華やかな佇まいの洋建築が、異時間へのショートトリップへと誘う

大正ロマンを感じる洋建築『田中屋住宅』。この1・2階部分が『アートカフェエレバート』。裏手の元・居住箇所には、姉妹店である『和創菜と四季のすし 風凛 furin』がある。

カフェが入る「田中屋住宅」は大正4年(1915)築と、川越最古の洋風建築。当初は鉄砲と輸入自転車を扱う「櫻井鉄砲店」が店を営んでいた。

その後「田中屋」として修復されたのは1994年(平成6年)。2007年3月まで「田中屋美術館」として、川越出身の芸術家の作品や田中利明氏が収集したコレクションを展示していた。

現在の『カフェエレバート』が開店したのは2007年10月のことである。

柔らかな光が降り注ぐバーカウンター。ここで丁寧にコーヒーを淹れている。

建物の中へと一歩足を踏み入れると、たちまちタイムスリップしたかのような感覚に。

1階はどこか欧風の雰囲気を感じる、華やかで気品にあふれた空間だ。赤い絨毯が敷き詰められた階段を登ると一気に様相が変わり、2階には蔵造りの名残が随所に感じられる。

外観は洋館で内装が蔵造りという貴重な意匠建物であり、二面の雰囲気を楽しむことができる。

昭和に活躍した地元画家、吉田茂承氏による川越の街並みを描いた水彩画が印象的だ。

晴れた日にはぜひ窓際席へ。

蔵の格子を思わせる窓枠からは、蔵造りの町並みがちらりと覗く。窓から差し込むやわらかな日差しが心地よい時間だ。

窓際の席からは蔵がちらりとのぞく。

自家製さつまいもプリンと厳選されたコーヒーが格別

トアルコトラジャコーヒー600円、自家製さつまいもプリン550円。セットで100円引き。

ここを訪れたのならば、まずは自家製さつまいもプリンを。

川越の名産といえばさつまいも。そのさつまいもをペーストにして練り込んだプリンは、ほんのりと舌触りがある食感だ。底に眠るカラメルは、プリンの食感に負けないように工夫された、ビターな味わい。プリンとともに口に運ぶと、変化した味わいが楽しめる。

厳選されたコーヒーは、トアルコトラジャと、トラジャブレンドの2種類を揃える。老舗珈琲メーカー「キーコーヒー」提携店の中でも、数限られたマイスター店でしか扱うことのできない、貴重なストレートコーヒーだ。

クリアな色味のコーヒーは、軽い酸味を含んだ浅めの味わい。花のような華やかな香りとほのかな甘みが後味として残る。

 

コーヒー以外にも懐かしのクリームソーダや、自家製ドリンクなど、子供から大人まで楽しめる多彩なラインナップ。

グリーンとゴールドを基調にした、このカップ&ソーサーがトアルコトラジャの証。

『アートカフェエレバート』は、コーヒーだけではなく、ビールの愛好家にとってもこの上なく貴重な店だ。

というのも、今や世界を代表する、川越生まれのクラフトビール、COEDOビールがレギュラー全6種類、常時樽生で提供されるのだ。日頃は瓶ビールでしか味わえないビールが、ご当地では樽生でいただけるというのだから、これほど嬉しいことはない。

さらにCOEDOビールの限定シーズナルビールも樽生で取り扱うと聞けば、足繁く通いたくもなるだろう。

過去販売された貴重な限定COEDOビールの数々。当店では瓶ではなく樽生でシーズナルビールを提供している。

街を愛す心が、伝統と革新を守り続けている

地産地消をメニューに取り入れているこの店からは、並々ならぬ川越への愛情を感じる。スタッフの石井さんも、川越の街を愛する1人だ。

「川越で生まれ育ち、好きな街で何か貢献したいと思い、この店で働き始めました。大きく変わりゆく街にたくさんの人が訪れるようになって嬉しいですね」。

生まれも育ちも川越という、スタッフ石井陽登さん。スタッフはこの街のことが好きな人ばかり。

歴史と文化を感じるこの空間で、文明の革新により生み出された気鋭のビールと名産スイーツをいただくというのは、まさに歴史の新旧が融合される瞬間だ。

こうした瞬間を味わいながら過ごす時は、訪れる人にとって格別の体験となるだろう。

住所:埼玉県川越市仲町6-4/営業時間:11:30~17:30LO/定休日:水/アクセス:西武鉄道新宿線本川越駅から徒歩10分

取材・文・撮影=永見 薫