「誰もが思い浮かべるようなおいしいラーメン」
入店すると、カウンターと大テーブル、そして普通のテーブルが余裕をもって配置されている。どことなく大衆食堂を思い出させるような造りだ。床もテーブルも磨き上げられていて清潔感も申し分ない。
メニューはまず支那そばの欄に醤油、みそ、ごまだれ、ワンタン、海老ワンタンなどが並び、つけ麺もある。おつまみの部にはザーサイやピータン、牛スジに豚の角煮など中華屋さんの一品もののようなメニュー。飲み物も種類豊富な芋焼酎を筆頭に、多彩なお酒が用意されている。
ランチだけでなくチョイ飲み、そして締めのラーメンまでここだけで満足できてしまう。
本日はランチタイムなので、支那そば醤油味800円を注文。
やってきたのは、頭の中にある「おいしい醤油ラーメン」のイメージをそのまま取り出したかのような王道のラーメンだ。
しっかりと出汁のとれていそうなカラメル色に近いあめ色のスープ。澄んだスープにキラキラと浮かぶ脂。歯ごたえがしっかりめなチャーシュー。玉子、メンマ、カイワレと添えられた海苔。そして細い縮れ麺。
きっと期待通り、いやそれ以上であろうという安心感を与えてくれる。
まさにこれ!な醤油ラーメンの味を守る
いざ実食。ぷるっとした細い縮れ麺にしっかりと鶏ガラの醤油スープが絡みつく。出汁と醤油の効いた、それでいて品のあるスープは、脂の具合もちょうどよく滑らかに滑り込んでくる。
チャーシューは歯ごたえを感じさせつつ、口の中ではほろりとほどける。味はガツンと効いているがそれほど主張は強くなく、スープと合わさることで最高のポテンシャルを発揮する。味が染みた玉子も、濃厚な黄身のコクがスープの風味を増幅してくれる。カイワレの清涼感が味覚の変化を与えてくれ、少しの飽きも感じさせず最後の一滴まで飲み干した。
店長の山崎博之さんは2023年4月より店長を務めているが、先代は元々葛西の『ちばき屋』で修業をしていた。『支那そば晴弘』は『ちばき屋』ののれん分けだそうだ。
「ここの味は先代と料理長が作り上げたもので、料理長は今もその味を守ってくれています。鶏、豚のゲンコツ、野菜といった基本的なものをベースにしたオーソドックスなスープですね。麺は『ちばき屋』さんと同じ『カネジン食品』さんです。細い縮れ麺がスープに合うんです」。
現店長の山崎さんは九州出身で、『晴弘』に来る前は『一風堂』や東銀座の『やまちゃん』など豚骨ラーメンを扱うお店を経験してきたという。
「本当はここでも豚骨ラーメンをやってみたいという気持ちもありましたが、まず設備の関係で無理でした。それにここでお客さんを見ていると、やはり皆さん正統派の東京醤油ラーメンを求めていらしているので、下手に豚骨も展開してしまうとバランスが崩れてしまうかなという気持ちになってきました」
愛され続ける味を守るものはお客さんへの想い
「基本的にはオーソドックスなスープですが、塩ラーメンにはパクチーが入ります。注文を受けたときに入れるかどうかは確認しますけど」お客さんへの気遣いを、山崎さんは穏やかに話してくれた。
「いわゆる地域に密着した町中華という感じですね。子どもからお年寄りまで食べやすい味ですし、気軽に食べたり飲んだりというお店です。おつまみも多いので飲みにもいいですよ。締めのラーメンも食べられますから」
「正統派醤油がメインですが、季節ごとの限定メニューもやっています。冬限定の鰹ラーメンや、夏は冷やし支那そばもやっています。冷やし中華とは違って、山形ラーメン的な冷たくて少し酸味の効いたラーメンなんです」
正統派の醤油ラーメンと、さらには限定メニューまで。思わず何度も足を運びたくなってしまう名店だった。
取材・文・撮影=かつの こゆき