【財津一郎編】2つの劇中コントで笑ってちょーだい!
財津一郎の『男はつらいよ』シリーズ出演作は、
第2作『続 男はつらいよ』
第4作『新 男はつらいよ』
の計2作。
同じチョイ役俳優でも笹野高史(計12作)、イッセー尾形(計5作)などに比べて少ないものの、そのインパクトは永遠に記憶に刻まれることだろう。
第2作『続 男はつらいよ』患者役
寅さんか暴飲暴食で運ばれた病院で、運悪く寅さんの隣のベッドになった患者役。
回復した寅さんが患者を集めて笑い話をかましていた際、
「笑わせねえでくれ~。俺ぁ昨日、盲腸切ったばかりなんだ~」
と手術箇所を押さえて悶絶する財津さん(が演じる患者)。キビシー!
苦しむ患者には気の毒だけど、その断末魔の表情が圧倒的な笑いを誘う。
第4作『新 男はつらいよ』泥棒役
第2作の共演者や関係者には申し訳ないが、『男はつらいよ』における財津さんの真骨頂は間違いなくコチラ!
ご近所から大仰に見送られて、ハワイ旅行に出発した寅さん以下「とらや」の面々。しかし、旅行会社の代金持ち逃げが発覚し、バツの悪い一家は夜中にこっそり帰宅して息をひそめる。
あろうことかそこに忍び込んできた泥棒(演:財津一郎)。あえなく拘束されることに……。
「も、もういいじゃないですかぁ。無抵抗なのに、そんなにひっぱたくのは卑怯ものですよぉ」
立場もわきまえず懇願する泥棒を許す気はない寅さん、
「博!”ひゃくとおばん“って何番だっけ?」
と聞くが、警察に通報したくても近所には知られたくない。
仕方なく泥棒を逃がすも、逃げたところを巡回の警官が確保。
「あたしは嘘はつきませんよぉ。嘘は泥棒の始まりですからねぇ」
往生際悪く無実を訴える泥棒が馬鹿馬鹿しい。
はたして「とらや」面々の努力もむなしく一連の騒動が近所に知られることに……。
ん~っ。もうこれは映画の1シーンという枠組を越えた究極の劇中コントだ! たとえ『男はつらいよ』を知らなくても、たとえ前後のストーリーを把握してなくても、このシーンだけで充分に笑えるほど完成している。
ここでの主役は間違いなく財津さんだ。渥美さん、森川さんといった稀代のコメディアンを喰っている。1シーンに懸ける真剣勝負だったのだろうか。迫力すら感じられる。
思い起こせば、主人公イライザの父親役で出演した舞台『マイ・フェア・レディ』のカーテンコールの際、初めてあんな盛大な拍手を聞いた。
「金八先生」の英語教師役も秀逸だ。「鬼平」シリーズに何度か登場した盗賊役も印象深い。
でも、この泥棒シーンを観ずして俳優・財津一郎は語れまい。
【犬塚弘編】シリーズに欠かせない神出鬼没の隠し味
犬塚弘の出演作は、
第7作『男はつらいよ 奮闘篇』
第21作『男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく』
第23作『男はつらいよ 翔んでる寅次郎』
第24作『男はつらいよ 寅次郎春の夢』
第28作『男はつらいよ 寅次郎紙風船』
第48作『男はつらいよ 紅の花』
の計6作を数える。
クレージーキャッツでもハナさん、植木さん、谷啓さんの強烈な個性を引き立てていた犬塚さん。『男はつらいよ』シリーズでも、軽い災難に見舞われるフツーのおじさんをさりげなく好演し、絶妙な隠し味になってましたね~。
第7作『男はつらいよ 奮闘篇』お巡りさん役
沼津駅前の交番の警官役。寅さんと一緒に保護した花子(演:榊原るみ)の世話を焼く。
神経質で融通の利かない小官吏と思いきや、結局、花子の旅費を工面してやるところなんざ、犬塚さん、なかなかの人情家だねえ。
