幕開けから飲みたい気持ちに駆られ……
江戸時代、柏の一部は小金牧と呼ばれ、幕府直轄の馬の放養地だった。旧水戸街道は、この小金牧を通過。牧と村の境には木戸が造られ、関所の役目を果たしていたそう。
駅からハイキング柏~我孫子編の出発点である柏駅東口から徒歩5分、かつて木戸があった場所の前には柏神社が鎮座。手を合わせ、散歩の無事と好天を祈る。
神社から水戸街道を少し歩くと、こまいぬブルワリーの直営レストラン『柏ビール』を発見。のっけからグビグビやりたくなるが、ここは我慢。こちらのビールは柏駅前のファミリかしわにある『Cluster(クラスター)』という店でも購入できるので、散歩後、ご褒美に買うのもいい。
芝生でママと子どもたちが憩う柏ふるさと公園を過ぎ、柏ふるさと大橋を渡ると、手賀沼ふれあいラインに出る。ここからは我孫子市だ。南側を振り返ると、陽光を跳ね返す大きな手賀沼を一望できた。
根戸新田の信号で進路を北に切り替え、手賀沼とお別れ。左右には田畑が広がり、この日は稲刈りをする農家さんの姿も。柏・我孫子界隈って、意外と田んぼが多いなあ。
謎の恐竜の前に雰囲気良しの古民家カフェを発見
こんもりと盛り上がる根戸城跡・金塚古墳を左手に過ぎ、坂をぐんぐん上がる。国道6号に出ると、青空に映えまくる謎のピンク恐竜が! なぜ口にバラを? パッと見は草食恐竜だからバラも食べるのか?など独り言(ご)ちながら、さらに北へ。空が広くなり、のどかな空気も増してくる。
瓦屋根の趣ある民家が並ぶ布施弁天通りに入ると、先ほど見たピンク恐竜が前方に3体も。恐竜たちが守護する建物の社名を見ると、特殊な看板の設計・施工会社らしい。
そのピンク恐竜たちの向かいにあるのが、古民家カフェの『コハレキッチン』だ。「店の場所を案内するとき、ピンクの恐竜が目印ですって伝えます(笑)」と店主の倉持貴さん。立派な梁にほれ込み購入した古民家を、自身でこつこつリノベーション。各席間はゆとりがあり、懐かしい雰囲気と相まって、長居するお客さんも多い。料理には地元野菜を盛り込むことも多く、お店で働く若き女性農家が育てた野菜を使うこともあるそう。
絶景テラス新設の茶屋で散歩の句点を
続いて訪ねた布施弁天は、階段の上で屋根を広げる楼門と三重塔が立派。階段を上ると、楼門に額縁のように切り抜かれた、朱色の本堂が見えてきた。こちらは関東三大弁天のひとつで、大同2年(807)開山とされる。本堂横の鐘楼は多宝塔(たほうとう)式の珍しい構造で、柱頭には十二支の彫刻が。今年の干支の丑の彫刻には、白いボンボンみたいな目印が付いていた。
鐘楼の奥、巨木の下に佇むのが『茶屋 花華』。団子は米粉から、お餅は餅米から店で作る自家製とあって、甘味を目当てに訪ねる参拝客も多い。昨年新設された絶景のテラス席は、週末に予約殺到するほど人気なのだとか。
布施弁天から南へ少し歩くと、さっきテラスから見た『あけぼの山農業公園』の花畑が目前に広がる。例年10月上旬~11月上旬はコスモスの紫や白、オレンジで一面が色鮮やかに。風車を借景にしたコスモス畑を撮影しようと、あちこちでカップルや夫婦がスマホでパシャリ。
君は「北の鎌倉」を知っているか?
幸せいっぱいな花風景を後にし、一路、我孫子駅へ。約12kmのロング散歩はここでゴールとなるが、駅からハイキングの手賀沼散策コースは我孫子駅がスタート地点。北口から上り坂を経て『あけぼの山農業公園』を目指す。公園でコスモスの絨毯を観賞したら、のどかな畑を抜けて、駅方面にUターン。常磐線・成田線の高架を下り、我孫子駅の南側へ出る。
農家や田畑の多かった北側と違い、手賀沼のある南側は閑静な住宅地。緑豊かな水辺の土地は、かつて別荘地として栄え、明治時代末頃は「北の鎌倉」とも呼ばれるように。柔道の創始者・嘉納治五郎も明治44年(1911)に別荘を建て、手賀沼の環境保全運動に尽力したそう。現在その別荘跡地は小さな広場になっていて、治五郎の銅像が手賀沼を見つめていた。
柔道の父と小説の神様が惚れた土地
治五郎の甥で民藝運動提唱者の柳宗悦(むねよし)も、治五郎の呼びかけで手賀沼に移住。その宗悦が友人の志賀直哉や武者小路実篤を誘ったことで、白樺派の文人たちが手賀沼のほとりに集った。今も界隈には、文学の薫りがそこかしかに。『我孫子市白樺文学館』では、志賀・武者小路の原稿・書画に加え、雑誌『白樺』全160冊の表紙を展示。『志賀直哉邸跡』では当時の書斎を復元し、土・日の10~14時には一般公開されている。途中、すれ違ったワンピースの若い女性は、白樺派好きの文学少女だったのだろうか。
手賀沼の絶景がラストスパートを後押し
文学散歩の途中で寄り道したいのが、黄色い軒先テントが目印の『大正煎餅』。こちらは昔ながらの手作りにこだわり、1~2枚単位で個別包装している煎餅もあるから、買い食いにもってこい。何を買おうか目移りしてると、隣で常連さんが「これ10袋!」と田舎揚げを大人買い。
ハケの道を抜け、我孫子市若松の大きな交差点に出ると、手賀沼が見えた。手賀沼ふれあいラインまで戻ってきたのだ。沼のほとりのコスモス畑の先には、丸い屋根の手賀沼親水広場『水の館』が。直売所を併設しているので、地元野菜や加工品を土産に買うのもいい。というか、安くて鮮度がいいので我が家もよく買いにきてます。
高野山新田のT字路で手賀沼ふれあいラインを離れ、北へまっすぐ歩いていけばゴールの天王台駅。コース前半は水田やお花の絶景、地元の恵みを享受でき、まるで里山を歩いたような充実感が得られた。後半は風光明媚な手賀沼周辺と、その景色に惚れた文人たちの残り香が印象的。
やっぱり「駅からハイキング」のコースは、地域の魅力をどこまでも深掘りしてくれる。江戸川の先に何があるのか、地元民の僕ですら謎の多い常磐線だったけど、「駅からハイキング」に参加すればお手軽に街が楽しめるから、その後何度でも散歩したくなっちゃうのだ。皆さんもぜひ!
[JR東日本ニュース]常磐線の魅力を発信するため、沿線自治体などと連携しイベントを開催します!
取材・文・撮影=鈴木健太