ときに我孫子行き、ときに取手行き。常磐線を使う人は駅の電光掲示板でその駅名を目にすることは多々あれど、江戸川を超えた先にはなにがあるの?我孫子在住のライターSが「駅からハイキング」特派員として4コースをなぞり、沿線の魅力をゴン掘り!「駅からハイキング」(JR東日本主催)とは、コースによって街中から自然までその土地ならではの魅力を手軽に堪能できる、予約不要・参加費無料のウォーキングイベントだ。(2021年10月23日から12月5日まで「駅からハイキング」に参加して常磐線を歩こう!キャンペーンも開催中!)第1回は、水戸街道の宿場・松戸と取手をぶ~らぶら。

幕開けから飲みたい気持ちに駆られ……

江戸時代、柏の一部は小金牧と呼ばれ、幕府直轄の馬の放養地だった。旧水戸街道は、この小金牧を通過。牧と村の境には木戸が造られ、関所の役目を果たしていたそう。

駅からハイキング柏~我孫子編の出発点である柏駅東口から徒歩5分、かつて木戸があった場所の前には柏神社が鎮座。手を合わせ、散歩の無事と好天を祈る。

神社から水戸街道を少し歩くと、こまいぬブルワリーの直営レストラン『柏ビール』を発見。のっけからグビグビやりたくなるが、ここは我慢。こちらのビールは柏駅前のファミリかしわにある『Cluster(クラスター)』という店でも購入できるので、散歩後、ご褒美に買うのもいい。

柏神社は天王様と呼ばれ、柏の人々に親しまれてきた。神社の前には、木戸に関する説明板が。
柏初のビール醸造所兼レストラン『柏ビール』。2021年10月現在は金~日、17~21時の限定営業。

芝生でママと子どもたちが憩う柏ふるさと公園を過ぎ、柏ふるさと大橋を渡ると、手賀沼ふれあいラインに出る。ここからは我孫子市だ。南側を振り返ると、陽光を跳ね返す大きな手賀沼を一望できた。

根戸新田の信号で進路を北に切り替え、手賀沼とお別れ。左右には田畑が広がり、この日は稲刈りをする農家さんの姿も。柏・我孫子界隈って、意外と田んぼが多いなあ。

根戸新田の信号あたりからの、手賀沼ビュー。
根戸新田で作業をしていた『手賀沼ファーム』の農家さん。「秋はさつまいも掘り体験も人気だよ」。
『手賀沼ファーム』の小さな直売所。汗をかいたら梅干しで塩分補給はいかが?

謎の恐竜の前に雰囲気良しの古民家カフェを発見

こんもりと盛り上がる根戸城跡・金塚古墳を左手に過ぎ、坂をぐんぐん上がる。国道6号に出ると、青空に映えまくる謎のピンク恐竜が! なぜ口にバラを? パッと見は草食恐竜だからバラも食べるのか?など独り言(ご)ちながら、さらに北へ。空が広くなり、のどかな空気も増してくる。

瓦屋根の趣ある民家が並ぶ布施弁天通りに入ると、先ほど見たピンク恐竜が前方に3体も。恐竜たちが守護する建物の社名を見ると、特殊な看板の設計・施工会社らしい。

国道6号を睨みつけるピンクダイナソー。バラを加えたナルシストさんの正体が、後ほど明らかに。
見上げた青看板に「守谷」の文字。茨城も近いとあれば、空気ものどかになるもんです。
ピンクの恐竜は、 地元看板店の社長が創業時に会社のマスコット的存在として造ったのだそう。マスコットというにはパンチ効きすぎだけど、記憶にはしっかり刻まれるので社長の作戦勝ち?

