが登場するストーリー『中庭のエセル』が背景になっている。メニューは、ドリンクは紅茶が中心で美しく華奢なポットで提供される。スイーツ類もエセルの物語に登場することを想定したもの。メニューブックには、それぞれに背景となるストーリーが添えられている。

 

オーナー渡邊さんのお気に入りの場所。左のクマはなんと渡邊さんお手製。
オーナー渡邊さんのお気に入りの場所。左のクマはなんと渡邊さんお手製。

『エセルの中庭』店舗詳細

住所:東京都杉並区高円寺南3-57-6 3F/営業時間:火〜金 13:00〜21:30LO、土日祝12:00〜21:30LO/定休日:月(祝日の場合は営業し、翌火休)/アクセス:JR中央本線高円寺駅から徒歩5分

手作りトゥンカロンが人気。最新韓国スイーツ&カフェの発信基地『The Sugar Forest』

茶葉をクリームに混ぜ込んだアールグレーは400円。紅茶の香りが生きるように仕上げている。
茶葉をクリームに混ぜ込んだアールグレーは400円。紅茶の香りが生きるように仕上げている。

『The Sugar Forest』は韓国版マカロン、トゥンカロンのお店だ。

「もともと韓国人は甘いものはそれほど好きではありません」話すのは韓国・釜山出身のパティシエ、金仁子(キム・インジャ)さん。フランスと同じ味では受け入れられなかったマカロンを、韓国人の味や食感の好みに合わせて甘さ控えめにアレンジ。かわいさも相まって人気が出たのがトゥンカロンだ。

店内では1階にも2階にもあるネオンサインに注目してほしい。韓国で今、流行していると取り入れた。2022年は『The Sugar Forest』を震源地として、ポップなネオンサインの前で撮ったかわいい焼き菓子の写真をSNSに投稿することが、日本でも流行していくのかもしれない。

日本でも流行りそうなネオンサインの前でパチリ。トゥンカロンはモンブラン420円といちごヨーグルト450円。
日本でも流行りそうなネオンサインの前でパチリ。トゥンカロンはモンブラン420円といちごヨーグルト450円。

『The Sugar Forest』店舗詳細

住所:東京都杉並区高円寺南4-24-11 宝山ビル1階/営業時間:11:00~21:00/定休日:無/アクセス:JR中央本線高円寺駅から徒歩3分

ほっこりおいしく野菜不足解消!ヴィーガンカフェ『vege & grain cafe meu nota』

ヴィーガン ミールス1380円とベジ&グレイン デリ プレート1250円。
ヴィーガン ミールス1380円とベジ&グレイン デリ プレート1250円。

オーナーシェフ、伴奈美さんが訪れたニューヨークで印象的だったのがヴィーガンのレストラン。どんなレベルのベジタリアンやアレルギーの人も一緒に食事ができる空間を東京にも作りたいと、目標だった独立を果たしたのが『vege & grain cafe meu nota』だ。

ランチの人気メニューはヴィーガン ミールス1380円とベジ&グレイン デリ プレート1250円。どちらもワンプレートだが、その日によって内容は異なる。総菜は、はっとする組み合わせのものが多い。例えば千切りのにんじんといえば、オレンジ風味のサラダが定番だが、海苔と合わせて磯和えに。水菜と油揚げといえば煮浸しがお決まりのところ、水菜は生のままマリネに。

お店があるのは高円寺のエトアール通りにあるスーパー、西友の斜向かいにある建物の2階。
お店があるのは高円寺のエトアール通りにあるスーパー、西友の斜向かいにある建物の2階。

『vege & grain cafe meu nota』店舗詳細

取材・文=野崎さおり、渡邉 恵(編集部)、信藤舞子、屋敷直子、佐藤さゆり 撮影=野崎さおり、門馬央典、金井塚太郎、花岡慎一

高円寺は、キャラの濃い中央線沿線のなかでもひときわサイケで芳(こう)ばしい街だ。杉並区の北東に位置し、JR高円寺駅から、北は早稲田通り、南は青梅街道までがメインのエリア。中野と阿佐ケ谷に挟まれた東京屈指のサブカルタウンであり、“中央線カルチャー”の代表格とされることも多い。この街を語るときに欠かせないキーワードといえば、ロック、酒、古着、インド……挙げ始めればきりがない。しかし、色とりどりのカオスな中にも、暑苦しい寛容さというか、年季の入った青臭さのようなものが共通している。