選りすぐりの良いモノが集まる場所
『Marked』が店を構えるのは、蔵前駅から隅田川を越えてすぐの場所。住宅や中小企業が入るビルが集まった閑静なエリアにふと、多くの人で賑わうこの店が現れる。平日の昼間の時間帯にもかかわらず、レジには長蛇の列。その客層は若い女性や高齢の男性など、文字通り老若男女に及ぶ。店の中と外を遮るものが一つもないこの店に、人々がどんどん吸い寄せられていくようだ。
樋口さんによると、毎日お昼ごはんにサンドイッチを買いに来てくれるご年配の方や、食パンを気に入ってプレゼント用に度々買いに来てくれるお向かいさんなど、ご近所さんの利用も多いという。そういわれてみると、話を伺っている間にもガラスケースの中のパンがどんどんなくなっていく。
それもそのはず、販売しているパンはすべて人気ベーカリーの『パーラー江古田』が監修を行っているというのだ。『パーラー江古田』といえば、粉から挽いて作り上げるハード系のパンが名物。この店でもそれを同様に取り揃えていることから、蔵前には珍しいとあって、ハード系パン好きにも重宝されているそう。粉の配合をアレンジしてオリジナル感を出しているハード系パンの一部は、サンドイッチにも活用されている。
そして、壁際にずらりと並ぶ調味料や飲料などの数々。実際にカフェで提供しているメニューにも使用して、お客さんに味を伝えたり、使い方の一例を提案したりといった取り組みも行っている。中でも、好評というのが純米酢。原料液をかき混ぜることなく、空気に触れる上面からゆっくりと発酵していくのを待つ、静置発酵という製法で造られている。完成まで1年近く掛かる分、まろやかな酸味と深みのある味わいに仕上がるという。これを通常ワインビネガーなどを使用して作る料理に代用しても、違和感なく仕上がるようだ。
ほかにも、新潟県の最北端にある笹川流れと呼ばれる海岸線からくみ上げた海水を薪で15時間ほど煮詰めて出来た一番塩だけを集めた塩(塩の花)や、同じく笹川流れの海水に海藻のエキスを加えて作った塩(玉藻塩)など、職人の技が光る調味料も並ぶ。ちなみに、これらの塩は塩味がまろやかで旨味も強いことから、この店で提供しているアイスクリームのトッピングにも活用されている。
そんなこだわりの製法で丁寧に作り上げられた調味料のセレクトを担当しているのが、茨城県つくば市でナチュラルワインの輸入を行っている、be a good friend(ビーアグッドフレンド)の代表・藤木潤さんだ。ワインのセレクトで培った審美眼を、この店のために遺憾なく発揮した様子が見て取れる。
また、藤木さんの妻の宏美さんは『Pomme de terre(ポムドテール)』という全国の農園で作られた自然栽培野菜を販売する会社を運営。この『Pomme de terre』が扱う野菜も、この店で販売を行っている。奥の冷蔵ケースにずらりと並ぶ野菜の中には、北海道の農家から直送されたものもあるそうだ。その自然栽培やオーガニックの野菜は、カフェメニューやテイクアウト用のデリにも活用。間もなく鮮度が落ちそうな野菜を優先して使用し、フードロス対策にもつなげている。
『Marked』を形づくる3つの軸
この店に並ぶ商品はすべて、同店のコンセプトにも掲げられている“作る・繋ぐ・回す”という3つの軸をもとにセレクトされている。“作る”は、個性が光る緻密なものづくりを指す。先述した、酢や塩のような手間暇を惜しまないプロダクトがその良い例だ。
そして“繋ぐ”は、作り手と消費者、さらには生産者同士が繋がるハブ的存在になりたいという目標を表している。この店で扱っている商品は、どれも作り手の顔が見えるものばかり。『Marked』のスタッフも各生産者とコミュニケーションを取ることで、お客さんに自信を持って商品をおすすめできるように。
そうして、人や自然に優しいライフスタイル、商品を選択する人が増えることで、持続可能な社会が実現されていく。このサイクルへの貢献こそが、最後の“回す”だ。
「地元の人に愛される店に」という想いから始まったこの店は、すでに地元の人々にとってなくてはならない存在になっているように思える。街のコミュニティマーケットとして、これからどのような成長を見せていくのか、今後の取り組みにも目が離せない。
『Marked』店舗詳細
取材・文・撮影=柿崎真英