飲んで食べて締めにラーメン
急な階段を上って店に入ると、店内には麻雀牌が貼り付けられたり、キッチュな置物があったり。日本の町中華と台湾の食堂をごちゃ混ぜにしたようなポップさがある。
カウンターとテーブル、合わせて12席ほどのこじんまりした店はオープンが19時でラストオーダーが25時と、夜遅くまでお酒も食事も楽しめる。
「お酒を飲みながら中華料理や懐かしさのある一品料理をつまみ、ラーメンで締める」。それがこの店のスタイルだ。
まずは、ということで、一品料理をいくつかとドリンクをお願いした。おすすめのドリンクはスパイスチューハイ。その名の通りスパイスが香るがほんのり甘くて飲みやすい。
焼酎にスパイスを漬け込んでいるものを想像していたが、スパイスをつけたシロップを作って、レモン汁と一緒にチューハイに加える。シロップはカルダモン、クローブ、コリアンダーなど5種類のスパイスを1週間以上つけ込んで、いい色に仕上がっているのが魅力的だ。
存在感のある豚足は、紹興酒とブランデー、数種類のスパイスを使ったタレを注ぎ足しながら、長時間煮込んでいる。箸でつまむとプルプルして、コラーゲンの塊のようだ。口に入れるとスパイスの風味が複雑に香り、注ぎ足したタレのお陰か、味に深みがある。
マーラーよだれどりも、鶏胸肉は程よく柔らかい仕上がり。そして意外な組み合わせのザーサイセロリは、箸休めのような存在だ。 シャキシャキした食感も残っていて、味、食感ともに口の中がリフレッシュ。
煮干し出汁のスープとパツっとした麺の相性よし
そして『黒黒黒』に来たら、忘れたくないのが締めのラーメンだ。煮干し中華そばは、煮干しと昆布を煮出したスープに、配合にこだわった4種類の醤油をブレンドしたカエシを加えている。スープのストレートな醤油味と、煮干し由来の苦味のコンビネーションは「お酒のあとにいいんですよ」とスタッフさん。
自慢のメンマが惜しみなく使われているのも特徴のひとつ。シャキシャキとした食感の国産のメンマは、干し椎茸と一緒に調理されていて旨味がたっぷりだ。
店には細麺と太麺がある。細麺は低加水で歯ごたえにパツっと感がある。煮干中華ソバと人気を2分するメンマソバ800円は太麺が使われ、自慢のメンマがたっぷり盛られた汁なし麺。締めのつもりで頼んだら、もう一杯だけとついついお酒をオーダーしたくなるつまみを兼ねたメニューだ。メンマはつまみメンマ450円としてもオーダー可能。店の自信がうかがえる。
コロナ禍のオープンも柔軟な営業体制で人気に
19時のオープン直後には、1件目としてお酒とつまみで食事を始める人、遅い時間には仕事帰りの人から今日はもう3件目という人まで、男女問わずお客さんが訪れて店が賑わう。
店ができたのはコロナ禍の2020年10月10日。『黒黒黒』のある場所は、運営する会社が初めて開いた飲食店があった場所。感慨深いオープンから程なく、店は何度となくコロナ禍の大波に揺られることになる。
緊急事態宣言などの時には、昼営業を行ってはラーメンや定食をランチで提供したり、持ち帰り用にアレンジしたり、朝ごはんの時間帯に朝がゆを出す営業を試みたりと、そのときにあった最善の営業スタイルを採用するフレキシブルさで乗り越えてきた。
日中の営業時間に頻繁に通った人からは、今もラーメン店として親しんでくれている人も少なくないというから、スタッフさんたちの努力が印象深いのだろう。
店にたくさん貼り付けられた麻雀牌も、実は緊急事態宣言中にスタッフみんなで作業。当初は壁全体に貼る予定だったが完成する前に、規制が緩和され営業が再開できるようになってしまったのだとか。
ポップな雰囲気の中でいただける本格的なラーメン。そしてその前に食べたい一品料理とお酒。柔軟な使い方ができる店として覚えておきたい。
取材・撮影・文=野崎さおり