月島駅6番口を出てすぐ。佃大橋へと続く新富晴海線の傍らにそびえ立つ大規模レジデンス、ライオンズタワー月島。その敷地内に、ふと気になる看板が。
<路地の再生>
ふむふむ。どうやら4本の路地をデザインに取り入れた設計となっていると。好奇心の赴くままにちょっと寄り道。
鬱蒼と茂る植栽は、無秩序にみえてあえてそうなるように計算されたものなのだろう。適度な圧迫感が、月島のもんじゃストリートから枝分かれしている路地を彷彿とさせなくもない。道端の怪しげなオブジェは道祖神だそうな…怪しげは失礼ですね、ミステリアスですね。
ふと目の前へ視線を上げると、なるほど合点。
道路を1本隔てているとはいえ、マンションの路地から佃2丁目の路地へと地続きになっているような感覚に。
こちらだけではなく、もう一方も同様。敷地内だけで表現するのではなく、地域に根付いた存在として配置されているのはどこか心地良さを覚えます。
マンションに併設された育児施設から漏れる、子供たちの無秩序で元気な声をバックに、しばらく路地の向こう側を眺めていました。
さて、しんみりしていると脳が糖分を欲してきたので(私だけ?)月島の重鎮へ。
来年創業100周年を迎える和菓子屋さん「古埜木堂」さんの前には、粉ものと大人のジュースで上機嫌な若者たちが、お土産用の和菓子を見繕っている。
ふふふ、良い後光景。
私も名物のあんず巻きを。
楕円の一枚皮で両側から中餡を包み込むような、いわばホットドッグのごときスタイル。
指先から伝わるずっしりとした重力に若干の違和感を覚えたあと袋からそっと取り出せば、想像の二歩先を行くドライ杏子の量。小指の爪より一回り小さいかな、という程度に刻まれた杏子は、こしあんよりも多いのではないかというほど。ぽってりとしたこしあんは、濃厚な甘酸っぱさを皮と同様にそっと包み込んでくれるかのうなサポート役。やや大き目の一口では3ターンで終了してしまう程小ぶりですが、ぎゅむっとした歯ごたえの杏子が食べ応えを演出してくれるので、うんうんと頷きながら食べつつ満足。
奇抜のひとことで片づけられないのは、確かな歴史と時代と共に受け継がれてきた腕前があるからこそ。
「来年の100周年には、なにかご用意なさったりするんですか?」
「何がいいかしらねー?」
「紅白の餡とか…いっそお赤飯を包んじゃうとか…」
「あー!いいわねぇ!!」
明るい若女将と世間話をしながらお店を後に。
100年の間にこの街の変貌をこの場所で眺めてきた重鎮の味は、懐かしいというひともいれば、おそらく先ほどの若者たちのように新しい味という人もいるのでしょう。
路地も然り。
路地に郷愁の念を覚える人もいれば、子供たちのように現在進行形の魅力を感じている人たちもいる。
懐かしいだけで終わらせてしまっては、路地の魅力はいつか忘れされられてしまうのでしょう。極端ではりますが。
ノスタルジーな魅力を子供たちにも伝えていくためには、新しく作る、すなわち再生していくことにも目を向けていかなくてはならないのでは、と思う次第であります。
「杏子(案ず)るより産むがやすし」
おあとがよろしいしいようで。