そのピンク恐竜たちの向かいにあるのが、古民家カフェの『コハレキッチン』だ。「店の場所を案内するとき、ピンクの恐竜が目印ですって伝えます(笑)」と店主の倉持貴さん。立派な梁にほれ込み購入した古民家を、自身でこつこつリノベーション。各席間はゆとりがあり、懐かしい雰囲気と相まって、長居するお客さんも多い。料理には地元野菜を盛り込むことも多く、お店で働く若き女性農家が育てた野菜を使うこともあるそう。

低温調理の鶏ハムがしっとりやわらかな『コハレキッチン』の鶏そばつけ麺1100円。クリーミィな味わいのなかにビーツ独特の土の香りと自家製そばつゆの風味が絶妙に混ざり合うビ ーツのベジポタージュなど、つけ汁は 4 種からチョイス。
住所:千葉県柏市布施1486/営業時間:11:00~15:30LO/定休日:月・第1・3・5日/アクセス:JR常磐線・成田線我孫子駅からバス10分の布施荒屋敷下車、徒歩11分

絶景テラス新設の茶屋で散歩の句点を

続いて訪ねた布施弁天は、階段の上で屋根を広げる楼門と三重塔が立派。階段を上ると、楼門に額縁のように切り抜かれた、朱色の本堂が見えてきた。こちらは関東三大弁天のひとつで、大同2年(807)開山とされる。本堂横の鐘楼は多宝塔(たほうとう)式の珍しい構造で、柱頭には十二支の彫刻が。今年の干支の丑の彫刻には、白いボンボンみたいな目印が付いていた。

唐破風付きの向拝(こうはい)を持つ、三方破風造りの華麗な本堂。本堂・楼門・鐘楼が千葉県指定有形文化財。

鐘楼の奥、巨木の下に佇むのが『茶屋 花華』。団子は米粉から、お餅は餅米から店で作る自家製とあって、甘味を目当てに訪ねる参拝客も多い。昨年新設された絶景のテラス席は、週末に予約殺到するほど人気なのだとか。

『あけぼの山農業公園』の花畑や田園風景を一望できる『茶屋 花華』のテラス席。快晴時、北東には筑波山の双耳峰を遠望!
住所:千葉県柏市布施1738/営業時間:10:00~16:00/定休日:水・第三火(1日と祝日の場合は翌)/アクセス:JR常磐線・東武アーバンパークライン柏駅からバス25分の終点・布施弁天下車、徒歩2分

布施弁天から南へ少し歩くと、さっきテラスから見た『あけぼの山農業公園』の花畑が目前に広がる。例年10月上旬~11月上旬はコスモスの紫や白、オレンジで一面が色鮮やかに。風車を借景にしたコスモス畑を撮影しようと、あちこちでカップルや夫婦がスマホでパシャリ。

広さ約1.2haの『あけぼの山農業公園』の花畑。コスモスが咲き始めた10月上旬の風景。
住所:千葉県柏市布施2005-2/営業時間:9:00~17:00/定休日:月(祝日の場合は翌)/アクセス:JR常磐線・成田線我孫子駅からバス17分のあけぼの山農業公園下車、徒歩すぐ

君は「北の鎌倉」を知っているか?

幸せいっぱいな花風景を後にし、一路、我孫子駅へ。約12kmのロング散歩はここでゴールとなるが、駅からハイキングの手賀沼散策コースは我孫子駅がスタート地点。北口から上り坂を経て『あけぼの山農業公園』を目指す。公園でコスモスの絨毯を観賞したら、のどかな畑を抜けて、駅方面にUターン。常磐線・成田線の高架を下り、我孫子駅の南側へ出る。

『あけぼの山農業公園』を出て、畑沿いの細い道を行く。車はほぼ通らない、のどかな道。
畑の道の先、左側の森に7つの社が鎮座する日枝神社。 林の隅には、馬刀神と書かれた謎の石碑も。

農家や田畑の多かった北側と違い、手賀沼のある南側は閑静な住宅地。緑豊かな水辺の土地は、かつて別荘地として栄え、明治時代末頃は「北の鎌倉」とも呼ばれるように。柔道の創始者・嘉納治五郎も明治44年(1911)に別荘を建て、手賀沼の環境保全運動に尽力したそう。現在その別荘跡地は小さな広場になっていて、治五郎の銅像が手賀沼を見つめていた。

