其の一 三ちゃん食堂〈新丸子〉
昼から食堂と居酒屋の両面使い
開店は昼の12時。細長く並べたテーブル席に、焼肉丼やチャーハンをかき込むサラリーマンと、串カツなどをつまみに昼酒を楽しむ赤ら顔が相席する。そう、これが『三ちゃん食堂』の日常の光景なのだ。1967年の創業当時は中華料理屋だったが、2代目の中山知久さん曰く「お客さんの要望でいつの間にか増えちゃった」品書きは、なんと140種。おひたしにハムエッグ、餃子など和洋中が100円台から。短冊とにらめっこしつつ、昼飲みの作戦を練るのも一興だ。
『三ちゃん食堂』店舗詳細
其の二 呑み喰い道楽 石松〈野毛〉
鯨に青魚、旨い刺し身が自慢
飲んべえが彷徨う野毛仲通りで、名物の鯨料理を酒のアテに、昼過ぎから暖簾をくぐる人も多い。地元市場から仕入れる鯨をはじめ、イワシやアジ、サバなど鮮度が求められる青魚も絶品揃いで、刺し身だけでも20種以上、焼き、揚げなど好みの調理法でも味わえる。先代は元レーサー。車をこよなく愛する常連も多く、居心地のよさに3〜4時間飲んでいる人も。「長っ尻、大歓迎です」と、甥の堀弘樹さんが先代の遺志を受け継ぎ、店の味と暖簾を守っている。
『呑み喰い道楽 石松』店舗詳細
其の三 いづみや本店〈大宮〉
懐の深さを感じる名物メニュー
大宮駅東口の目と鼻の先にある、昭和の面影を色濃く残す大衆酒場。戦後すぐの1947年から変わらぬ佇まいで、朝10時には開店する。温もりたいなら、やかんから豪快に盛りこぼしで提供される熱燗250円を。具沢山なもつ煮込み170円もこの店のコスパの高さを象徴する一品だ。ありがたいことに、客のほとんどが注文するこの名物は、30年間値上げをしていないという。“大宮の名酒場”と長年愛される理由は、何よりこの一品が物語っている。
『いづみや本店』店舗詳細
其の四 大衆酒場 増やま〈船橋〉
昼下がりから地元酔客が憩う
自身、大衆酒場が大好きという代表の村田良介さん。「若い人にも暖簾をくぐってほしい」と2015年に創業し、昼飲みからにぎわう繁盛店に。肉豆腐やイワシ刺といった定番にまぎれ込む、アボカド天ぷらやサモサなど若者ウケする品書きにもそそられる。ボトルキープの数がおびただしいキンミヤは、レモンやお茶割りのほか、モヒートで楽しむという今風の飲み方も新鮮だ。敷居は至って低く、一人客でもコの字カウンターになじんでしまう。
『大衆酒場 増やま』店舗詳細
其の五 市民酒蔵 諸星〈新子安〉
市民酒場としての歴史ある老舗
創業は昭和初期、かつて角打ちだったという店。だからか、蔵元直送の「東鏡」をはじめ日本酒の種類は豊富、ほかにも焼酎、ビール、ホッピーとなんでも揃っている。店の歴史と渋さを象徴するのは、横並び一直線に延びる年季の入った木のカウンターだ。名酒がずらりと並んだ酒棚と短冊をも肴に楽しめる。時代を遡れば闇酒が横行した戦時中、200あった県主導の市民酒蔵の一つだったが、今ではその歴史と昭和風情を受け継ぐ希少な一軒となっている。
『市民酒蔵 諸星』店舗詳細
構成・文=都恋堂 撮影=本野克佳 山出高士
MOOK『散歩の達人 東京町酒場』より