毎日食べたい日替わりの本格カレー
高円寺駅の西側ガード下に延びる高円寺ストリートを抜けて、ひたすら阿佐ケ谷方面へ。5分ほど歩いた高架下脇に、緑色の芝生が広がる開放的な空間が現れる。その敷地の1階で営業するのが『アンドビール』だ。
聞けば、ここは以前JRの社宅だったという。それをリノベーションし、1階部分には『アンドビール』をはじめとした飲食店やショップが店を構えている。上階は居住スペースとなっているため、これらの店はここに住まう人たちのコミュニティスペースとしての役割も果たしているようだ。
そうした背景から『アンドビール』の店内も、どこか住居の名残を感じる造りになっている。カウンター席とテーブル席は3つのスペースにまたがって配置され、それぞれに異なる雰囲気を味わえるようだ。
カウンターの奥には、8つのタップがのぞく。店名に“ビール”とあるように、この店は自家製のクラフトビールを名物にしている。2019年に醸造所を高架下の一画に移しているが、それまでは店内に醸造所を併設するかたちで営業を行っていた。醸造所の移設に伴い、客席スペースを拡張し、現在のようなレイアウトにリニューアルしたのだという。
自家醸造のビールとともに、もう1つの名物となっているのがインド亜大陸のカレーをベースにした本格カレーだ。夫婦で営むこの店は、妻の安藤祐理子さんがビールの醸造を、夫の耕史さんがカレーをはじめとするフードを主に担当している。
耕史さんは、学生時代からバックパックひとつで世界を旅することを趣味とし、これまでに30~40の国を訪れてきたという。その国々で味わってきた名物料理や郷土料理から得たインスピレーションを、自身が最も好きな“カレー”のレパートリー考案に活かしている。というのも、この店のカレーは用意する3~4種類全てがほぼ日替わりとなるのだ。
ベースとなるのは、南インドやスリランカで食べられているカレー。耕史さんが旅の間に現地のレストランで学んだり、ホームステイ先で教わったりした作り方がもとになっている。この日提供していたのは、南インド西部に位置するケララ地方のカレーに牡蠣を加えたものと、スリランカ風のチキンカレー、そして岐阜県郡上市の味噌を使ったキーマカレーの3種類。基本的にカレーはどれもスパイシーながら、それぞれの食材の風味を活かした味わいに仕上げている。全種類がけでオーダーすると、その風味や食感などの違いも楽しめるはずだ。
コロナ禍にも負けない新たな取り組み
コロナ禍をきっかけに、木樽熟成ビールの製造をスタートした同店。山梨県に専用の醸造所を設けたことで、今では東京と山梨の2拠点生活だと耕史さんは話す。旅を愛する安藤夫妻は、自由に海外旅行に行けなくなってしまった状況でも、国内で新しいことにチャレンジしながら旅するように生活を送っている。
山梨では畑も所有し、カレーに使用するカレーリーフや青唐辛子などを自ら栽培しているという。地元の農家さんとも交流を持ち、彼らが育てた食材もビール造りやカレー作りに活かしている。
カレー同様、店で提供しているビールも毎回異なる種類を醸造するのが特徴で、旬の素材などを使い季節感を意識したラインナップが楽しめる。店内でのアルコール提供が制限されている2021年9月現在は、ペットボトルなどに入れてビールのテイクアウト提供も行っている。「タンブラー持参で来てくださるお客様もいて、ありがたいです」と耕史さん。
店内で再びアルコールが楽しめるようになった暁には、ぜひ特製のカレーとビールのペアリングを楽しみたいと心から思わずにはいられなかった。
『アンドビール』店舗詳細
取材・文・撮影=柿崎真英