令和2年に建立されたばかりの治五郎像。背後の東屋には治五郎の筆による書額の複製が掲げられている。
標高20mほどの台地の下に、手賀沼干拓地が広がる。その間には崖状の斜面が形成され、両側を結ぶ階段や坂が点在(写真は嘉納治五郎別荘跡の下の天神坂)。

柔道の父と小説の神様が惚れた土地

治五郎の甥で民藝運動提唱者の柳宗悦(むねよし)も、治五郎の呼びかけで手賀沼に移住。その宗悦が友人の志賀直哉や武者小路実篤を誘ったことで、白樺派の文人たちが手賀沼のほとりに集った。今も界隈には、文学の薫りがそこかしかに。『我孫子市白樺文学館』では、志賀・武者小路の原稿・書画に加え、雑誌『白樺』全160冊の表紙を展示。『志賀直哉邸跡』では当時の書斎を復元し、土・日の10~14時には一般公開されている。途中、すれ違ったワンピースの若い女性は、白樺派好きの文学少女だったのだろうか。

『志賀直哉邸跡』には、ここで書かれた小説の説明板が。『城の崎にて』『暗夜行路』などの名作がこの地で生まれた。『雪の日』など我孫子を描いた作品もあるとは!
『白樺文学館』や『志賀直哉邸跡』の前を通るハケの道。関東地方では崖地のことをハケと呼び、ハケからは台地に溜まった雨が湧き水として流れていた。
ハケの道沿いには、東京帝国大学で西洋古代史の教鞭をとった村川堅固の別荘地も。

手賀沼の絶景がラストスパートを後押し

文学散歩の途中で寄り道したいのが、黄色い軒先テントが目印の『大正煎餅』。こちらは昔ながらの手作りにこだわり、1~2枚単位で個別包装している煎餅もあるから、買い食いにもってこい。何を買おうか目移りしてると、隣で常連さんが「これ10袋!」と田舎揚げを大人買い。

「ウチの大ばあばが『昔は、ハケの道を行き来する志賀直哉をよく見かけたよ』と言ってました」と、『大正煎餅』の看板娘・木川美代子さん。
住所:千葉県我孫子市緑1-10-11/営業時間:10:00~18:00/定休日:月/アクセス:JR常磐線・成田線我孫子駅から徒歩12分

ハケの道を抜け、我孫子市若松の大きな交差点に出ると、手賀沼が見えた。手賀沼ふれあいラインまで戻ってきたのだ。沼のほとりのコスモス畑の先には、丸い屋根の手賀沼親水広場『水の館』が。直売所を併設しているので、地元野菜や加工品を土産に買うのもいい。というか、安くて鮮度がいいので我が家もよく買いにきてます。

我孫子市若松の交差点を順路の逆である右に曲がると、個人商店のベーカリーやカフェがある。少し寄り道して小腹を満たしたり、一服したりもおすすめ。
『水の館』の前にある『我孫子市鳥の博物館』は、日本で唯一の鳥類専門博物館。我孫子に暮らしていると、野鳥によく出会う。
『鳥の博物館』の先にある『高野山桃山公園』。台地の上にある展望スペースからは、東西に長い手賀沼を一望!
天王台駅が見えてくると、このロング散歩ももう終わりかと、ちょっぴり感傷的に。

高野山新田のT字路で手賀沼ふれあいラインを離れ、北へまっすぐ歩いていけばゴールの天王台駅。コース前半は水田やお花の絶景、地元の恵みを享受でき、まるで里山を歩いたような充実感が得られた。後半は風光明媚な手賀沼周辺と、その景色に惚れた文人たちの残り香が印象的。

やっぱり「駅からハイキング」のコースは、地域の魅力をどこまでも深掘りしてくれる。江戸川の先に何があるのか、地元民の僕ですら謎の多い常磐線だったけど、「駅からハイキング」に参加すればお手軽に街が楽しめるから、その後何度でも散歩したくなっちゃうのだ。皆さんもぜひ!

取材・文・撮影=鈴木健太