第21作『男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく』温泉宿の主人役
熊本の温泉宿の主人役。
「明日お帰りになると聞いて、村んもんがサインば頂きたい言うてぇ」
留吉(演:武田鉄矢)の言を信じてか、寅さんを偉大な人物と勘違いしている様子。自身も部屋に寅さんの揮毫(「反省」の2文字)を掲げているし。
奥さんいるのに、いつも乳飲み子を抱えているのが気になる。複雑な家庭環境か、はたまたイクメンの走りか……。
第23作『男はつらいよ 翔んでる寅次郎』タクシー運転手役
ひとみ(演:桃井かおり)が結婚式から逃亡し「とらや」に向かった際に乗ったタクシーの運転手役。
思わぬ災難に見舞われながらも、何とかタクシー代4600円は徴収しようとする執念が小市民らしくてイイ。
第24作『男はつらいよ 寅次郎春の夢』大工の棟梁・茂役
満男の英語塾の先生宅の増築を請け負う大工の棟梁・茂役。寅さんとは幼なじみ。
何かかみさんに知られたらマズイ秘密を寅さんに握られているらしく、工期の短縮や資材のグレードアップを強いられた模様。
電ノコの騒音で掻き消されている二人の密談の内容がとても気になる。犬塚さん、何やらかした?
第28作『男はつらいよ 寅次郎紙風船』大工の棟梁・茂役
川魚料理店「川甚」(2021年閉店)で開かれた柴又小学校の同窓会で、第24作に続き大工の茂が登場。
「棟梁~、どした?相変わらず材料ごまかして儲けてるか?」
と、少なくとも寅さんの中ではインチキ大工っぽい。
他の同級生も保男(演:東八郎)、カワウソ(演:前田武彦)と多士済々で実に楽しそう。みんな鬼籍に入っちゃったけどね……。
ともあれ実に味のある大工の茂。できれば、ポンシュウ(演:関敬六)、備後屋(演:佐山俊二)級の準レギュラーになって欲しかったなあ。
寅さんの柴又ラストシーン。犬塚さん送り届ける
第48作『男はつらいよ 寅次郎紅の花』タクシーの運転手役
シリーズ最終作である第48作最後の山場、すねたリリー(演:浅丘ルリ子)が「とらや(くるま菓子舗)」からタクシーで去ろうというシーン。その時の運ちゃんが犬塚さんだ。
「さんざん待たせて1メーターかよ。ハイハイ、行きますよ」
迎車で待たされた挙げ句、行き先が金町と聞いて不貞腐れ気味。さらには、
「男が女を送るって場合にはなあ、その女のウチの玄関まで送るっていうことよ」
寅さんがシリーズ最後のダンディズムを見せた後、行き先が奄美大島に変更となり、運ちゃんクルマを停めて激怒する。そら怒るわな。
「降りてくれよ! こっちは真面目に働いてるんだよ! そっちの冗談、付き合ってられないよ!」
結局、行き先は羽田空港となり、寅さんの荷物を持って追いかけてきた三平ちゃん(演:北山雅康)も追いついて一件落着。2人を乗せたタクシーは柴又を後にする。
思えばこれが全48作26年に及ぶ長い物語における、寅さんの柴又でのラストシーンだ。タクシーが2人を未来に運んだみたいにも思えるし、寅さんを別の世界に送り届けたようにも見える。
その運転手役が名優・犬塚弘であったのは単なる偶然……じゃないよね。
財津一郎さん、犬塚弘さん、ふたりの名チョイ役の逝去に際して、出演シーンを観返してみた。
チョイ役と言えど、どれも欠かすことのできないワンピースだ。彼らが紡ぐ何気ないシーンの数々が、国民的映画シリーズ『男はつらいよ』を成り立たせている。あらためて、思い知らされた。
そんな名優に、1人、また1人と旅立たれてしまうのはさみしいけれど、いまは、いち邦画ファン、『男はつらいよ』ファンとして、ただただ感謝を捧げたい。
ありがとう。そして安らかに……。
取材・文・撮影=瀬戸信保 イラスト=オギリマサホ