手間を惜しまない仕込みと洗練された動き
店に入ると、店主の濱さんがタンメンに入れるキャベツを切っていた。かなりたくさんの量が必要だろうから、一気にざくざくと切っていくんだろうな、と思っていた。が、そうではなかった。
芯を取り、外側の青い部分は細く、内側で少し青い部分はちょっと太く、内側はもう少し太く……。数枚ずつ、丁寧に。全部切ってから混ぜてばらつきをなくす。
そのほうがおいしいから、という濱さん。手間も時間もかかる作業だが、食感の違いが楽しめて無駄も減る。和食の料理人だった濱さんらしい心遣いだ。
和食の経験が生きる、無駄のないスープ
残った野菜の芯はスープに入れる。野菜のほかには、げんこつ、鶏や豚の脂身やスジなどが入る。この豚の脂身は、チャーシューを作る際に取り去ったもの。同時にスジなど、食感の悪い部分も丁寧に取り、スープに入れてしまう。
かくして野菜の芯や脂身やスジの旨味がたっぷり入ったおいしいスープのできあがりだ。スープで使わなかった分の脂はラーメンに使う醤油ダレに利用されるそう。地道な作業が必要だが、無駄はない。
「食材についての考え方は、和食の経験が生きてるような気がします」
そう話す濱さんの隣では、今日使い切る分量のスープが寸胴鍋で煮込まれていた。
シャキシャキの野菜がたまらない絶品のタンメン
初代よりも野菜のボリュームがアップしたというタンメンは、キャベツの外葉の緑の彩りが美しい。上品な仕上がりだ。
少し脂の浮いた透明なスープは、じんわりと旨味が広がるやさしい塩味で、野菜の甘みが感じられる。体にすうっと染み透るよう。
中太のストレート麺と野菜を一緒にいただく。丁寧に刻んだ野菜はさまざまな食感があり、つるつるした麺との相性がいい。さらりとしたスープが野菜とうまく絡み、スープ、麺、野菜のバランスも絶妙だった。心も体もあたたまり、なんだかほっこり。とても幸せな満腹感だ。
また、タンメンに350円プラスでチャーシューを入れることも可能だ。豚モモ肉で作る薄切りのチャーシューは、脂を取り去って煮るため脂っこさは感じない。凝縮された旨味がたっぷりだ。
チャーシューも野菜と同様、同じモモ肉でも場所によって味が違う。そのため、「なるべくいろいろな食感を楽しめるように違う部位を乗せるようにしてます」とのこと。どこまでも、細やかな心遣いがある名店だ。
取材・⽂・撮影=ミヤウチマサコ