海外放浪の中で出合った台湾料理の旨さ
20代で世界各地を放浪し、各国の料理を食べてきたというオーナーの竹峰さんが「旨い!」と感じたのは、とある台湾の中華料理店だった。現在その店はオーナーの高齢により閉店してしまったが、どれを食べても本当においしく、中でもエビマヨネーズが絶品だったという。
その店で1年半ほど修業し、2004年、赤羽の駅チカ商業施設「ビビオ」に『麒麟菜館』をオープンした。台湾で学んだエビマヨネーズは、初期の看板メニューだ。マヨネーズから手作りする自家製のソースはフルーティーで、プリプリしたエビと相性がばっちりと評判に。今でも常連がよく頼むメニューのひとつとなっている。
しかし、開店当初と今とを比べると味は変わった、と話す。変更や修正、そして工夫を凝らし、変化してきたからだ。常に見直し、改良を続ける。これが竹峰さんのスタンスだ。
これが酢豚?肉の大きさと、潔いまでのシンプルさがインパクト大
肉の大きさに驚いた。テニスボールくらいあるように思える豚肉の塊が3個、そして具は玉ねぎ少々のみ。ここまでシンプルな酢豚もなかなかない。ランチの定食には、ごはんのほかに麻婆豆腐とスープ、デザートが付き、ボリュームも満点だ。
湯気に乗って、ふうっと酢のいい香りが立ち上った。黒酢だけでなく、砂糖や日本の酢などを配合したタレは、むせるような強いものではなく、さわやかな酸味を感じさせる。とてもおいしそうだ。しかし、こんなに大きな肉塊、かぶりついたら熱いだろうな……。
箸で切れるやわらかさ! ホロホロの豚肉を堪能する
箸で割ると、見た目ではわからなかったが肉がとても柔らかい。いとも簡単に割ることができた。
大きな肉は、そのまま調理すると固くなったり煮崩れたりしがちだが、低温で12時間加熱する手の混んだ手法を取ることで、とてもやわらかく仕上がっている。適度に割った肉を口の中に放り込むと、ぎゅっと旨味の詰まった肉が噛むたびにほろりほろりとほどけていく。じっくりと火を通した肉は、食べごたえはもちろん、酸味のある甘いタレにも負けない強さがあった。
衣も薄く、赤身の肉はまろやか。そしてタレの酸味と甘味も絶妙でしつこさを感じないので、豚肉3個で250〜300gという相当のボリュームでもぺろりと完食。ごはんがどんどん進む味だが、紹興酒にも合うだろう。
小鉢の麻婆豆腐が唐辛子の「ピリピリ」だけでなく、きちんと「ビリビリ」しているのも本格台湾料理ならでは。デザートの杏仁豆腐の柔らかさもいい塩梅で、950円はかなりお得感を感じた。
濃厚さが自慢! 人気の海老担々麺
最近とくに人気があるのが海老担々麺だ。大量のエビの頭を炊きだして作る海老ダレは、かなり濃厚。白ごまの担々麺との相性が抜群だ。
一口スープを飲むと、華やかなエビの風味が抜けていく。そして幅広の麺にクリーミーなスープがよく絡み、ボリューム満点の一品だ。
これからも試行錯誤を続けたい
好きな食べ歩きをしながら、常にメニューの改良と考案をしている竹峰さん。げんこつ黒酢すぶたにしても、10年以上前からあるメニューだが、現在の柔らかさにたどり着き、ホロホロに磨きがかかったのは最近だという。そして、これが「完成形」というわけでもないという。
「自分が食べてみたいと思ったメニューをお客さんに出してみて、反応が返ってくるのがおもしろい」この好奇心と探究心が新たな料理を生んでいるのだ。
今後も研究と進化を続け、新しい味にたどり着く。進化する台湾料理店は今も、そしてこれからも目が離せない、楽しみな店だ。
取材・⽂=ミヤウチマサコ 撮影=麒麟菜館、ミヤウチマサコ